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大賢者が往く。  作者: ましまろ
大賢者 謎を解く
12/23

賢者と女神

 僕はペランダで腰をおろし膝を抱えて、闇を見る。

 地球のように月がないため、本当に暗い。どこまでも漆黒で、闇の深さが違う。

 でも、黒々した木々の向こうから溢れんばかりの星の煌めきは、あまりに幻想的で美しい。

 僕はこの夜空が好きだ。


 部屋の奥から、呑気な鼾が聞こえてくる。


「はぁ~・・」


 どの道今夜は眠れそうにないし、ベットは勇者が独り占め。

 昨日までダンジョン潜って疲れているはずなのに、なぁ。

 まぁ、勇者と一緒に寝たくもないしな。




 星に語りかける。


「ついに謎解きの時間が来たんだね~」


 ずっといろいろと考えていた。

 そしてそれは取りとめのない断片的なもので、それを繋ぎ合わせ、答えを探し続けた。






 いまだにはっきりと、あの時の光景が思い出される。

 

 魔王を目の前にして、臆することなく走り出したリョウヤのその後ろ姿。

 勝てる!と信じたあの瞬間。

 魔王と触れ合ったリョウヤの姿を、見た最後。

・・・・・・・・・・・・信じられない爆発が起きたのだ。


 一瞬にして辺りは白い閃光に染まり。

 何万度と言う熱量と吹き荒れる熱風が襲う。


 僕の前にいた仲間達の姿が、蒸発した。

 声すら上げる事も出来ないほどの短い時間で。

 僕も死んだ。でも1秒後には生き返り、そして死ぬ。

 それを何百回も繰り返すほどの、物凄い爆裂だった。

 しかも中心地は吹き飛んだ大気によって真空になっている。

 まるで包み込む巨大なドームのように。


 僕はその間も。死んでは生き、生きては死んで・・。

 一瞬で全身は焼き爛れ、粉砕されていく。その激痛と恐怖。

 その1秒後には完全蘇生し、また燃え尽きる。

 熱いよりも痛み。崩れる肉。繰り返される恐怖。

 その中で一人、コマ送りで消滅していく世界を見ていた・・・。




    ・・・・・気がつけば、僕だけがそこに佇んでいた。


 山も森も・・・丘も河も・・・何もかもがなくなっていた。

 ただ、あまりの高温にさらされた大地は、ガラス状に変化していて・・。

地平線の見える遥か彼方まで、無の世界が四方を囲んでいる。

 僕を中心に・・・世界はキラキラした平らな大地でしかなくなった。


 半径150キロ弱。


 どれほどの威力だったのか・・・計り知れない。

 空は舞い上がった塵に覆われ、薄暗い灰色の世界になっている。


 僕はしばらく放心していたと思う。


 それからおもむろに、魔王とリョウヤのいた付近へと、歩く。

 

 すり鉢状の底辺は何故か真っ平らで・・直径300メートル、深さ10メートルの真円を描いていて、僕は中に降りて行った。

 そこに残されていたのは、黒い金属板だった。

 長方形の厚さ5センチほどの薄い板状のそれは、かなり重い。

 艶消しマットのような表面。切断面と思しきサイドはつやつやしていて光を弾く。


「こんなものが・・・何故?」


 何故?

 いったい何が起こった?


 あの時の、現象。

 残された疑問。

 



「・・・ああ・・そうだ。もう分ってる」


 女神と対峙する。答え合わせの時間だ・・・。




 大神殿の奥、真っ直ぐ伸びた廊下をひたひたと僕は歩く。

 まだ夜が明けきらぬ時間帯。誰一人すれ違う者もいなかった。


 うっすらと白み始めた辺りを、白い靄が静かに流れて行く。

 右手は程よく手入れされた庭園を望み、左側は白亜の壁とドアが均等に並んでいる。物音ひとつない静寂の中で、僕はその先へと進んでいく。

 時折、水の流れる音を耳にする。

 目的地はすぐそこだと、それが教えてくれた。



 僕の目の前が急に開けた。


 そこは大きな湖水。

 揺蕩う水面には小さな白い花がいくつも浮かんでいる。清冽な空気。

 その湖を突っ切るようにまっすぐ伸びた廊下。と呼んでいいのかな?

