大魔導師と討伐隊
真夜中だというのに、魔法士ギルドの建物にはこうこうと明かりが灯っている。
まぁ、魔獣騒動で登録してある魔法使いたちもきっちり駆り出されているだろうし、中はてんやわんやなのだろう。
「すまん」
「はい?あ、グェンさんじゃないですか。配置と人数についてお話したいことが・・」
「ジブロイ殿、その前に確認していただきたい者がおりましてね」
どうやら、おっさんの目の前の凡庸とした優し気な雰囲気を漂わせる、意外に若い男がこの町の魔法士ギルドのマスターらしい。
頭を小突くように押し出されて、思わず軽くお辞儀をする。
「この子は?」
「薬師ミィデルんとこの2番弟子で」
「マーブといいます」
「だそうだ」
僕の名前を聞いてきょとんしたしたが、いきなり噴出して笑い始めた。
「あははは・・いかにも、な偽名ですけど」
「ああ~まあね」
そう言いつつ、ポーチからプレートを出して見せる。当然、ぎょっとしたように顔色が消えた。見上げながら「内密で、お願いします」と小声で念を押すと、軽く頷いた。
「ああ~・・・はい。確かにこの方は間違いなく登録されてますよ」
「ほほお。で魔法使いとしてのランクは?こいつ前線でも使えそうか?」
「ランクはSSS++級ですね。多分この町の誰よりも強力な魔導師様でいらっしゃいます。・・あ・・・」
「で、マーブ。お前冒険者ギルドにも登録してあるよな?」
おい!お前、素でボケてくれた?!何にも隠してないじゃん!しかも結局、そっちも必要だったわけか。だめだこりゃ。
「・・・・」
「どうなんだ?」
「・・・・・・・・・はい」
せっかくの裏工作もまぁ相手が悪かったということで。このおっさん冒険者ギルドのマスターだもんなぁ。無理がありすぎですね。しかも魔法士マスター、あんた天然?!
仕方がないので、カードのほうも出す。
一時は初心者だったんですけどね。残念なことに魔王討伐後、一気にSSSに塗り替えられちゃって。
「これ、ですね」
「・・・・・・・・・・・・・ユーリ・オリジン、だとぉ?!」
「あははははははは」
「私は初めてお目にかかれて興奮してますよぉ」
めちゃくちゃ嬉しそうにしている魔法士ギルドマスターと、僕の横でそれはそれは深~~い眉間の皺を刻み込んでうなっている冒険者マスター。
そういや、なんだかこの人師匠に嫌われてるよなぁ。
「ミディルのためにここまで来たっていうのか?おい!そうなんだろーーー!?」
「いやいやいや、ないないない!ただの偶然、そこ本当だから!」
両肩に食い込む指が万力のようなんですけどぉ。一体何だというのだ、こいつは。
「そう言えばミディルさんは大魔導師様の血族とか、自慢ですものねぇ~」
そこか!やっぱりそこの問題なのか。
「おっさん!落ち着いてくれ、考えてもみろ。100代以上前の話なんてほとんど赤の他人だ」
「・・そ、そりゃそうだ、な」
はぁ・・。面倒臭いな。
「それはそうとユーリ様」
「マーブです」
「・・マママーブ様」
ボンクラに様つけると阿保っぽさが上級化したぁぁ。いらんわ。
「マーブでいいです。で、なんですか?」
「王都からの救援で宮廷魔導士カイン・ディクトゥール様もお見えになってくださいます。多分、ユーリ様がご一緒になられると知ったら、さぞ喜ばれるのではないかと。何しろ伝説の英雄、世界に冠たる至高の大魔導師さまの神業を目の前で拝見できる、最高の環境!」
あんたのほうが暴走してますよ。
「私もご一緒しますよ!勿論!」
はいはいはい。面倒ばっかり増えやがって。
「それにしてもこのカードの情報、凄まじいな。人外どころか、神域だろう・・」
「返して!ついでに僕の情報は師匠に漏れないように!」
「そんなことになったら、俺のほうが迷惑だっつ~の・・」
おっさんが深いため息をついている。
「グェンさんはミディルさんに一目惚れしてから早12年と4か月。大変ですよねぇ~」
「な!お前、なんでそんなこと・・・」
なるほど。読めた。しかしあの師匠に、ねぇ~・・。
「それより一回ギルドに戻って討伐編成組まないとならん!行くぞ、小僧!」
うん。マスター、お前そういうところブレないね。良いよ、気に入った。
「何なら仲取り持ってやろうか?」
「は?!ガキがほざくんじゃねぇー!」
照れてるし。
しかも背後でてきぱきと指示を出して、右往左往している魔法使いたちを纏め上げてるところを見ると、やはりそこそこできる人っぽいな。
まぁたまに天然ボケが入るんだろうなぁ。
それにしてもまた走るのか。
忙しい。
すでに空が白み始めている、街の一角。
冒険者ギルドの待機場所に多くの人が詰めかけていた。その熱気ははっきり言って臭い。
皆さん、洗濯してる?
