賢者と魔王
魔王の出現してそうな凡その場所はつかんだ。
そして勇者も順調にその実力を身につけて行った。さすが女神の加護、勇者補正は素晴らしい。
あの騎士のおっさんから3本に2本は取れると言うところまで来たようだ。
いよいよ出立と言う頃になると、騎士のおっさんがへこんでた。曰く『俺の20年の研鑽の日々を返せ』ということらしいが、まぁ~あれだ。泣いててくれていいよ。
王城で出発前の大々的なセレモニーが開かれ、その晩は飲んで食って大騒ぎをしたが、翌日は出来る限り派手な送迎を避けてもらった。
僕と勇者を二人だけ。
のんびりと北へ向かった。
「え~っとさ~・・・」
「何?」
僕と勇者マツルの二人はピクニックっぽく花柄の茣蓙を敷いて、のんびりお茶をしている。宮廷料理人作のベリーっぽいタルトのさわやかな酸味が口の中に広がり、頬がほころぶ。
「で・・。こんなところで休んでばっかりでいいんかよ?」
「まぁね~」
背後には少し大きめのテントもあり、中にはベットまで鎮座している。完全に長期戦の準備だ。
何しろ魔王が何時勝手に爆発するか、そこは予想出来ないのだから仕方がない。
ここは北の大地。
周りは濃い魔素で薄紫に染まった大気、枯れて崩れそうな木々。魔獣化が激しいいろんな生き物があふれている。
特にA+~SSまで、凄い豊富だ。
ここについた当初は異物である僕たちに散々攻撃を仕掛けて来ていたが、僕の改良防壁紋章魔石が全てを弾ききってくれ、更に僕たちから一切手を出さなかったおかげもあってか、魔獣達は僕たち二人を『無害なモノ』と判断してくれたらしい。
魔獣達が周りでうろうろはしているが、今のところ何の問題もない。
そしてここで居座って、僕たちは魔王の動向を観察していた。
ただ飯食ってお茶してだべって寝て起きてを繰り返すこと、早4日。
「それにしても、マツルだっけ?偉く精悍になったよね~本当に勇者みたいだ」
「・・・・酷いなぁ・・・勇者なんだけど」
笑っていると、そこに遥か向こうから魔王がこっちに近づいてきた。
「おいおい・・魔王がこっち来ちゃったぜ?」
「う~~ん」
僕たちのところまで来た魔王が小首を傾げている。
見た目は美形だ。イケメンだ。魔王のくせに無駄過ぎる。
黒に近い濃い紫色の長い髪。赤みの強い紫の瞳の切れ長な二重の目。白い肌。それに身につけてる衣装は多分皮膚が変質したもので、黒と濃い紫の甲冑。黒い長い比翼がマントのように翻っている。
そいつが紋章の結界に触れ、弾かれたことに驚くとそのまましゃがみこんで、僕たちと視線を合わせて来る。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「コ・・・・コンニチハ」
渋い男前の声で挨拶されてしまった。
「・・・・こんにちは。今日もいい天気ですよね?」
コラ、僕。何疑問符付けているんだよ・・。しかもいい天気とか。ずっと濃い魔素で覆われて視界が紫の荒野以外何もないっていうの。
「こ、こんち。俺マツルっていうんだ」
「あ、僕はユーリです」
「僕は■■■■と言います」
「・・・何と言われたかワカリマセ~ン。ユーリ分るか?」
「魔獣の言葉はさすがに範疇外と言いますか~・・」
「ココで何をしてマス?」
なんだ。この魔王。随分なれなれしいというか・・。
こっちを覗きこむ目つきがどこか可愛らしげでもある。
・・・・・可笑しい。ポチと呼びたい!
