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大賢者が往く。  作者: ましまろ
薬師三宝
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大魔導師と宮廷魔導士

 目の前に立ちはだかるようにして南北に連なるマクバレン山脈。

 そのお膝元に広がる、濃く深い森が幻奪の深森と呼ばれている。

 夏でも消えることのない雪冠を戴く山々から吹き降ろす冷たい風が、ただでさえ暗く鬱蒼とした森に、外界との拒絶を感じさせる。

 あまりに広大な深森は魔獣の天国。

 その数は時に数万とも、数十万とも云われている。



「どんだけバカ広い森林なんだよ・・」


 そこから湧き出てくる魔獣なのだから、その数は半端じゃない。

 視界の両端すべてが蠢く魔獣で埋め尽くされ、黒い線で迫ってきていた。

 

「目に入るものは倒す!」


 村を奪還し、なんとか拠点に添えたが、やばいよこの状態は。






 問題はここから先だ。

 僕は防壁魔法陣を維持しながら背後でせっせと薬を作る。

 初級傷薬が並みから良に、良から優良に、作るだけどんどん品質が上がっていく。これで合格点だ。

 さて、今度は中級に挑もうと薬草を並べ始めるが、へとへとになって戻ってくる冒険者たちは初級程度の傷薬ではどうにもならんほどの深手を皆さん負っていらっしゃる。


「頼む、回復を・・」


 救護テントはすでに満員御礼。


「マーブ!薬はいいから、手早く頼む」


 結局魔法で治す羽目になるわけか。まぁ。仕方がない。っていうか、目の前で繰り広げられる戦闘風景にため息が零れる。

 時間が押してる。時間がない。

 なのに全然減らない魔獣。否、却って増えてるよ。

 本当、使えない冒険者どもだ。


「分かった、今さくっと直して全員送り出してやる!」


 僕が叫ぶと、背後のテントから悲鳴が上がったが、気にしない。

 とりあえず、防御壁は完全に機能していて、そこから先こちらの陣営に入り込むことはないが、目の前で見えない壁を叩く魔獣にびっしり囲まれてるからなぁ。怖さ倍増だよね。


「ちったぁ、お前も戦え!」

「はいはいはい・・」


 本当、人使い荒い奴め。

 こっちは不眠不休なんだぞ!


「チェーンライトニング」


 とりあえず近場の魔獣をどんどん倒していく。

 背後に見える森は濃い紫色に染まっているのが見えた。魔素がやたら濃い。

 まさかと思うが魔王クラスが発生しているとか、言わないよな?

 この魔素の濃さが心配だ。この濃さが続けばマモナの根っこの変質が早まるし、今だって多分ぎりぎりだろう。

 魔獣を早く倒してしまわないと。そのくせ無理はできない。

 全然あてにならない冒険者。頑張ってるのはマスターのおっさんだけ。

 そして深森で発生している濃い魔素のせいで逃げ出す魔獣の数が減らない。

 こういうのって『四面楚歌』とか言わないか?

 ・・クスン。涙目。

 

「ロックバウンディング!ファイアーストライク!」


 津波かっていうの。海水じゃなく魔獣だけど。あ。炎系はよくないなぁ、草が燃えて広がっていく!失敗失敗。


「チェ-ンライトニング」


 絶対これ、数万単位だわ。

 一応範囲攻撃ぶち込んでいるが埒が明かない。いっそ極大魔法で一気に殲滅、とかできたらいいのだが、そんなことをすれば森ごと消滅してしまう。

 当然マモナの根っこも消し炭だろう。


「チェーンライトニング!エクス・ブリザード!」


 それも天然の野生種。世界でも希少な絶滅危惧種でもあるのだ。

 だからどんなに焦っても、範囲魔法でも規模は小さめでできる限り火気厳禁。それでチマチマ狩っていくしかない。


よしよし・・。


 だいぶ見通しが良くなってきた。

 だが、さすがに一回休憩を入れたい。


「はぁ~しんどい」

「おお。だいぶ減ったな、さすがだ小僧」

「僕は御飯タイムするから。後薬も作っておかないと」

「こちらで用意してありますよ~マーブ様」

「はいはい・・」


 なんか僕の両脇にギルドマスター様がお二人張り付いてるんですが。

 うん。僕に気を使って優しく介護、なんていうわけないじゃん。「にがさねぇーぞ、コラァァ」って連行されてるんだよね、分かるよ。


 しかしまぁ。B-からCまでの「セデリアで最も腕のある冒険者」達では、心もとないというか、無理あるような?