身体洗ってる?
鼻が曲がりそうなんだけど。と、しっかり空気の幕を魔法で作り、ギルドマスターの立つ台の近くで周りを観察する。
ほとんどが冒険者。まぁ当たり前だな。ここホームグランドだし?
たまにいるのが魔法士ギルドの魔法使いたち。そして大きな荷を背負っているのがたぶん薬師だ。
緊急で集められたとはいえ、結構な人数が揃っているじゃないか。
内訳は魔法士、回復もできる魔導士合わせて8名。
薬師は街に残って生産する人が5名。後方支援組で僕を含めて3名。
まぁそんな物だろうね。
・・・でもって、なんで僕が薬師班じゃなくって魔法士班なの?!
魔法士9名? 薬師2名なの?違うだろぉ、そこ!
「みんな、聞いてくれ!なんとか押し戻してキト村を拠点としたい。最前線はカイナ村奪還だ。
装備のほうは整ったか?後続部隊は、C班で護衛についてくれ。他に何かあれば言ってくれ」
「はいはいはい!なんで僕は救護班に配属されてないんでしょうかぁ?!」
思わず手をあげ文句を言う。
だってさぁぁ、なんでA班なの?前衛も前衛。斥候部隊だよ?キケンじゃん。
「戦力見たらダントツだろうが!文句言うな!」
「そうですよ、サクッと殲滅してくれたら助かりますよ、マーブ様」
おい、そこのギルマス二人。忘れてるだろう。今の僕は・・・。
「薬師ですから。そりゃたまには手伝うけど、頑張って薬師で応援してますから」
「「はぁぁぁ?!」」
いっぱい作らないとスキル上がらないじゃないですかぁ。
魔獣と戦闘?
うん、皆さん頑張ってね。
「というわけで。僕は救護班に。よろしくね」
「「・・・・」」
さて。みなさん行きましょうーーー!
考えたら、悠長に任せられないというか時間押してるんだったよな。大体B程度の魔獣に1匹で10人かがり10分以上かかるって、弱過ぎでしょ!冒険者のくせに。
というか、最高がB-の4人PTが今回の討伐トップとか。
SSとか呼びましょうよ、それかせめてS級ランカーPTでも。
セデリアから東の街道に沿ってキト村に向かう途中から、多くの魔獣と遭遇した。放っておけばそのままセデリアの町に到達するだろうと思われる。
多分原因は幻奪の深森、そこの魔素がいきなり増えたからだ。それを嫌った魔獣が一斉に逃げ出したということだろう。
そこにカイナ村がありキト村があった。
運が悪いといえば悪い話だ。
とりあえず目に入った魔獣はぶっ叩いておくことにする。
容赦しないよ?