「お茶してるんですよ」
「オチャ・・?」
「てか~魔王って、何で俺らと会話できるんだ?」
「一応魔王は最上級の魔獣で知能も高いんですよね。でもどこで覚えたのやら・・」
「マツルとユーリが、ずっとココで話してたから、覚えマした」
「「おお~~~」」
思わず二人で顔を見合せたまま、意味もなくハイタッチしてみる。
さすがというべきかもしれないな、侮れん魔王種。
「魔王さんもお茶にしますか?」
「魔王サンってどなたデスか?」
「「貴方です」」
僕とマツルで目の前の男を指すと、当のご本人は自分を指して不思議そうな顔をする。
「僕は、魔王サンだったのデスか?」
「ねね・・。マジでこいつを倒すの?なんかオレ、気が進まないというか。かわいそうというか・・」
マツルがイケメン爆発しろ!と言わないのは、きっとこの残念な性格の魔王故かもしれない。
「う~~ん・・。ここまで子供みたいな魔王は想定外でした」
防壁魔法は魔獣の侵入も攻撃も阻止するが、こちらからは何の妨害もないので、僕はお茶を入れたカップとタルトを防壁の外に差し出す。
「どうぞお召し上がりください」
「・・・食べル物?」
「そうだよ、こうやって~」
二人で魔王にお茶の仕方を伝授。興味津津という顔つきで、魔王はカップに口をやって飲み干しながらタルトにもかぶり付く。
「美味しいですかぁ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・美味シい」
「美味しいだってよ!あ、サンドイッチも食うか?」
「ウん、頂きタイです」
「ほら、あ~~~んして」
「ア~~~~~ン」
勇者マツルの手ずからサンドイッチにぱくつく魔王の図。これは餌付けかよ!てか・・・。20代っぽく見える精悍なお兄さん魔王が、ちょっとまともになった勇者マツルからサンドイッチ食べさせてもらうって、変だよな。
「・・わざとだろ?」
「へへへ、だって面白いじゃん。これで魔王が女性だったらオレ、やばいわ」
「自重しろよ!そこは」
目の前の、しゃがんだままの魔王はまだ口を開けて、待っている・・。
「ア~~~~ン」
「催促されてるよ?どうする気だよ」
「あ~じゃあ。これも食わせてあげよう」
マツルがノリノリで手近にあった食い物を魔王の口に放り込む。それを頬を膨らませて食べてるイケメン魔王くんは満足げであった。
いやぁ~だから、そこで何で満足してるんだよ。
「ほら~。もう向こうに行った行った」
餌付けプレーに飽きたマツルが掌でシッシと追い払うそぶりを見せると、魔王はすごく寂しそうな顔をして立ち上がった。
何度も振り返り、何度も立ち止まって、なかなか元いた場所に戻らない。
「魔王さん!何か芸やって!ダンスとか~~」
僕の掛け声に反応するが、顔目一杯に?の文字が浮かんでいる。
「得意な奴でも良いんで披露してくれるかなぁ!魔王さんの凄い所見たみたいです!」
「お!それいいな!暇だから何か見せてくれぇ!」
二人で魔王を持ち上げると、なんと瞳をキラキラさせ両腕を腰に当てて幾分ふんぞり返った気がする。
「見テてクレ」
そう言うなりいきなり最上位魔法を幾つも展開させて、空にぶちあげた。
「「うおぉぉぉおお」」
4属性8種が花火のように空いっぱいに広がり、稲妻や炎の雨が降り注ぐ。
僕たちには防壁があるため問題ないが、周りの魔獣は悲鳴に似た豪放を張り上げながら、消滅していく。
凄い・・。SS級すら溶けて行く。
「す、凄すぎね?」
さすがの勇者も顔面真っ蒼。
「魔王さん張り切り過ぎ・・。周りの魔獣がほとんど消滅してしまったじゃないか」
まぁこれはこれで別に困らないけど。
ただ、褒めてほしくてこっちに向かって走ってくる魔王の上気した頬とキラキラした瞳に、僕だけではなくマツルも呆れたように溜め息が。
「どうデスか?」
「凄いよ、魔王さん!格好良かったですよ!」
「グッジョブ!」
魔王にはどうも尻尾があるらしく背後でぶんぶんしていた。トカゲみたいな尻尾だけど。
・・・・・・わんこだ・・。ポチだ。
「ではお礼にクッキー上げるよ」
僕が魔王にクッキーの袋を渡すと、袋ごと口の中に・・。
食べづらくないか?ええ?!