 小さく波打つ水面の上をゆっくりと靄が流れていく。

 幻想的な光景。


 僕の進む先に高さ5メートルほどの滝がある。

 だが、その滝には水源が見当たらない。

 そう、滝は。突然空間から現れ、延々と水しぶきを上げて落ちているのだ。

 神秘的なその様に、誰もがひれ伏す。

 これが女神の泉。

 女神信仰の発祥となった地。


 僕はその前で佇み、じっと流れ落ちる滝の水を眺めていた。


「本当に不思議だな・・。何もない空間から水が流れ落ちる様は・・確かに神のような御業だな、うん」



 その滝の中から、女神が姿を現した。

 半透明で、どこかざらついた感じがまるで出来の悪い白黒のホログラムのようだ。

 しかもその姿は神殿の各所に設置されている女神像とは、似ても似つかない。

 人が考えた女神像は何しろ美人過ぎた。浮かべる頬笑みはとても慈悲深いのに・・。

 だが目の前の女神は、こちらの住人のとは違い凹凸が少なく、そして美人でもなければ可愛らしさもなく、まるで能面のようで殊更に無表情が不気味過ぎた。

 現実と妄想はやはり違いすぎるな・・。

 長い髪を頭の上に結び下に長く降ろし、着衣も古ぼったい、なんとも味気のない格好。それに胸のふくらみがない。残念なまな板だ。

 これが、女神か。

 信仰の対象にしては些か不細工過ぎだろう。

 こんなに特徴のない顔、記憶にすら残らんぞ・・・。



「こんにちは」


 僕が声をかけると『お前はいらぬことをしてくれた』と頭の中に直接話しかけてきた。

 その声は無機質で女とも男とも取れない。

 女神などと言っているが、どうせ性別なんて必要としてない存在だからね。だからどっちつかずの姿なんだろうなぁ・・。


「事実を教えたまでですよ?」


『・・・・』


 僕は一呼吸置いて、出来そこないの画像のような女神に笑顔を送った。


「でも、貴方の狙いは叶うでしょ? 異世界人をこちらに呼んで~というのは、ね」


『・・・・どこまで知っている_?』


「貴方はずっとこの世界を見てきた。そしてあまりに緩慢な進化にいらいらしていた。違いますか?」


 星の進化の過程で知的生命体が発生し、膨大な時間をかけて進化する。それは星の数を考えたら、そういう『偶発的要素』はどこにでも転がっている。

 まぁそこはいい。

 地球で言えば猿が人の姿になるまでに700万年ほどを要していたように、この世界でも数百万年かかってようやく人としての文明を持つようにまでなれた。

 そこまでは同じでも、何故かこちらの世界は一定の水準から進歩しなくなった。否。遅々としてだが進んではいる。

 それが既に数万年。

 魔素のせいだ。というのは簡単だが、あまりにも地球とは違いすぎるのだ。

 宇宙には宇宙の時間の流れがあり、人の進化も意外に時間を要するものだ。この星の知的生命体は、きっと数万年かけて進化していくものかもしれない。それも、進化の発生からすれば、数百万年という膨大な時間かかっているのだから、最近の数万年は微々たるものでしかないはず。

 何より、緩慢であっても停滞しているわけではなかったのだから・・・。

 この世界の、この星の特徴なのだと思えばいいとさえ思っている。

 僕にしたら地球のここ数千年足らずで、劇的な進化の有り様の方が異常にしか思えない。

 何故なら、精神が、心がその進化速度に追いついていないように思えるから・・。

 だが。

 女神は速さを欲した。


 ただ、退屈だっただけかもしれないが・・。

 


「この世界に一回転機は訪れた。今から7400年前。魔王が暴れたからだ。

その前までは魔王が出現しても勝手に消えてくれていて、差したる影響がなかったのに、その時だけは大地の半数が焼け爛れ、都市や町が壊滅し、人々は存続さえ危ぶまれるほど、衰退した。

 貴方はこれを機に、人は爆発的な文明を築き上げると、期待していた」


『・・・・』


「だが、望んだことは起こらなかった。人は失った文明を元通りにすべき頑張ったが、本当に、元に戻しただけだったからね。そこには、ほとんど進歩のかけらも見られなくて、貴方は絶望したことだろう。

そうですよね?」


『・・・・・』


 女神は願っていたのだ。こんな住人達でも自力で文明をもっと発展させていく様を。

 だが、無表情な女神は相変わらずその佇まいに変化が見られない。

 まぁ。どう見ても不出来な立体映像だし?


