賢者とヘタレ勇者
2日ほど神殿で滞在した後、馬車でシエルデ王国に戻る。
まぁ他の国でも「うちに来い!優遇する」とか「我が国へ勇者と共においでください」とか引き合いが多かったが、ここは勝手知ったるシエルデで。ということに決めた。
何しろ、魔王出現位置がこのシエルデ王国から北に位置した凍侵の森を、さらに北上したところだという。
今回その付近でおよそ180年前、群発地震と8つの火山爆発が連動して起こったと記録があるし。
魔素が大量に噴き出し、多くの凶悪魔獣の出現があるところだ。
多分魔王もその中にいる。
実際。今でもシエルデは地震多いしな・・。
王様も気が気じゃなくて、大変だ。
神殿から借り受けたしょぼい馬車をたった二人で、行く。
二人で御者台って、馬車の意味あんのか?
まぁ、記憶使って飛べないこともないけど、もっといろいろ話しておきたいこともあるからね。
早々についてしまっては周りに流されて、落ち着いて話も出来なくなるのは自明の理だ。
「ケツいてぇ~~」
「煩いなぁぁ。こう言う物なんだよ!」
「これが標準仕様なのかよ!?」
「舗装されてない悪路にスプリングがない座席。サスペがない馬車。これがこの時代というものだ!」
「・・最悪ぅ~~信じられねぇ~~」
「日本の有難味を存分に味わえ、はははは!」
「・・・ちぇ・・・」
暇なので話してばかりだ。
特にこっちの文化的な内容が多い。
「こっちの住人は朝が早い。4時頃から起き出してまず朝飯の前の軽い食事をする。大体パン粥みたいなやつね。その後すぐ仕事。朝食は7時から8時ぐらいで、大概露店や店で食べるのが普通。なので露店はいつも6時過ぎには店が出ているよ。家では作らないんだ。共働き多いしね。
そして仕事。昼は12時から13時。飯食ったら仕事~で終わるのが大体16時前ぐらい。夕飯は17~18時で就寝は20時前後。
これが標準の生活パターンなわけだ。
こっちの世界では朝食と昼食はまず外食だね。おかげで外食産業盛んですぅ~、露店だけど!」
「はぁ?」
「寝るの早いのは、こっちの夜見たらわかったろ?月がないから外は真っ黒になるんだよ。マジで真の闇ってやつ。勿論、街の中には防犯の関係で紋章街燈もあるけどさ。ただ、起きてたってていいことないから。娯楽らしいものはないしね。
だから暗くなったら寝る、明るくなったら起きる。これ常識」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「言っとくけどね~日本の江戸時代だってたいして変わらんよ?武士なんか早朝出勤、昼過ぎ帰宅が基本だったんだから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「実に健康的な生活が送れるよ!」
「飲み屋とかないのかよ?」
「あるよ~。でも22時前で店閉めるからね。粘ってると、首根っこ押えられて放り出されるらしい」
「・・・はや・・・」
「そんなもんさ」
勇者はマジかよ?とうんざりした顔をしているので、大いに笑う。
ほらね。夢も希望もないだろ?君にとっては。
ファンタジーじゃない異世界は、とどのつまりが現実ってことさ。
だってさ。こっちの住人に「ファンタジーしてますね」と言ったら、蹴り殺されるぞ。皆必死で生きているんだから。
「お・・魔獣出た。止めて迎え撃つよ」
「ああ・・」
「馬車番よろしく!」
僕は馬車から下りて、左前方から押し寄せてくる、どう見ても小物の魔獣たちに広範囲を一発ぶち込む。
「エアカッターEX!」
詠唱?面倒で要らんわ。もう最近そんな手間などした事もないしね。
はい、終了!