 防壁から出たり入ったりが激しい。

 確かに遊んでいるわけじゃないんだけどね。行って戦ったと思たら怪我してすぐ戻ってくるとか。それないわぁぁ。

 救護テントの横でご飯食べてると、中の喧騒が聞こえてくる。


「薬足りないぞー」

「ヒール頼む!」

「こいつに新しい装備を、これもう使えない」

「ハイヒールくれぇーー・・腕が腕が・・」

「おい、もういいぞ」

「えー・・まだ行きたくねぇよ・・」


 たった16人で回してるんだもんなぁ。かといって漏れた魔獣を殲滅するために置いてきてあるキト村部隊をこっちに呼ぶわけにもいかないし。


「応援部隊が王都からくる。それまで持ちこたえるんだ!」

「「「おお!」」」


 チマチマと狩る魔獣退治は飽きた。しんどい。

 早く来てよ、もう手に余る。

 僕に薬を作らせろ!




「おい!どうやら来たぞ」

「おお。先頭に宮廷魔導士カイン様だ。すげー、サクサク魔獣狩ってるよ」

「見ろ、その後ろ!S級PTの『ローゼンダーク』だ」

「やっぱ違うよなぁ、あの体格あの覇気・・。特に鮮血の両刃斧グリモア・ロクシン。かっけぇーー」


 救護テントの中でついに中級傷薬が良になってウハウハしていた僕の耳にも、その歓声が届いてくる。

 よかったよ。

 僕もこの異常な忙しさから解放される。

 そこにマスターのおっさんとなぜかその背後にいる師匠が、テント内に顔を覗かせた。


「おいマーブ、宮廷魔導士とお望みのS級ランカーのご到着だ。お前も行って、周りの駆除を一緒にやってこい」

「マジで鬼畜なこと言うんだ?わかったよ・・」

「薬なら私が作っとくわよ~」

「師匠・・なんで来たんですかぁぁ?」

「そりゃ、カイン様が・・」


 何頬染めてるのおばさん。

 もうすでに乙女ってガラじゃないでしょ、あんたは。


 やれやれ。

 重い腰を上げて、仕方なくそいつらの顔を拝みに行ってやろうかとテントから出る。

 しかしまぁ。

 宮廷魔導士さまの装備には眩暈がするよ。

 何その無駄に装飾されて、キンキラキンなのは。

 そいつの背後に並ぶS級PTのメンツは無骨ながら実用性な装備と比較すると、本当、なさけないわ。

 

「私が来たからには、もう安心です」


 自信に満ち溢れたその笑顔。

 周りからの拍手喝采を全身に受け止め、にこにこと手を振ってるイケメンめ。

 こいつ勇者かよ!?

 どんだけ神経図太いの?

ああ・・絶対にお友達になれんタイプだな。

 てか、なんで師匠そいつの隣にべったり張り付いてんの?

 顔を赤らめて、クネクネと気持ち悪いわ。


 それにしても。

 ついのこ間亡くなってしまった僕の友人も宮廷魔導士だったが、ずいぶんと趣が違うなぁ。魔法使いのおっさんはもっと謙虚で苦労人で、そのくせすっげー人だったのに。

 つい思い出して、どんよりとした気分になる。



 漸く歓迎ムードが収まると、一人そいつは僕の前に現れた。


「お初にお目にかかります」


 丁寧な宮廷仕込みの挨拶を受けた。


「伝説の英雄であり、世界の君臨せし大魔導師様にお会いできる栄誉を賜り、感嘆の極みでございます」

「・・あ、そう」

「・・・」


 しらっと言い放った僕をさも驚いたように見上げてくる。

 どうせ、何この小汚いガキは?とか、こんな奴が伝説級人物なのか?とか、不敬極まりないこと考えているんだろうよ。

 宮廷内で胡坐かいてて、貴族間の軋轢を腹芸ですり抜けることに心血注ぐ、おバカっぽいこいつに僕は何の期待もしていない。


「私の実力を、かの大魔導師様の前で披露できるこの日を心待ちにいたしておりました」

「さいですか」


 