 僕の足元に流れる霧が、ほんの少しだけ衣服に重さを与える。

 目の前に流れ落ちる滝の水の動きも緩慢だ・・。

 時間に何らかしらの影響を与えている、と見た。


「だから貴方は、最後の手段である、異世界からの召喚を決めたんだ。

 そう。自分たちで作れないなら。どこかから、こちらに持ってこさせればいい。新たな文明、文化、思想、知恵、知識を外部に求めたんだ。召喚勇者と言う隠れ蓑で。

 魔王なんて放っておいても消えることを知りながら、魔王討伐と言う目的意識を与えてあげたわけだ。それを彼らが望んでいたから。そして貴方にも都合がいいし。

 どうせ。向こうから来るのはあちらの宇宙から追放された『廃棄処分』の魂だったから。その後、どうなろうと知ったこっちゃないし、ね。

 その上貴方が切望した異世界の文化、知恵、知識など。頼んでもいないのに勇者たちは誇らしげに教え、それを緩慢すぎるこの世界に広めてくれた。

 女神。貴方の望む通りに」


 勇者召喚には、女神の思惑が詰まっていた。

 何も知らずに召喚し続ける神官たち。

 何も知らずに召喚される勇者達。

 特に地球文明知識チートなど、女神にとっては願ったり叶ったり、だろう。


 そして気がつけばいくつのも進歩がそこら中に散らばっている。

 凄くバランスの悪い、出来そこないの文化が目の前にあった。

 便利だけど、あまりに滑稽な光景。


「それでね~。

 僕は知っているんだよ。この召喚魔法陣のひ、み、つ」


 何度も召喚の儀式に立会、それを目にしてきた僕は、実際、何回も実験を繰り返した。


「あんたさ~。1回目勇者召喚の、1000年ほど前に召喚の実験やらせていたでしょ? 神官たちに。それも4重紋章魔法陣で」


『・・・っ』


 驚いたのか、画像が乱れた。その表情には変化がないのにね~。


「最後の5重目紋章は後から付け加えたものだ」


 今からざっと6000年前。僕が生まれた400年後ぐらいか。

 まぁ、その頃の僕は王侯貴族とのゴタゴタでそれどころじゃなかったし、そう言った裏事情には考えも及ばなかったしなぁ~。

 ああ、馬鹿だね。

 あの時代にも魔王出現してたのに、何故立ち消えたかさえ疑問にすら思ってなかったんだから・・。

 とにかくその頃、並行して神殿側も何かをやってたわけだ。

それが。


 女神は4重召喚魔法を神官たちに教え、召喚させていたということ。

 僕がそこに気付いたのはその最後の紋章だけが、前の4重紋章と造りが少し違ったからだ。まるで後付けされたかのような、不自然さがあった。


「女神はこちら側の存在だから知らなかった。

 確かに住人の中には魔素耐性がない人もいる。

 だがね。人類が進化していく上で、魔素との闘いは常に遺伝子レベルであったんだよね。

 いくら耐性がないとは言っても、綿々と受け継いできた隠れた耐性遺伝子は、誰しもが持っていたんだ。

 ところが、異世界人は違う。

 全く全然、魔素と言うものに触れたことがない人間だ。

 最初の召喚で現れた異界の者は、目の前で魔獣化した。それも想像に度し難いほど醜悪な存在に。

 召喚された彼の者は一瞬のうちに喉、気管支、肺を冒され、表層皮膚は一気に変質し、そして折角の『脳』そのものが侵され使い物にならなかった。でもまぁ、暴れれるより先に多分崩れ去ったんじゃないの?

 元々この世界の生き物じゃないし、ね。片づける手間はあったかもしれないが」


 こうして栄えある第一回目の召喚は失敗した。

 リョウヤが一回目じゃなかった。

 成功という意味では一回目にはなるんだろうけどね・・。


『・・・・お前は見ていたのか?』


「見てはいないさ、残念なことに」


『・・・・』


「で。以後の追加で耐性紋章を付け加えて、勇者召喚に成功した。それが成功第一回目の勇者リョウヤだ。あのときは僕も随行していたしね~。

 ところで。僕は勿論当然だけど・・。

 女神、貴方も気づいていなかった」


『・・・・・・』


「まさか。あの5重目の魔素耐性紋章が、狭間の通過時点で、異世界人の体内に・・・別質の『核』をもたらすことになるとは、ね。そうでしょ?」


 そう。勇者は魔素に対してめちゃくちゃ強い。まるで何もないかのような振る舞いで行動できた。吸収するわけでもなければ、跳ね返すわけでもない。


『お前・・・・!』


 目の前の女神は、無表情なまま、怒りと驚きを表している。

 すごいなぁ~。笑いながら怒ったり、泣きながら笑ったりという芸当の本家じゃね?!