遥か向こうで細切れになってます。
「・・・・ユーリの方がチートじゃね?」
「僕はこれでも転生者ですので」
「・・勇者いらね~じゃん」
「よく言われます」
「・・・・・・・・・・・」
「さて行きますかぁぁ~」
またぞろ馬車を走らせる。
すりぬけて行く風が草の匂いを運んでくる。ざわざわと音を立てながら。
僕の前には赤茶けた道が延びていた。
それにしても。王都遠いわ・・。
「ユーリは、その・・平気なんだ?」
「何が?」
「いやぁ・・この世界・・」
僕は笑った。そうだよね、確かに日本の記憶は持ってるが、こっちの生活の方がずっと長いしね。ただ、日本の記憶でもそんなに大変には思えなかったんだよ。
「僕の生まれた時代の日本ってね。君の言うところの戦後の日本と新しい日本が入り混じった生活だったんだよ。
和式だけど水洗トイレはある、くみ取り便所もある。街にはバキュームカーが走ってて、臭いのなんの。でもって田舎では畑に糞尿を捲いて肥しにもしていた。
だからね~。
トイレットペーパーはある、でも灰色の硬いちり紙もあった。
2層式洗濯機もある。でも盥と洗濯板でゴシゴシ洗ってもいた。
うちじゃ子供のころはカチカチやるガス釜の木桶の風呂だったけど、田舎の祖父のところは薪で焚く五右衛門風呂だったし。
薪割り手伝ったり、山菜取りに行かされたり、セリ蕎麦食ったり・・・」
忘れかけてたあのころの懐かしい思い出が蘇ってくる。
鮮やかな夕日の中で、小川の小鮒をブッタイで取っていた。
暑い夏の夜、カヤの外から蛍が飛び交うのを眺めていたり。でも扇風機もあって、よく「ああああ~~」なんて遊んだりもしてた。
そうそう。瞬間湯沸かし器を親父が買ってきて、それまで水仕事だったのがお湯で皿洗い出来るようになって、手がアカキレだらけの母が泣きながら喜んでいたとか。
そんな時代だった・・。
多分勇者たちには知らない日本だろうなぁ~。
「要するにさ~・・。近代的日本の手前側も見えていたんだよね。
そのせいか、こっちで洗濯板使ってゴシゴシ洗ってるの見ても、トイレがぼっとんトイレで組み上げては畑に捲いているのも、僕にはそう可笑しなことでもなかったわけだ。生活臭という名の臭いに囲まれて」
「・・・」
「君たち勇者のいた平成?。凄いよね。更に進んでいるんだもん。あらゆるものが便利で、楽もいっぱいできてて。綺麗で・・。それだけの文明の利器に囲まれた生活を送っていたら、この世界になじむのが大変なんだと思う」
「・・昭和って・・そんなんだったのか・・・」
ずっと考え込んでいる勇者。
ガタガタと馬車に揺られながら。
ここは見渡す限り草原が続いてる。遠くに見える小さな森がぽこぽこと湧き出た泡の塊のようだ。
「ファンタジーは夢と希望が詰まってる。でもさ、そんな綺麗に飾った夢をこちらの現実に持ち込むのは反則だよ」
「もぉ・・分ったよ分ってるって」
「良かった!これから先、君が生きて行かなきゃいけない世界だからね、ここ。もっときとんと、地に足をつけてもらいたかったんだ」
しつこいと文句を言われるほど、何度も念を押す。
でないと生き残れない。
現実ってやつはどこの世界でも厳しいものだから。
しかも、平成の日本から見たら凄く文化水準が低い。まずそこで心が折れる勇者が多かったのも事実だし。
それでも、魔法と言う魔石があるだけ僕の知ってた日本より、実はいい生活しているのだ。
娯楽がないだけで。
ほんの少し不便なだけで。
それなのに。
勇者たちはこぞって『魔王討伐』に逃げたんだよ。
こんな生活させられるくらいなら魔王と戦った方がましだ!って・・。
あんな悲しいことは、もうごめんだ。
君は魔王との対峙を避けた。
これは一番画期的なことでもある。
だからこの世界を受け入れなくっちゃ、ね。
今までの勇者の中で一番ヘタレな君だけど。でも一番期待しているんだよ?勇者君
「悪い・・小便したい」
「分った」
ここで、少し休憩入れよう。
「警戒索敵しておくからごゆっくり~」
「こんな見晴らしのいいところで立ちションなんて・・・。なんかあれだ!気持ちいいわぁぁ!」
何やってんだか。僕は苦笑した。
精神的には10歳からあまり育っていない君は、ここに適応出来るだけの余力がまだ残っているだろうから・・。27歳だけど!
