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魔王の娘  作者: 瑞希
Libertas・Flamma
16/16

[三節…四節…。]

老人と少女の家に泊めて貰い、4日が過ぎた。

俺は薪割りや狩りやら…と、ここの生活に慣れ始めていた。

そして、その間に真綾が目覚めた回数は16回。

そのうちのどれも、真綾はまともではなかった。

闇はすぐに真綾の体から溢れだし、目につくもの全てを破壊しようとしていた。

…その闇は回数が追うごとに増える一方。


これ以上、二人に甘えることも出来ない。

明日こそは、どこか開けた場所へ行って、真綾が目覚めるのを待つ。

そう決意し魔界での五度目の眠りについた。


ゴソッ


微睡みのなか、俺の耳は何かが動く音を聴いた。

その主を確認するため、重い瞼と不明瞭な頭をなんとか持ち上げた。


すると、目の前に影が…真綾の後ろ姿があった。

「ま…」

「静かに。

 “何か”がる…」

振り向くとしっかりと前を見据える老人と、眠たそうに目を擦る少女が居た。

二人の姿を認め、俺の頭は僅かに覚醒した。


「何かって…なぁに…?」

少女が眠たそうに老人に聴くのを見て、俺は再び前を見た。

あれだけ真綾から溢れていた闇が今はない。

それとも、“何か”にだけ向かっているのか…。


まだ覚醒しきっていない頭を起こすために、俺は頭を振った。

…ここは神の林…神林しんりんと言うところだ。

この土地には普通の人は入れない。

入れるのは、強いもの、高貴なもの、そして天使ラティオだけ。

どれをとっても、俺達には危険なものかもしれない。


すると真綾は突然、走り出したー

と、同時に大きな音が響き、突風が起こった。

「ー闇よ!壁となれ!ー」

真綾がそう唱えると、闇は一気に溢れだし…真綾の言う通りに形を成し、盾となった。

その盾が創られた次の瞬間、バチバチ!!!と耳障りな電流の音が聴こえた。

扉越しに光を放った電気は真綾の盾に防がれ…というか吸い込まれた。

お陰で俺達には届かなかったが…、紙と木で出来た扉は丸焦げになってしまった。


「敵か。」

気付けばそう呟いていた。

何の感情もはらまない様な声で。

雷を放った敵は、まるで俺達を倒した熾悪魔のようだった…が。

恐らく、あれとは違う。

真綾がどう思ったかまでは解らないが。


俺は立ち上がり、外へ出ていく真綾を追いかけた。




何度目かの目覚めを受け入れた。

何度も何度も眠らされて…このままでは永遠に起きられないのも解っていた。

しかし、眠らせている相手が、絢斗であることが解ってる以上

私が眠らない、という選択肢を取るのは至難の技だった。

能力もあるのが、不本意ながら絢斗の声はとても安心する。

絢斗は覚えてないだろうが、小さい頃に私達姉妹を寝かしつけていたのは親でも誰でもない、絢斗だ。

絢斗が子守唄を歌っていた。

すぐに眠りにつく遙華を見て、釣られて私も眠り…。

いつのまにか、絢斗の歌だけで眠るようになってしまっていた。

何とかの犬という奴だな。

我ながら情けない。


そんな情けさなも、そろそろ潮時かと思い始めた今朝。

私の目覚めは、今までとは少し異なるものだった。

起こされた…と言っても過言ではない。

無論、絢斗に起こされた訳ではないが。

私は“何か”の気配を感じた。


「敵か。」

絢斗の声に私はなるほど。と黒こげの扉を丁寧に開けて外へ出た。

目にした“何か”は私が今まで思ってきた敵…即ち、悪魔リビドーとは正反対とも言える姿だった。

白い2枚の翼、清廉そうに閉じられた目、微笑みを浮かべるかのような口許。

いや、しかし、その本質は悪魔リビドーと変わりない。

あれらは、一番遠くにありながら、同一とも言える。

たった一つのことに捕らわれ、己を見失った、愚かで哀れな“何か”だ。


そう。


結局のところ、あれも私の敵だ。

「ハァァッ!!!」

そう結論付けた瞬間に、私は敵へ攻撃を仕掛けた。

一瞬で作った剣を敵へ振りかざしたのだ。

敵の強さは計り知れないが、人の姿である以上、油断はならない。

悪魔リビドーの人形は大抵において強い。


バチッ!!


鋭い痛みが走り、私は後ろへ下がった。

その痛みによって反射的に武器を落としてしまっていた。

もっとも剣は闇でいくらでも作れる。

落としたこと事態は、大した問題じゃない。


問題は…

「武器に電気を纏わらせているのか。」

いや…、むしろ武器事態を雷で作っているのか…。

痺れる手をグーパーしながら、私はどうするべきか考えた。

いつものように弓を使うか?

…しかし、今は仲間がいない。

構えている最中に襲われれば即アウト。待つのは死だ。

通常ならばそれでも仕方ないと終わるが、今回は目的がある。

魔王を殺すまで、私も死ぬわけにはいかない。


「真綾」

その声に振り返ると、絢斗と目があった。

自信あり気な目に眉を潜めると、絢斗は僅かに笑みを浮かべた。

その笑みに、私は思わず溜め息を吐いてから、釣られて笑った。


「―闇よ、敵を穿つ弓箭きゅうしとなれ―」

私がそう唱え、黒い光沢を持った弓を手にすると同時に、絢斗が大きく息を吸うのが聴こえ


“音”が響いた。


その歌とも言う“音”はどこまでも伸びやかに拡がり、私を、世界を、そして己を見失った敵をも包むように、またはそれら全てを無視するかのように、ただ自由に舞った。


これだ…

そう、これだ…!!!