 無表情過ぎて怖いわ。能面の方がまだ表情あるって。

 僕はポーチから、あの黒い金属板を出し、掌の上で回す。

 それは空中で、ゆっくりと回転している。


「僕は地球における核爆発と言うか核弾頭の爆発シーンを嫌でも見ている、映像で何回も。大きなキノコ雲。広がる輪。内部で雷が発生している様。

またはとある国でのメルトダウンした光景。


 魔王と勇者は、所謂核反応による核爆発を起こした。

 魔王の持つ高密度な魔核と勇者の体内にあるやはり高密度な別質の核。

 目の前で見ていたから、僕は。あれは異世界地球にあるものとは全く別のものだったが、間違いなく核爆発だったよ。

 中心部から広がる巨大なドーム状の爆発。その周りを幾重にも取り巻く輪。真空状態に高圧力のエネルギーの圧縮。僕すら知らない全く未知の爆発。

 そして爆心地に残された、この物質」


 女神の反応はない。僕はあるエネルギーを流すことでその物質を動かす。

 不規則に現れては消える。

 これを調べる術はない。何せ魔核ですら調べられないのだから。

 そういった分析化学はま~~ったく進んでいなのだから仕方がない。だが、予測はつく。


「地球ではまだ発見されていない・・・原子構成を持つ物質」


『それをよこすのだ』


「光が1年かかって移動する距離を1パーセクと言う。これさ。移動がパーセク単位なんだよね~下手すれば時空間航行も可能かな?」


『よこすのだ!』


「こいつは、ほら・・・。まるで消えて移動してるみたいだろ?」


 僕は物体に『意思』を伝えるだけで不規則に、空中を移動させている。まるで瞬間移動のように。しかもふらふらしているが・・僕のコントロールが悪いせいかもしれない。


「星間航行可能にさせる未知の物質だよ、ね。そうでしょ?」


『それをよこせ!』

 

 僕はポーチにしまう。

 地球では発見すらできていない。そりゃそうだ。地球には魔核なんてないからね。そして魔核を作り出す科学力も、今のところ、ない。

 僕が魔石を魔核と言い変えるようになったのは、実はこの発見のせいだ。


「嫌だね。それに実態を持たない女神が受け取れるわけもなかろう?」


『・・・・・・・・・・・・』


「あんたはこれの存在に気付いた。だが僕も気づいた。僕はね~、リョウヤの残した謎を知るために全ての勇者の最後を見ようと、ずっと観察していたんだ。それと同時に女神、あんたもね」


『おまえは!』


「あんたはこれを使ってこの世界の住人を宇宙に飛ばしたい。・・のかな?

全く。勇者の妄想以上に馬鹿げてるな。彼らの方がもっと可愛いよ?」


『・・っく』


 僕は、歪む画像の女神を見据える。


「でも早計だね。時期じゃない。全然育ってないよ、まだ。

 だから僕が全て預かってやる。どの道、あの核爆発の中で生きていられるのは僕だけだし?

 いかに傀儡を作ろうと無駄だと思うよ?

 すでに何人も僕のところに送り込んでくださってるようですが~。

 大体ね、あの森の魔獣A₋~A+なんだよ、分る?単身で突き抜けるなら勇者クラスでなくっちゃ。結局ゾンビ化した奴、僕が片付ける羽目になって迷惑してるんだよ。

 まぁ~肝心要な勇者たちが、主材料じゃ~ねぇ?

 もったいなくって使えないよね?」


『いつか、お前から奪い取ってやる!』


「そ~ですかぁ」


『・・そうか・・。それで邪魔をしたのだな・・・勇者に魔王を近づけないとはそういうことか!』


 僕はもう話は終わったので、早々にその場から離れようと女神に背中を向けた。


「まぁ・・時間ならたっぷりあるし。異世界人の命をあまりに軽く見ているあんたが好きじゃない。そして僕はむざむざ勇者を死なせたりしない。一応同胞だし」


『召喚の邪魔はさせぬ』


「別に、そんなことはしないよ。あんたじゃないけど勇者がもたらす知識は僕にも好ましいからね。・・・・変な物質より」


 僕は軽く手を振った。サヨナラだ、女神。

 僕が、彼らを救済しよう。今はそれでいい。

 大体、宇宙を望むには幼すぎるんだよ、ここの住人達は。これが役立つにはどうせ遠いのだ。

 何より、サンプルならここに3つもある。

 3名の勇者の命と引き換えに・・。

 リョウヤとシオン、そしてイツキ。

 彼らの魂だ・・。これは。

 無駄にしてたまるか。


 そしていつの日にか、それを解明できるほどの科学力を人類が持った時、初めて外宇宙へと飛び立てる資格が得られるというものだ。

 その時まで、僕が保管する。


『・・・お前の加護は私の与えた「探究者」か…!』


 やっと、そこに気がついたか・・。

 そうか。女神といえども万能なんかじゃなかったからね。何しろこいつの正体は・・・神なんかじゃない!

