[そういう日常2]
ガコンッ
バスが揺れる鈍い音に、真綾は目を覚ました。
(…イヤな夢だ)
真綾の目の前から、遙華が消える夢。
それは真綾が最も恐れる光景だった。
『次は~ハッピーカラー前~ハッピーカラー前~』
バスの独特なアナウンスが流れた。
絢斗を叩き起こそうと真綾が左側を見ると、酷く魘されて居るのが目に入った。
(悪魔が近くにいるのか…、それとも私のせいか。)
真綾の能力は闇。
悪魔とも通ずるような悪しき力。
だからこそ、柊 志桜は真綾に仇篠の姓を与えたのだろう。
ハッとして、真綾の肩に頭を乗せて眠っている遙華を見ると、真綾は安心したように笑った。
魘されて居たのは真綾と絢斗だけらしい。
「闇よ…」
真綾が遙華を起こさないよう、そっと呟くと左手から出た闇が絢斗を包んだ。
少し経って、闇を左手に戻すと、絢斗は普通の寝顔に戻った。
(良かった…。私の、この忌々しい力も、
時には役に立つんだな…)
リミッターの制限すら、まるで効かない真綾の能力。
首に付けられた、青い蝶の枷。
しかし、リミッターの必要がないほどに、真綾の力は安定している。
真綾が安心していると、バスが信号でとまった。
そろそろ目的地に着く頃だ。
(可哀想だが、遙華を起こそう
そしてアヤトは置いていこう。それがいい)
真綾は心の中で笑い声を出してから遙華を見つめた。
「遙華、もう着くよ」
遙華の肩を揺すりながら、名を呼ぶと眠たそうに目を擦りながら遙華が起き上がった。
「ん、もう着くのか」
遙華を起こしたのについでに絢斗まで起きてしまった。
真綾が絢斗をじっとりとした目で見ていると、欠伸をしている絢斗と目が合った。
「…お前、俺を置いていくつもりだったろ」
勘のいい絢斗がそう言うと、遙華が後ろから少し怒った声を出した。
「もう、真綾がそんなことする訳ないじゃない」
「ああ、そんなことはしない」
真綾はさぞ当たり前のように、涼しい声でそう言った。
そんな真綾を絢斗はじとっと疑いの目で見た。
「…まあ、いいけど」
(次こそは置いていこう。)
真綾はそう考えながら、遙華の荷物を上から降ろし、そっと遙華に渡した。
そして、絢斗の荷物も降ろし、遙華から見えない角度で思いっきり投げた。
「うおっ…」
無気力な割に運動神経が悪くはない絢斗は、案外しっかり受け止めた。
(ちっ…)
遙華は絢斗の声に気づいて、大丈夫!?と駆け寄ったが真綾がしたことには気づいていない。
「遙華、早く降りよう」
「あ、うん!そうだね」
遙華は絢斗を心配しつつも、他の人にお辞儀をしていそいそとバスから降りた。
「―闇よ―」
真綾はそう言うと、闇を薄く伸ばし店中にはなった。
これほどの薄さであれば普通の人に見える事は無い。
それどころか、真綾にしか見えては居ないのだろう。
「便利だよなぁ、風とか千里とかさ。」
絢斗がその闇を目で追いながら、羨ましそうに呟いた。
「千里や柊は確かに使えるが、
風のようなものなら、二人もできる。」
真綾は自分の闇なのに汚いものを払うように、パンパンと手を叩いて当たり前のように呟いた。
「強弱と音でどうやって…」
「能力は願えば結構叶う。」
真綾の珍しく非現実的な言葉に、絢斗だけでなく、遙華も驚いていた。
「…真綾も願ったの?」
「私は…解らん。」
遙華の問いに、真綾はピンとしないように首を振った。
「俺らが願えば叶うっつうなら、お前も一緒だろ」
絢斗は自分の頭に手をまわして、真綾にそう言った。
「…遙華と一緒は良いが、
絢斗と一緒というのはな。」
「んなっ」
真綾は数回まばたきしてから、心底嫌そうな顔で言った。
「ふふっ」
二人の会話に遙華が嬉しそうに笑うと真綾も笑い、絢斗は苦笑いを浮かべた。
「―闇よ、我が手へ―」
何か引っかかったのか、真綾が闇を手に戻した。
それからさっきと同じように手を叩いた。
「見つかったか」
「ああ、屋上に追い込んだ。
下の上だ。警戒しろ。」
真綾はいつの間にか、良い仕事をしていた。
権悪魔。
普段、能力者の前に姿を現す中で最上の強さだ。
「めんどくせぇ…」
「出来るなら、私独りで倒す」
面倒くさそうな態度をとる絢斗に、真綾は怒る事なくチラリと見てからそう言った。
「出来なかったらやるさ」
「私も頑張るよ!」
真綾は二人の言葉に少し間をおいて頷いた。
「誰も居ないな…」
「居ない所を選んだ。」
真綾の言葉に絢斗はふーんと頷いてから、遙華と同時に、え。と真綾の顔を見た。
真綾はいつもと変わらず、無表情だ。
「…もちろん、追い出した訳じゃない。」
二人の視線に真綾が視線を前に向けたまま、ため息交じりに言った。
その言葉に二人は安堵した。
「安心している場合じゃない」
「あ、そうだね。
―パワー及びスピードアップ―」
遙華がそう言うと、真綾はオレンジと青の光に包まれ、遙華と絢斗も青の光に包まれた。
遙華の能力において、オレンジの光はパワー。
青の光は速さだ。
「真綾!」
絢斗の声に、真綾はハッとして背後からの攻撃をさっと避けた。
「―闇よ―」
真綾は地面に片手を当てて、自分の半径、三メートル以内の地面を闇で覆った。
この闇に脚を着けると、まるで沼に入ったように抜け出せなくなる。
しかし、真綾を攻撃したそれは瞬時にそれを察知しそこを避けた。
「犬…か。でかいな。」
四足のままでも、人の胸ほどの大きさがある犬だ。
真綾に向かって威嚇するように唸っている。
真綾はリミッターを変形させ、右手に短剣を持ち、左手に闇で作った短剣を取った。
真綾と犬の権悪魔はお互いを睨み合っている。
痺れを切らした権悪魔の方が先に攻撃を仕掛けた。
権悪魔は真綾に向かって鋭い爪で切りかかって来た。
真綾はそれを、右手の剣で受け、左手の剣で攻撃を仕掛けた。
権悪魔は右手の剣を軸にして、そのまま、跳びあがり再び真綾に襲いかかった。
真綾はそれをサッと避けた。
「―戦え、我らが正義の為に
戦え、我らが仲間と共に―」
絢斗の地が震えるような悲しげな響きに、権悪魔の動きは一瞬で鈍った。
そして、標的を変え、絢斗に攻撃を仕掛けた。
「リミッター、盾!―防御アップ―」
遙華の盾に権悪魔は弾かれ、空中で避ける事も出来ず、真綾によって退治された。