私は自分が高揚しているのを感じた。

幼い頃…初めて悪魔の討伐をしたとき、そのとき一度だけ聴いた絢斗の“音”

絢斗がたった数音発しただけで悪魔達は…リビドーは意図も容易く霧散した。

絢斗の“音”は、音澤家の権威は、その圧倒的な強さにあった。


一節歌えば人は癒され、

二節歌えば悪は還えり…


昔、そんな歌を聞いたことがある。

ほら…、案の定、敵の動きが鈍ってきた。

動けなくなるのも時間の問題だろう。


矢を出して構えようとしたとき、敵の広角が上がるのが見えた。


何だ?何を笑っている…?

この状況下で、何故笑えるんだ…?


そう眉を潜めた瞬間、敵の上半身がダランと力を無くし、手が地面に着いた。

私はより一層眉を潜め、次の瞬間には絢斗を抱えてその場を離れようとしていた。


バチバチバチッ!!!!!


間に合わない…!

そう感じた私は自らの闇を地面に放出して空へ逃げた。


それとほぼ同時に辺りは光に包まれた。

突然の閃光に、何も見えなかったが痛みはない…。

何とか回避に成功したようだ。


「真綾!降りろ!」

何も見えないなか、絢斗の声だけが私の耳に届いた。

今、下へ降りれば感電してしまう気がするが…

絢斗の言うことなので、私は気にせず地へ向けて放出していた闇を天へ向けた。


少し強くしすぎたせいか、足がジーン…と痛んだが、電気の痛みはない。

閃光が引き…絢斗を地面へ降ろして、私達が元居た場所を見ると、そこに敵が居た。


…なるほど、あれは単なる目眩まし。

あのまま空中に居続けたら危なかったな。


それは私の失態だ。

もう二度と、絢斗を危険に晒すことは有ってはならない

「―闇よ―」

だが…、そんなことより…


今までとはまた違った種類の闇が手に溢れ、矢を形成した。


「よくも絢斗の邪魔をしたな…」

お陰で絢斗の“音”が中断されてしまった。

よくも…よくも、よくも……


「………真綾?」


私は敵をギロッと睨み付けた。

ここからだと、空中に居る敵の紋章がよく見える…。


ググッ…っと弓の弦を引き、私は狙いを定めた。

「―破壊せよ―」

私の指から離れた矢は闇を纏い、敵の紋章を貫いた。

紋章を破壊されたことで、敵は輝きを放ちながら消え去った。


…あの輝きも、久し振りに見たな。


「真綾…、怒る所が可笑しくなかったか…?」

「正統な怒りだ。」

「…………そうか。」

あれはきっと遙華でも地団駄を踏んでいただろう。

私達があの“音”を何年心待にしていたと思っているんだ。全く。


絢斗は最初の討伐以来、あの“音”を歌わなくなってしまった。

何故かは解らないが…。

それでも絢斗が決めたことだ。

私達は何も言わなかった。

言わなかった、が…誰よりあの“音”を聴きたかったのは私達だったのだ。

嗚呼、遙華も聴きたかっただろう。


…そういえば何で絢斗コイツ居るんだ?


「凄いです!

 絢斗さんも…、妹さん?も!」

…何だ、コイツ。

何で絢斗の名前を知ってるんだ?


…………コイツも殺るか?


「真綾」

提案程度のもので殺気も出していないのでバレてはいない。

自己紹介をしろ…、もしくはしないか?ということだろう。


…まあ、名前を知ってるのも絢斗が自ら名乗っただけだろう。

それなら私が名乗らない理由はない。

「真綾だ。

 そう呼んでくれ。」

妹…と呼ばれているからには、絢斗は私を妹だと言ったのだろう。

確かに嘘ではないし、それが一番解りやすいだろう。

ただ、絢斗と私の性は違う。

普通に考えれば絢斗は音澤の性を名乗っただろう。

勝手に、絢斗と同じ性だと思ってくれれば良い。


「あ…、は、はい!

 ………ももっ、申し遅れました!

 とうげ 夕鈴ユーリンです!」

おきなとでも呼んでくだされ。」

ユーリンと翁か。

じいさんとはまんまだな。


「真綾さん、貴方は…

 何はともあれ、命を救っていただき本当にありがとうございます。」

と、翁は、深々と頭を下げた。

…別にお前達の命を救ったわけではないのだがな……。


「いや…、頭をあげてくれ。

 礼を言われるような事はしていない」

と、絢斗は考えながら、言葉を選んで言った。

私には解らないが、礼を言われる筋合いがないのには別の理由があるようだ。

まあ、どうでも良いが。


「いいえ、命の恩人であることに変わりはありません。

 どうか恩返しをさせてくだされ。」

そんな筋合いはないと言いたいところだが、絢斗は少し考えているようなので黙る。


「…好意に甘えさせて貰えるか。」


「もちろんですとも」

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