「また明日遊ぼうね、ポチ」
「マタ明日遊ぼうネ、ユーリ」
「また明日な~」
「マタ明日ナァ」
意気揚々に立ち去る魔王の後ろ姿を見送りつつ、二人してぐったりしてしまった。
「ねぇ~。魔王っていつもあんなのばっか?」
「個体差は当然あるからね。今回はたまたまって感じかな?」
「で。いつにするんだよ?討伐・・」
「困ったね~・・なんせポチだし・・・」
「ブブ・・ポチって。似合いすぎる」
しきりに討伐するのは可哀相だとうるさいマツルに僕は苦笑した。
本当は、いけないことだと分っている。
僕はあの魔王にポチと付けてしまった。名前はその個体を表す唯一無二を示す。
愚かにも、僕は魔王に名づけてしまったのだ。いくら名前を忘れる僕でも、自ら命名したものは一生忘れることが出来ない。
バカだ・・。
僕は馬鹿者だ。
消えゆく運命だとわかっているモノに感情移入してどうするんだ。
ベットに横たわったまま、一睡もすることが出来なかった。
翌日も朝早くから魔王が僕たちの傍にやってきた。要するに暇なんだと思う。
勇者マツルに催促され、仕方なく魔王を防壁結界内に入ることを許可する。まぁ、少し紋章に手を加えれば何とかなるし。
で、何してたかって言ったら、マツルがボードゲームを自作してきたらしく、3人でそれを使って遊んでいた。
所謂『人生ゲーム』だ。
上がりは「王様」。負ければ路上生活者。
サイコロも自作という凝りよう。
そして魔王の知能の高さを証明する。
「俺さぁ。ゲームを広めようと思ってるんだ」
「いいねいいね」
「だろ?特許申請して毎月がっぽがっぽ!セレブ一直線だぜぃ!」
「・・モットやろう?ね~ヤろう?続きヤロウ~?」
「はいはい・・ポチ煩い」
その肝心なゲームで魔王に負け越してる勇者が嬉しそうに夢を語る。このままでいいのか勇者!魔王に負けてるぞ勇者!
魔王もまたゲームに夢中で、お昼するよと言おうがお茶タイムだと言おうが続きをやりたがる。負けても悔しがらないが勝つと凄く嬉しそうだ。
まるでここにいるのは、気心が知れた友達のようだった。
「負けタ・・・」
少しだけしょんぼりする魔王に笑う勇者マツル。
「そうそう何回も勝たせてなるものか!」
「モウ一回やろウ~」
「あ~もう、なんで僕いっつも勝てないんだぁぁ!」
僕は負けもしなければ勝つことも出来ていない・・。運が左右するこう言うゲームは苦手だぁぁ!クソ!
「良いじゃん、その代り負けもしてないし!」
「そうデスそうデスぅ~」
魔王以外に話せる魔獣は少しはいるようだ。というか魔王が教えているらしいのだが、何しろ魔王以外は闘争本能むき出しでそれこそお話にならないらしい。
ボッチな魔王・・・。
「話し相手がイナいデス・・」
「それはさびしいよね~確かに。ボッチ魔王のポチ。語呂がいいね~」
「おい、そこじゃないだろ?ああ、でも俺は慣れてるけどねボッチ。但しPCやゲーム機スマホがないと、困るかなぁ~」
「ピーシィやげーム機、スまホは何デスか?」
「PCはパソコンで~スマホっていうのはなぁ~」
「ゲームしたいなぁ~もう大分離れて久しいし・・」
「俺も!てか、この世界結構ゲーム的じゃん?」
「ゲーむって何デスかぁ~?」
こっちの言葉を覚えて、僕らに接近してきたのはどうやらその辺が理由らしい。
今では美味しいご飯とお菓子とくだらない話とゲームに興じて、心底楽しそうで離れてくれなくなりつつある。
そのまま夜は3人で晩餐会に突入だ。
「美味シイね」
「うんうん!出来たてはやっぱ旨いね」
「俺、これ好きさぁ~」
「僕モ、デス」
「ちょ・・駄目!それ僕の~~って・・食われた・・ポチのくせに!」
「ポチって誰のコトですかぁ?」
「お前、魔王でポチなんだってよ!」
「あ。コレも好きデスぅ」
「おい!これは俺のだって~」
「魔王じゃナク、ポチなんデスか?」
「魔王は職で名前がポチ!これ決定!」
「・・魔王ポチって」
「ポチ。いいデスね~」
「おお!気に入ってくれたみたいだ!」
大笑いするマツルの横で世話しなく口を動かしている魔王。その眼は次の獲物を探しているな。
コラ魔王!お前一人で18人前平らげるとは!
見てみろ、ほら。引き締まった割れ腹筋の腹がぽったりしてるじゃないか、魔王のくせに!
この間までの勇者並みの腹だぞ、それは。
無限ポーチで大量に食料詰め込んできているとはいえ、僕の非常食まで手を出すとは許せんぞ!