 こいつの実力がいかほどの者か一回見てから判断しよう。


「では行きます!」


 防壁魔法の外に歩み出た宮廷魔導士は、ブツブツと詠唱を繰り返していく。目の前に広がる紋章は2つ。それがさらに・・。

・・・まさか。

 僕の止める間もなく。


「複合魔法、極大『疾走する爆炎』!」


 ぐわぁぁーーーーん


 大地が揺れ、空は真っ赤に染まる。

 荒れ狂う炎。

 熱気を帯びた風が僕の髪や頬を撫でていく。


 そう。

 こいつは魔獣だけでなく、広大な森の一部を完全に燃やし尽くした。


「待って!やめるんだ!」

「たかが魔獣!もう一発行きますよーーー」


 止めに入った僕の目の前で喜々として極大魔法を連発していく。奴の背後にはやっと追い付いてきていた師匠もびっくりしたまま固まっている。


「やめろぉ!やめろって言ってるんだ!この愚か者めがぁぁ!!」


 怒りのあまり、そいつの頬をぶっ叩いていた。手加減なんてできるものか。

 だが、すでに森の大半を、こいつは消し炭に変えてしまっていたのだ。

 僕がどれほど苦労して森を残そうとしていたのか・・。

 ここにはまだマモナ草の根っこがあったのに。

 救える命がそこにあったのに・・。


 大地に転がる宮廷魔導師は痛む頬を抑えて僕を睨みつけてくる。


「な、何をするんだぁ!?」

「貴様はバカか?!」

「バカとは失敬な!私はきっちり魔獣を」

「魔獣を退治することであって、誰も森を殲滅しろとは言ってないんだぞ!」


 僕は憤怒のオーラが全身からあふれ出ているのを感じ、それを正しく受け取った宮廷魔導士は真っ青な顔で震えている。


「この森は貴重な薬草の宝庫でもあったんだ!この周辺の町や村はこの森からの恩恵も受けていた!それを貴様は!

 そのすべてを・・誰が根こそぎ奪えといったぁ?!

 貴様をよこした王か?!

 ならば僕は2度とこの国に加担することも知恵を貸すこともできない!

 よく覚えておけ!」

「・・・マーブ?!」


 師匠が涙目で僕を見てくるが、今はそんな場合じゃない。

 森が消え、辺りは鼻につく臭いが充満している。

 取り残された魔獣も右往左往しているが、気にする数でもなかった。

 ここまで見晴らしがよくなってしまったのだから、瞬間移動でずっと奥まで飛べるだろう。

 大地が焼けただれ、まるでマグマのようだが、気にすることもない。


「テレポ」


 僕の手にしたポチ杖がきらりと光った。


 一気に森があった深部に飛び、蹲りその大地を調べる。あれほど濃かった魔素もきれいに吹き飛んでいた。


「ああ・・・」


 あったのだ・・。


 マモナ草の根っこが大量に。

 ここにやっぱりあったのだ。


 少し掘り起こし手にした根っこは黒く焼けただれ、ぐずぐずと掌の中で崩れ落ちていく。

 それらは見渡す限りの場所にびっしりと転がっていた。


「こんなにも・・・自生していたのか・・」

 

 この膨大な数があったら、病で苦しむシエルデの国民全てを賄われたであろう。


「僕の、苦労を・・一瞬で無駄にしやがって・・」


 焦げていまだ燻る大地にしがみつく様に僕は泣いた。

 だが。

 まだ諦めるわけにはいかないのだ。

 僕は立ち上がると、袖でぐぃっと涙を拭く。


「諦めるもんか!」

 







もうそろそろ毎年恒例のクリスマス。


 毎度おなじみの、コンビニのお独りさまケーキにショボいクラッカーが微妙に賑やかで、却って虚しさが重くのしかかる・・。

 あの「クリスマスがそこにもやってクルゥ~~♪」を聞くたび、私の下には来なくていいから!と本気で力説したい!

 今年? 聞くなよ!!

 それにクリスマス=鶏の災厄、まさに厄日だ。ナムナム~~(おいしいけど!

 いいのよ、私は日本人。神様は八百万でおk!

 新年で今年も神様にお願いすればいいんだからね『・・彼氏ほしい・・』ん~毎年同じ願いなのがいけないのかも!

 

「その辺にいい男、転がっていたらガッツリ食い付きますので、お願いします!」


きっとこれだ!今年はそうしようっと。

 ほら。宝くじよりは当たる可能性が。なんてったって八百万の神様だし・・。

 もしハズレで貧乏神様に届いちゃったらどうしよう。

あ。イケメンだったら貧乏神でもいいよ!私気にしないから!(*'ω'*)

 

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