rain1-8 誓い
しばらくの間、僕らの間を言霊が飛ぶことはなかった。
なにか話しをしなければと思ってはいるが、何を話したらいいのか、まるで見当がつかない。
まだ僕の頭の中ではさっきの恵美の言葉がエコーのように繰り返し響いている。
好き。
実は恵美がその言葉の前に言ったことをあまりよく覚えていない。
恵美のその言葉がほかのすべてを吹き飛ばしていた。
好き。
まるでこだまのように頭の中で繰り返される言葉。
僕は、必死にその言葉が出る前のことを思い出そうとしていた。
恵美から毛布をもらって・・・、それから・・・。
好き。
よほど衝撃的だったのだろうか。
思い出せない。その言葉が他のことを思い出すのを阻む。
恵美も黙っている。でもその視線は再び空に向いていた。
恵美はいまどんな気持ちなんだろう。
うれしい・・・のだろうか?
僕はこんなにうれしいのだから・・・。きっと恵美も。
僕が恵美に伝えなければいけないことを、全部伝えなければならないと思うと、余計に言葉が出なくなる。
それでも僕は、必死の思いで口を開いた。
「恵美・・・」
その言葉に恵美は空に向いていた視線を静かに僕に向けた。
「ありがとう、僕のことを好きだって言ってくれて」
「ううん、こちらこそありがとう。ちゃんと聞いてくれて、聡の気持ちも素直に言ってくれて」
恵美は笑顔だ。
「僕は・・・・」
真剣な顔で恵美の眼を見た。
「僕は、この星空に、僕自身に、恵美に誓うよ」
恵美の顔には疑問符が浮かんでいる。
「この先なにがあっても、どんなことがあっても、僕が必ず恵美を守る。僕はずっと恵美の味方でいる。それを誓うよ」
「聡・・・。うん、ありがとう」
恵美の顔は相変わらず笑顔だが、この暗闇でも頬が赤いことが分かる。
僕はそんな恵美が愛しく思えた。
僕は誓ったんだ。この星空に・・・、恵美に・・・、そして・・・。
僕自身に・・・。どんなことがあっても必ず恵美を守ることを。
僕の魂に・・・誓ったんだ。
rain1は終わりです。次回からはrain2。玉木恵美視点です。