「解放感、半端ねぇーーーーー!」
やはり王都までは12日かかった。
遠すぎるわ!
ようやく王都に到着。
市民の皆さんにも知らされていたのか、歓迎ムードで大騒ぎの中、騎士のおっさんと魔法使いの人が出迎えに来ていた。その横には例の馬車がで~んと控えてる。
但し、件の勇者の姿を見て、大概の人は笑顔を引き攣らせていた。
分るよ。期待してたからね。
でもあまりに外見が・・あれだ。
子供みたいに見えたんだろうな~・・ちょっと小太りの。
騎士のおっさんまで微かに眉間のしわを寄せている。
「おい・・大魔導師。あの勇者で大丈夫なのか?」
「そこは騎士のおっさんの腕にかかっている。鍛え直してね」
「・・わかった。任されよ」
そして勇者と騎士のおっさんを引き合わせた。
「こっちが勇者くん」
「マツル・コンドーです」
おいおい。もう腰が引けてるの?大丈夫かいな・・。
「こっちが騎士のおっさ・・」
「王軍黄竜騎士団グレイル・フォレッカ上級大将です。貴方の指導育成を担当させていただくことになりました」
「よ、よろしく」
「勇者の力添えが出来る事を光栄に思っております」
うわ~。眼光鋭いよ。
勇者が逃げ腰になってるじゃないか。
でも。まぁここからは僕は知らん。だって剣の扱い方とか儀礼的挨拶とか。そういったこまごまな指導は勇者を預かる国が受け持つことになっているからね。
さて。門の手前で王国が用意した無駄に豪奢な馬車の方に乗り換えさせられた。
どうやらここからパレードのようだ。
僕が最も苦手とする奴で、些か頬が引きつる。
「ユーリも一緒なら安心だ・・・・一応・・」
「大丈夫。王城には居るから。但し、この先は君は君のすべきことをやらないとね」
「・・でも、ほら。俺は魔王と戦わなくてもいいんだろ?」
「勿論。だけどね・・」
僕たちは歓迎ムード一色の街の中を王城に向かって馬車は進む。
道なりには多くの人が諸手を上げて大歓迎だ。
「今の君だとド素人が剣持って魔王退治に行くようなもんでしょ?まぁ、そのままの意味で。
いくら『討伐しなくてもいい』とは言っても、それなりの格好とかあるじゃない?」
「・・・・」
「見た目以上に剣の技術的なところとか。今の君が行っても魔王なんて全然倒せそうに見えないもんな。
それにだよ?帰って来てから冒険者やるのに、まともに剣も振れないじゃ、周りも君も困るじゃないか。あまりに怪しすぎて」
「・・そりゃそうだけど・・。やっぱ訓練しなきゃいけないのか?」
本気で嫌そうだった。まぁ、あの騎士のおっさんを見たらビビるよな・・。
てか絶対わざとだよね、あれ。
「一か月は耐えてくれ。そしたら出発するし」
「・・・・・・・・・・・・・」
うわぁ~なんかもう泣きそうになってる。思わず肘を小突いて「笑顔、笑顔」と勇者を促す。
「ここで生きて行かなくちゃいけないんだから、最低限の剣の扱いは覚えておく。ただで教えてもらえるんだから、と思って頑張れ!」