今僕はすこぶる機嫌が悪いからね。
「ちぇ・・。キト村までですよ?」
「頼む、時間がない」
全くだ。
僕の目的はあくまでもマモナ草にある。
ポチ杖を振り回して、とりあえず歯向かってくる魔獣を片っ端から丸焦げにしていく。
「チェーンライトニング」
ったく。僕の後ろにはカルガモの雛かって、ゾロゾロゾロゾロ・・。
あ~~まったくもってイライラする。
「ファイアーストーム!」
唸れポチ杖!ぶんぶんぶん
「あのお子様、誰だよ・・」
「ああ、なんかマーブって呼ばれてたな」
「魔法士ギルドの連中が様付けで、ヘコヘコしてたぞ」
「マーブ(ぼんくら)って・・。」
「はぁ・・。C+からB+まで、一撃10匹以上とか、ないわぁ~何それ」
「てかさぁ。俺たちいる意味あんのかよ」
「そそ。もう、あいつ一人でいいんじゃね?」
またか。いや、もう慣れてますけどね。
とりあえず、目標だったキト村に到着。
いまだウヨウヨいる魔獣たちを殲滅し、全壊半壊の家の中を軒並み探していく。すでに時遅く、お亡くなりになってらっしゃる無残なご遺体をみんなで集め、村の端っこで火葬に伏す。
別の伝染病の発生が怖いからね。
ああ~。
死者復活の蘇生術?
ゲームじゃあるまいし、そんな都合のいいものなんてあるわけないでしょ。第一亡くなった人の魂は天に召される、というか輪廻の下に戻るのだから。
そこは神の領域で人が手を出していいものじゃない。本物の神に喧嘩売りたいのなら別だけどね。
それに、蘇生なんてできるんなら、僕は今まで無数の命を救っていたよ。
そんなことできなんだから仕方がないじゃないか。
「こっちの納屋で1名生存者がいました」
「向こうの地下倉庫で3名発見。一人重症」
意外に生存者はいたようだ。
「ここを中心に防壁魔法、展開します!」
僕は走り回りながら叫び、そしてすぐさま魔法で展開。そこから防壁魔法紋章魔石で上書きし、村の中央に鎮座させる。これで僕がここにいなくても何の問題もなく、魔獣を退けられるわけだ。
半径凡そ100メートル。直径約200メートルの最大級防壁魔法。
何しろこの僕が作ったものだからね。
そんじょそこらのショボイ防壁とはわけが違う。強度もSSが大挙しても壊れない、自信作だ。
「この辺りでいい、救護テント張ってくれ」
「手の空いてるやつは外出て、魔獣を押し返せ」
「こっち水が足りない!」
大騒ぎの中、とりあえず僕ができるのは『初級傷薬』を作ること、だったはずなのに!
「マーブ様!すみませんが100体ほど魔獣の駆除を!」
駆除っていうのか!ちぇ・・。
「今行きますよ。やればいいんでしょやればぁぁ」
判ってましたとも、ええ。全部とりあえず僕が倒せばいいんですね?!
やってやろうじゃないですかぁぁ!
食らいやがれ!ファイアストーム!
「あーーすみませぇーん、マーブ様ぁ、重篤患者出まして、薬では無理そうなので回復をお願いしますーー」
・・・・少しはみんな仕事したら?
僕以外にもヒールぐらい使える魔法使い、いるよね?なんでわざわざ僕を呼ぶんだよ!
「大体駆除終わりぃ!」
村周辺にもうほとんど魔獣の姿は見えないし、慌てて森のほうに逃げていくので、放置だな。
「マーブ!カイナ村に出立するぞ!」
少しは休ませて。
魔導師扱い、荒すぎない?!
てか、僕は薬師参加のはずだぞ!
「もういいや!いい加減あきらめた!さぁいくぞ!」
時間押せ押せなのだ!まいてぇーまいてぇー!
「ああ!先に行かないで!マーブ様!ハイヒールを患者にお願いしますよ!」
・・・忘れてたわ。ごめん。