 神格化はしそうだが。まだそこまでには至っていない。

 でも。本当に神化したら面倒だけどなぁ・・。


「自分の加護で自分の首を絞めたわけさ。楽しめただろぉ?」


 ゆっくりと水面に浮かぶ白い花を見ながら、僕は微笑む。滝の音が遠ざかり、神殿の廊下に足を踏み入れた時、いきなり体が傾いだ。


「・・な?!」


 全身がぐにゃぐにゃと歪む感覚に襲われ、僕は床に膝をつきそのまま倒れた。

 苦しい。痛いのではなく、苦しくて気持ちが悪い・・。

うまく呼吸が出来ない。

溢れ出る汗で霞む目が自分の手を捉えているのに・・・・。

感覚が床の冷たさをとらえているのに・・・・。

 でも、僕の腕が捩じられている・・奇妙な感じ。

何だ?・・・・何が起こった?

 全身が捩じられて、奇怪な姿になっていくような・・・それでも目に見える自分は普通?

 なんだこれは・・・?

 くるしい・・。

あああ・・・そうか。魂が捩じられているんだ!

                  

『お前に与えたその加護、返してもらおう』

「・・う・・・うう・・」


 意識が飛びそうになる。

 頭の中が白濁し・・いろいろな、何かが抜け落ちてく・・。

 紋章の構成も術式の呪文さえ・・。

 しまった・・。

 加護によって記憶していた物、全てを失いそうだ・・。ぽろぽろと櫛の歯が抜けて行くように、あらゆる事柄が消えて行く。

 記憶さえ・・・失う。


「ぐ・・」


『お前はもう、優れた知能を持つものではなくなった。もう私に贖えまい』


 くそ・・。

 凡人以下になりそうだ・・。やばい。このままでは・・・。







 女神の加護を無理やり奪われ、だが、その空いた穴に何かが差し込まれた感覚がした。どういうことだ??


           【 加護 】 

           

          ≪ 森羅万象 ≫


    ~宇宙の理を知る者。または理を知ろうとする者~


[探究者極上位。知識と知恵を駆使し、また高めて行く能力に長け、全てを記憶する者]



「な???」

 

 僕の体がいきなり淡い光を放つ。

 それと共に失われたはずの数多の知識が蘇ってくる。強烈な知識の嵐の中に今、僕はいる。あれほど嫌っていた事なのに奇妙な安心感が生まれた。

 苦しさも奇妙な捩じれ感も、消えて行く。

 何だこれは?

 僕の加護がまた二つに戻った。誰だ?いったい誰からの加護なんだ?!



 しかも。 監視者も変わってる・・。


   

         ≪管理者≫


    ~この世界を導く者。女神を監視する者~


         [不老不死]




 僕は自由になった身体を起し、茫然となった。


 女神の束縛を嫌った何かが、僕に与えたもの、というわけか・・・。

 僕。なんかさ、振りまわされていない?いったい誰だよ、ふざけやがって!

 大体そいつだろう?!僕の魂をこっちに引き寄せたバカ野郎は。あ。でも、今回はマジで助かったかも・・・。

 感謝だ、どこのだれかさん~。


「はぃ???」


・・・創生・・・・・・名もなき・・・・・原初の・・・神?!



 僕は立ちあがりながら、頭を掻いた。

 創生・・? 原初の神だぁぁ?

 まぁ、なんだ・・・。


「ま、いいか」


 要するに人の思念体の、出来そこないの女神よりは本物の神様ってことなんだろうかね。

 とにかくだ。

 僕のため込んだ膨大な知識は手放さずに済んだわけで。終わりよければ全てよし!

  

 でもまた、あの面倒臭い女神のお守り続行ですかぁ・・。

 いいけどね。


「あ~あ・・。すっかり夜が明けちまったなぁ~」


 左手の庭園に陽が差し込み始める。

 辺りを覆っていた靄もすっかり姿を消した。

 そこに、木々の小枝をとび跳ねまわる、小鳥のさえずりが賑々しくなってきた。お前ら少しは自重しろ!煩いわ!


「ふぁ~・・・ぁ」


 ああ~視界に黄色のフィルターかかってるわぁ。


 寝不足だ。てか寝てないし!

 年寄りに貫徹とか、きついんですけど?!


 早々、部屋に戻って、あの良い気分で寝くたばって勇者叩き起こして、今後の対策を練ろう。てか、僕がその後寝よう!人のベット奪いやがって!

 

 取りあえず、目標『魔王退治』




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