「・・・・・・・・・・・・・わかった・・」
まだ納得はしてなさそうだが、そこは仕方がない。
僕と勇者はその間も、周りに手を振って慣れない笑顔を振りまいていた。
その歓声の中、僕たちは王城へとなだれ込んだ。
早速、会見の間で王様に会い、勇者は王さまより激励を受け『最大限の支援の保証』を取り付けた。
そこは国の体面もある。
「勇者様の御休みなられるお部屋にご案内させていただきます」
「お、おう・・」」
胸はそう大きくはないが美人なお姉さまの案内で、少しだけ気をよくした勇者が去っていく。その後ろ姿を見送りつつ、王様と騎士のおっさんへと向き直す。
「導きの大賢者よ、ここまで御苦労であった」
「これからが本当に大変ですよ。彼、筋金入りのお坊ちゃまですから」
「ほほ・・・」
「任されよ、俺がその根性叩き直してくれよう」
騎士のおっさんがドSだな。
「最初は優しく、持ち上げてやってくれ」
僕の忠告にムッとした騎士のおっさんだが、王様にも「初心者なのだからやんわりと、な」と釘を刺されていた。
「元々加護で勇者補正はあるんで、本人が嫌がらず訓練すれば、あっという間に伸びますよ」
「・・勇者とはそれほどのものなのか?」
「そうです、だから勇者なのです」
そこは、こちらの人間では越えられない壁があるのだ。
「さて、後はこの国でどれだけ勇者の才能を引き出せるかにかかっているので、お手並み拝見とさせていただく」
「あい分った」
「では失礼」
僕はそう言い残すと、早々に退出した。
取りあえず、休もう。さすがに12日間の長旅は疲れた・・。
早くベットで眠りたい~~。
久々に爆睡したなぁ~・・。
幾分寝過ぎて頭がもや~んとするが、このくらいがちょうどいい。
ペランダの窓から際こむ陽の光は 幾分高めの位置で寝過ぎ感たっぷりのようだ。
昨日はついて早々すぐ寝て、夕方前には一回目を覚まし、夕飯食べてから、実はとある紋章の作図に入っていた。
「う~~~~~ん・・・・」
ベットの上で伸びをする。
狙いはいいんだけどなぁ~。構成が難しいし・・。
一応作図は出来ているが、試すなんてことはここでは出来ない。もし刻印に失敗して爆発でもすれば、物理的被害だけにとどまらず濃い魔素が辺りに充満してしまう。
僕以外なら確実に魔獣化するレベルの魔素が・・・。
「紋章ギルドで尋ねてみるか・・。貸し工房とかあるといいんだが・・」
行先は紋章ギルド。
ついでに朝飯だか昼飯だか分らんが。取りあえず街に出て腹ごしらえもしてしまおう。
そうと決まれば、行動は早めに!
王城内に何時までもいると、勇者辺りに引っ張り出されそうな予感がするからね。君子危うきに近寄らず。
僕はこの一カ月でやっておきたいこと、やらなくてはならないことがいっぱいある。一々勇者に付き合ってられるか!
