[そういう日常1]
キーンコーンカーンコーン
「あー。やっと終わった」
音澤 絢斗は、豪快に欠伸をして疲れ果てたように言った。
「いってっ!何すんだよマーヤ!」
「授業は、授業を受ける時間。寝る時間じゃない。」
そんな絢斗の頭を、仇篠 真綾が国語の時間で使う辞書で殴った。
それを見ていた『男子が痛そー!』と笑い声をあげると、それが合図だったようにクラスの人が一斉に話し出した。
『アヤトくんイビキうるさ過ぎ~。』とどこからか女子が言うと、他の女子たちも、うんうん。と頷いた。
「起こしてくれりゃ良いじゃねーか」
浴びせられた非難の声に絢斗がこっそり不満気な声をあげた。
「何回も起こしたわよ?ね、真綾」
操辻 遙華が真綾に言うと、周りの女子たちも頷いた。
「はいはい。帰るなり部活に行くなりしなさーい」
担任の碓氷 燈果が生徒たちを促すと、みんな部活や家に向かって教室を出て行った。
絢斗は自分から注目がそれた事にホッとして、遙華と真綾と共に、西校舎へ向かった。
西校舎は、廃校舎と化していて関係者以外立ち入り禁止となっており、数々の怪談がある。
「例えば!西校舎には
夜な夜な女性のすすり泣く声が聞こえるとか…」
遙華が指を折り数えながら、真綾や絢斗に向かって話していた。
「んなこと有るわけねーだろ」
絢斗がため息交じりに、呆れた声を出した。
「えー、でも見た人も居るって~!」
「私は幽霊なんて見たことない」
現実主義の真綾も無表情のまま、遙華に言った。
「居るったら居る~!」
「………ハルカがそう言うなら」
さっきまでの言葉とは一変、真綾は顔をほころばせ、遙華側についた。
一方味方が居なくなった絢斗は不利に。
「わーったよ、居る居る」
幽霊が居る居ないに情熱を持っていない絢斗もすぐに折れた。
「ふふん」
勝った遙華は誇らしげに鼻を鳴らした。
そうしていると三人は目的地に着いた。
西校舎は廃校舎と化しているにも関わらず、一番奥にあるこの部屋だけは綺麗に片付いている。
三人は慣れた様子で、躊躇なく部屋に入った。
ここは特殊能力部。
三人の所属している部活だ。
何故、部がこんな場所に有るのか、それは一般人にうっかり会話を聞かれないため。
何故、一般人に聞かれてはいけないのか、それは教師も含めた全員が能力者だから。
何故、能力者が集まっているのか、それは悪魔を倒し互いの身を守るため。
「どもー」
「失礼しまーす」
「失礼します」
三人は部室の中に入り次々と挨拶をした。
「やっぱり真綾ちゃんが一番丁寧ね」
そう言った女性は特殊能力部顧問であり、三人の担任でもある碓氷 燈果。
「まあ、愛想は無いがな。
全然笑わねぇもん」
絢斗は自分の荷物を隅に起き、欠伸をしながら言った。
「え?いつも笑ってるよね?」
遙華もその隣に荷物を置きながら首を傾げて言った。
「う、うーん…。いつも、では無いかな?」
「シスコ、ん゛!?」
燈果がフォローしようとするも、絢斗が余計なことを言ったため、真綾から一発食らった。
「どうしたの?」
しかも、遙華かが目を離している隙に。
「…あっ!今日はハッピーカラーで見回りよ!」
燈果が空気を変えるためか、にこりと微笑み、今日の活動内容を言いながらお菓子の準備を始めた。
「ところで何故お菓子?」
「…美味しいじゃない?」
真綾の質問にキョトンとした顔で答える燈果。
「いえ、そうでなく。何故学校でお菓子?」
「………美味しいじゃない?」
真綾が首を振ってそうでなくと言うも、燈果からは同じ答えしか返ってこなかった。
「…………」
諦めた真綾は皿に盛られたお菓子を大人しく食べ始めた。
「トーカさんって基本、天然だよな」
「え?そう?ってトウカ先生ね!」
注意された絢斗は特に気にせず、お菓子を食べてお茶に手を出した。
「ぐっ…ゴホッゴホッ」
お茶を飲んだ途端、絢斗は咳をしてまた悶え苦しんだ。
「アヤト!?大丈夫?!」
驚いた遙華が腰を浮かせて絢斗の背中を撫でた。
「トーカさん!?
お茶んなか何入れました!?」
絢斗は舌をヒーヒーと出しながら、お茶を指差しながら言った。
「何って…普通に砂糖を…」
「燈果先生それは砂糖ではなくデッドソースです」
燈果の持った器には、真っ赤なドロドロとした液体が入っていた。
「んでそんなもんあるんですか!?」
「え…なんでかしら」
二人がそんなやり取りをしてる間に、遙華は汲んできた水を絢斗にあげた。
一気飲みしてようやく落ち着いたようだ。
「砂糖とデッドソースをどうしたら間違えんだ…」
絢斗が溜め息を着くと、真綾は普通にお茶を飲んでいた。
「マーヤの舌って一体…」
自分の妹の味覚を心配に思いながら、食べ終わった皿を洗い始めた。