思わず、魔王のお腹に手が行く。
うぬ。プよプよだ。
「何ヤッテいますか?」
「この腹周りが・・愛おしい。プにプに」
「え~?ユーリってデブ専?!」
「いや。ぷっよぷよが好きなだけだ!」
「・・気持チいいヨ~~」
「お前もかポチ!」
僕のご飯食った分くらい、堪能させてもらおう。
「プニョプニュ~~~」
「ウヒャひゃヒャ」
「こらぁぁぁ!そこで変な楽しみ方してんな!てか俺も混ぜろ!」
三人で転がるようにくすぐりっこしまくって遊んだ。ガキだな。うん。
ほら。食った分はきちんと消化しとかないとね!
やがて夜の帳が辺りを包む頃。
僕らはさすがに疲れて来ていた。唯一元気なのは魔王だけだが、そこまでは付き合いきれない。
「じゃぁおやすみな~魔王ポチ!」
「おやすみ~ポチ」
「オヤスみです、ユーリ、マツル」
僕はテントに入る前ふと振り返る。
紫色の靄の中で、魔王はじっと夜空の星を眺めていた。その横顔はどこか物淋しげで、少しだけ胸が痛む。
魔王は好き好んで魔王になったわけではない。
魔獣の頂点として進化した揚句になった、自然の摂理だ。
ただ。人並みに知恵を持ち、思考する。
魔獣の中でたった一人、知恵あるものは、確かに辛かろう。
「おやすみ・・・」
翌朝。
僕たちの傍に来た魔王を、僕は防壁紋章ではじき出した。
何故なら・・。
魔王のその体から濃い魔素の放出が起こっていたからだ。
「何故?」
「・・暴走が始まってるから」
「暴走って?!」
勇者マツルが僕に詰め寄る。
明らかに昨日までとは違う雰囲気が魔王を覆っている。
「ああ・・暴走だ。魔核の暴走・・」
これを僕は待っていた。
防壁に弾かれながら、魔王は僕たちに救いを求める様に手を何度も差し出す。
「苦しいヨ・・助けテ・・」
端正な魔王の顔は酷く歪んでいて、うっすら涙さえ浮かべている。
「ユーリ!助けてあげようよ!ねぇ!」
「無駄だ。魔王の持つ魔石が耐えられなくなってきたら。こればっかりは・・どうしようもないんだ」
「このまま、どうなっちゃうんだよ、ポチは!?」
「・・・・・・・・・・・」
こうなることは最初から分っていたことだ。それなのに・・。
その姿は哀れ過ぎて胸が痛くなる。
「ポチ、大丈夫か?ポチ!」
「苦しイ・・痛イよ。助けテ・・」
「・・・ごめんね・・ポチ」
魔王はその場で蹲り、辛そうな声を上げている。
その様子を見ていられないのかマツルは防壁の外にまで身を乗り出し、魔王の背中を撫でていた。
「マツル・・もう、中に入ってて」
「でもよ!こいつ、こんなに苦しがって・・。泣いてるんだぞ?!」
「マツル・・ユーリ・・・」
くっと見上げてきたその瞳は暗い色を湛えている。食いしばる歯の奥から零れ落ちる苦悶。
こんな傍で魔王種を見たのは何しろ僕だって初めてなのだ。
会話したのも、一緒に食事したのも、ゲームして笑いあったのも・・。
「ごめんよ!・・魔王は・・。魔王は耐えきれなくなった魔石によって、自ら暴発して消滅するんだ・・・。僕にはどうする事も出来ないんだよ!!」
「そんな・・!」
マツルの怒りににも似た視線に晒されながら、僕は心痛を噛み締めた。
僕のはなった言葉を、魔王は小さく口の中で反芻している。
「・・ソウ・・なんだネ・・。そうダッタのか」
「・・・ポチ・・」
僕はかける言葉を失う。本人に向かって教えていい内容じゃなかったのに。
あれほど辛そうに苦しんでいるのに・・。
何より。絶望の果てにマツルまで巻き込んでしまわないか不安になる。
だが、魔王はかばうようにしがみついてくるマツルの体を防壁内に押しやると、のろのろと立ち上がった。
「二人トモ、ありガとう・・」
そう言い残し一人去っていく。
彼は優しい心の持ち主だったようだ。僕たちを巻きこまないように。
「ポチ・・?」
追いかけそうになるマツルの腕を取り、僕は首を振るしかなかった。
こんな結末、あまりにも酷い。
悲しすぎて辛い。
何度も膝ま付きながら、魔王は僕たちの下から去っていく。
そして空に両手を突き上げ、泣き叫んだ。