速やかにこっそりと王城から逃げ出すことに成功。
「さて~・・」
飯だ!お腹すいたぁ~。
露店巡りをしながら食い物を買いあさり、食べながら紋章ギルドを目指す。
なんというか・・。ますます食材不足が酷くなってきている。
ついにここまで来たのかという感じで、露店の店先に並ぶ品数もだいぶ減っていたし、価格も高騰中だ。
僕は口直しに、買い置きしてあったサンドイッチとかも出して食べている。
「おっと、ここだ」
紋章ギルドの重々しいドアを開けた。
「こ、これはユーリ大魔導師様」
「やぁ~」
にこやかに肩手を上げてご挨拶。何と、受付にあのおっさんが座っていたのだ。
あまりに嬉しそうにこっちを見て来るんで、ちょっと意地悪してやろう。
「あれ?受付嬢は?」
「交代で昼飯に行ってます・・」
「なるほど~。いやぁ誰でもいいんだけどね、実際」
「何か御用でしょうか?」
あははは。おっさん、面白い位に不貞腐れてる。この人本当おもろいわ。
「えっと。貸し工房とか、あるかな?」
「貸し工房?ですか・・?」
「うん。少し試したい事があってね。ちょっと自信がないから危険を考えて・・みたいな?」
「500年ほど前に廃れてしまいましたね~そういうの」
「そっか~・・困ったな」
一旦我が家に戻るか。その方が早いかも知れん。
「あ。ですが、当ギルドの地下施設に紋章試験会場がありますので、そこでしたら使えますよ?」
「ん?いいの?」
「最近では学校で資格試験取ってくる人が多くて、今ではほとんど使われなくなってきているんです」
「へぇ~・・」
「お使いになられるならご案内しますが?」
「じゃぁお願いする」
まぁ、手近にある方が便利だ。
おっさんに案内されて、左奥の階段から地下の施設へと向かった。
「こちらです」
右奥手の扉を指すが、どうやら左奥は工事中になっていた。何かやったのか知らんが破壊されていてそこを補修中らしい。
「あっちは?」
「あ・・あああ。き、き、気にしないでください!」
「そなの?」
「はい!」
取りあえず、右手奥の部屋へと入る。
さすがに紋章ギルドなだけあって、四方を囲む壁にはずらりと中和街燈が並んでいて、凄い設備だな。
「ではここ借りるね」
「はい!」
僕は早々に書きあげてきた作成図を机に広げる。
「こ、これは?」
おっさんが横からじっと眺めて来る。その瞳はキラキラと輝き、しかも真剣そのものだ。
ああ~この人。実際は相当な腕の持ち主だったな。多分・・。
「これね。防壁の紋章なんだけどね」
「これが?俺の知っている防壁紋章とはずいぶん趣が違いますが・・」
「う~ん・・。新作に近いかもな。従来のは一定の魔防物坊効果だったんだけど。今考えてるのは、魔獣の力に合わせて変動可能なものにしようかと・・」
「・・・はぁぁぁ???!」
「かなり込み入った紋章になるため、普通は無理なんだけどね。そこを何とかしたくって、だね~」
「・・可能なのですか?そんなこと」
「不可能じゃない。というか、そこを可能にするのが僕じゃない?」
「そ、そ、そうですよね!」
僕は一回、居間造ってきた紋章で魔石に刻んでみようと、ポーチから魔核を取り出す。
こいつは前にパーティ狩りした時の例の「ユニーク」の魔核だ。
サッカーボール並みの大きさも紫紺色の魔素濃度も申し分ない。
「一回刻むから外に出てもらえるか?」
「は、はい」
何度も振り返りながら出て行くおっさんを見届けた後、僕は一気に紋章を展開させ、圧縮、刻印。
・・・暴発はしなかったか・・。
今度は効果を試すためにその場で、防壁展開。
「う~~ん・・・駄目だな。ここの回路をこっちとこちらに繋げ直してみるか」
僕が作図と睨めっこしながら、その眼端におっさんがドアの隙間からのぞきこんでいるのわかる。
「・・見学してても・・よろしいでしょうか・・」
頬を上気させてウルウルした目でこっち見てるし。
まぁ・・いいか。おっさんの知恵も借りよう。
「いいよ。ちょっと手伝ってくれるか?おっさんの意見も聞きたいから」
「お、お、お、お、俺の意見でも、お役に立てれれれれるぅ・・・の、でしたなら!!」
非常に嬉しそうである。しかも興奮し過ぎだ。
さて、頑張りますか~。
1メートル四方の紙の上で、僕はおっさんと二人で悪戦苦闘している。
おっさんはいろいろ持ち込んで簡易ベットを作り、ご飯を運んできたりしてくれる。
要するに、僕とおっさんは二人でここに泊りこんでやっているというわけだ。そこまで入れ込んで仕事はどうした?と思ったら「纏めて休暇取りました!」だと。
こいつは~。
ま、いいか。
しかもそこそこ戦力になってるしな。
僕が寝てる間、おっさんはずっとテーブルルーペを使いながら、不具合がないかどうか確かめてくれてるらしい。
ぼんやり起き上がると、いつも机に伏せて横には「こうしたらいいかも?こことここが接続不安定かも?」みたいな書置きが置いてあり、参考にさせてもらっている。
「さて・・。これでどうかな?」
僕は書き上がった図面から紋章を浮き上がらせ、圧縮、刻印してみる。
そばに付き添っているおっさんも顔を強張らせていたが、失敗はしなかった。というよりなんか成功したみたいだ。
「・・成功ですかね?」
「う~~ん・・後は実験ですね」
「実験ですか?」
「実際魔獣のいるところやってみないと効果が分らないからね」
「そうですね~・・」
「僕の家の周りでやってきますよ。あの辺A+とかごちゃごちゃいてるから」
「・・・・・遠いですかね?」
何やらおっさんも付いてきたそうな雰囲気だな。記憶で飛べるので、ここに記憶を作って、おっさんも連れて行ってあげようかな。
「ここに記憶を作る」
杖を出して、早速紋章を展開させた。
「おっさんも一緒に来るかぃ?」
「いいんですか!」
「うん」
そしてそのまま家に飛んだ。
まぁ結果的には大成功で、問題なく防壁紋章は発動した。肝心な魔獣の強弱に合わせた変動も確認できた。
「画期的です!すごいです!」
おっさんの喜びようったら・・・。これで、魔王討伐の準備は出来たと言える。
「この作図。特許提出しようかと思っている」
「・・ええ?本気ですか?」
「まぁ少しは貢献しないとね」
特許制度は2回目の勇者シオンが言いだしっぺで僕が悪乗りして作った制度だ。その前は昔から何でも個人で秘匿してしまい、世に知らしめない事が常道だった世界に変革をもたらした。魔法や紋章など、これによって進歩してきたのだ。
さて申請は僕とおっさんの連名にしておこう。かなり協力してもらったしね。これで安定した収入も見込まれるはずだ。
といっても、今回の紋章は・・真似するのも難しいか。
その代り、紋章の歴史に一石を投じたことになる。
おっさんには内緒にしておこう。
「お城に戻りますかぁ~」
もう10日近く御留守にしていたしね。
城の傍の監督省によって、特許申請をついでにしてきた。さて~。
久々の王城だなぁ。
「ああああ!ユーリ!お前どこ行ってたんだよ!」
早速泣き付かれました・・勇者に。
まさか廊下でばったり、とか予想もしてなかったし。
「こら、時間が押してる。次は剣術だ、行くぞマツル殿」
「かぁ~、待ってて!ユーリ!」
「凄いなぁ~本当に10日でここまで痩せたんだ?」
「え?そこ?・・あ、まぁ~」
騎士のおっさんの隣に立つ勇者は、ちょっと見ぬ間にえらい様変わりしていた。引きしまった身体に筋肉もしっかり付いてるし、ぼや~~んとした顔つきが精悍に。随分勇者っぽくなっているじゃないかぁ。
いやいや~~凄いわ・・。
「だって、飯は旨いけど量がなぁぁ!しかも毎日閣下に・・」
勇者は隣に立つ騎士のおっさんをちらりと見上げ、苦笑する。
「後一応3週間。頑張ってね」
「ああ・・うん。頑張るよ!」
来た当初の嫌がりようがまるで嘘のようだ。積極的とはまだ言い難いが、それでも前向きになってることは褒めるべきだろう。
「またあとでな~」
「おう!」
僕はその間、魔王出現地をきちんと下調べしておかないとね。
それがすんだらいよいよ出立だな。魔王討伐に。