「僕だっテ・・もっと生きテ、もっト美味しい物食べて・・モット楽しい事イッパイ・・。いっぱい・・・しタい。
死にたくナイ・・・死にタク・・ない!」
魔王の体から爆音が辺りに響き、紫紺の閃光と膨大な熱量の嵐が巻き起こった。
「・・っつ」
「くっ」
一瞬の命の輝き。
強烈なエネルギーの拡散によって、周辺の魔獣達は瞬時に溶けて消えて行く。
僕の作った防壁紋章がそのエネルギーに反応して、強固な壁を作り僕たちを守りきった。
後に残ったのは辺り一面更地に変化した何もない空間。あの濃い魔素さえも飛び散りかき消されている。
僕の横で勇者は酷過ぎる魔王の末路に嘆き悲しみ、嗚咽をもらして蹲っていた。
「こんなの・・あんまりだ!・・あんまりだよぉ!」
「言っただろ・・。僕一人でも充分だって。・・付き合わせて悪かったね・・」
「お・・俺は・・ポチがぁ・・・あんなにいい奴がぁ・・」
支離滅裂になって泣き崩れる勇者の肩を叩くと僕は魔王が立っていた地点へと足を進める。焼けただれた大地がまだ燻り、踏みしめる足元で小さな音を立てて崩れて行く。
「ここ・・か」
僕はその小さな魂の欠片、魔核を拾い上げた。
ウズラ卵ぐらいの大きさで綺麗な紫紺の色を弾いている。
「・・・ポチ・・君の魂は僕が大切に預かるからね」
そして大地には数多くの魔石が転がっている。そのどれもが上質。
ポーチに魔王の核をしまうと、僕は魔法を展開させた。
「天よ、心優しき魔王の魂に、レクイエムを」
曇天が広がり落雷と共に、焦土の大地に大粒の雨が降り注ぐ。
雨が他の魔石を飲みこみ溶けて消えて行くのをじっと見守りながら、僕の涙さえ隠す雫に身を任せた。
これで魔王の災厄という危機から、世界は救われた。
魔王討伐。
歴史ではそうなることを知っていながら、臍を噛む。
「ユーリが言ってた、形だけだと。それが魔王の自滅・・ってことだったんだな」
「ああ、そうだ。歴史の中で繰り返されてきたことだ」
「じゃぁ・・何で勇者を召喚するんだよ!魔王だって、あんなにいい奴なのに!なんで・・・っ」
王都までの帰還の間、マツルに説明した。
それは女神の企み。
「俺さ・・。ポチの分まで生きてやる!ポチの分まで楽しいことも一杯やって、美味しい物を一杯食ってやる!・・・あいつ、あんなに悲しんでたのに、生きられなかったんだから・・」
ああ。そうだね。
これから王都に帰って君と僕は英雄扱いされるだろうけど、きっとマツルはそのことで驕る事はないだろう。
そして僕は、英雄2回目になっちゃうのか・・。
うっとしいなぁ~・・。また家に籠ろう。
「俺は冒険者になって、ゲームで特許とって、悠々自適に暮らしてやる!ポチ、だから成仏してくれよ、な!」
青い空に向かって自らの誓いを叫ぶ、勇者マツルは変わった。
きっともう大丈夫だ。
後10日すれば王都につく。
女神、あんたの思惑通りにマツルが新たな世界を築き、また文明が進化する。それは僕の願いでもある。
新アルセレス紀 7419年 緑炎月 21日
魔王消滅
勇者マツル 大魔導師ユーリ 世界を救った英雄となる。
北の大地半径50キロ 焦土化
後に『災厄の北限地』と名を改める。
そして勇者マツルはゲーム王として世界に君臨した!儲け過ぎだろう!
てか、嫁さんもらってるし!
おめでとうなんだよ。・・チ
今。僕の右手には魔王の魔核を取り付けた、短杖が握られている。
長いこと生きていると捨てられない思い出がどんどん増えて行って、困るよね。
本当に短い付き合いだったけど・・。
イケメン過ぎるお兄さん魔王。
そのくせ子供みたいに懐いて離れなかった、可愛い性格の心優しかった魔王。ぷにぷにのお腹も良かったなぁ~・・・さわり心地満点で。
この短杖の先に輝く綺麗な紫紺の魔核は、大事な友達の魂だ。
「この杖の銘は何にしようかなぁ~・・。やっぱ。ポチ?」
第一章完了です。
こんな拙い物を読んでくださった方、ありがとうございます。
誤字脱字、間違いなどのご指摘お願い申し上げます。




