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「悪いな、入る部活はもう決めてるんだ」
「おっと、僕は帰宅部なんで。ルビーちゃんが帰りを待っているんだ。ふひっ、ふひひ……」
「僕は生徒会の手伝いで忙しい……ってこの話昨日もしただろう。ていうか昨日はよくも逃げ――おい!待て!」
「はぁぁ~……」
「……そっちもダメそうだな、綾」
「ええ、大体の人はもう部活を決めているらしく……」
「サッカーに野球にラクロスに弓道に吹奏楽、全部全国トップクラスだもんな、うちの高校」
「はい、私たちのクラスの人たちも皆大手の部に入るみたいです」
俺たちの通う高校は進学校ではあるのだが、かなり部活動に気合いを入れているらしく、それ目当てで入学してくる生徒達がほとんどらしい。もちろん進学校なので、勉強は初日を通してわかるくらいにはきつかったりする。姉も綾も慎二もへっちゃらそうだったが……。へんっ、どうせ俺は頭のできが悪いですよっ!
「まあべつにいいわ、2人以上いれば同好会として申請できるから」
「でもそれだと部室貰えないじゃないか」
「仕方ないでしょ、私だってそんなにすぐに人が集まるとか思ってないわ。というわけでぇ~、はいっこれよろしく」
「……ほへ?」
渡されたのは一枚の紙。えっと、なになに……部活動新設書?
「じゃ、私たちは帰ってやることあるから。提出よろしく!」
「お願いしますね、芳人君」
「って、まて!自分で出せよ!どうせ帰ってやることってゲームのことだろ!」
「違うわよ、ハンマーで金属を打つ立派な仕事よ!」
「言い方変えただけじゃねぇか!」
「わ、わたしも……その……芳人君の、お肉が食べたくて……ジュルリ///」
「なんか言い方がエロい!?」
「ま、そういうことだから。行くわよ綾ちゃん」
「はい、失礼しますね芳人君」
「あっ、おい!……はぁ……」
めんどくせぇなぁ……。
「VR技術研究会(以下VR研)の主な活動内容は、科学技術の最先端であるVR技術を様々な視点から観察し、今後どのような発展を遂げていくか、また、どのような分野に応用できるかなどの研究、議論を行う。VR研では半年に一回のレポート提出を義務とし、これを活動成果とする。ねぇ……」
活動内容を見れば、まっとうな部活のように思えてくるが……
「どうせゲームしたいだけだろ……」
つか、帰ってからやればいいじゃん……。そんなに学校でゲームがしたいのか……?ていうか――
「ここどこだよっ!」
あたり一面に乱立する木々……。どうやらいつの間にか森の中に入っていたようだ。ここ学校だよな?
「う~ん……ドジッ子方向音痴属性でもついたのか……?」
この学校が広すぎるのが悪い。うん、そういうことにしておこう。だってここ、OBである大企業の社長が結構な額の投資をしているらしく、下手な大学のキャンパス以上の広さの敷地があるらしい。仕方ないよね、まだ二日目だし。
「とりあえず来た道を戻ってみるか……」
「……――で――――わ!」
「ん?話し声?」
3分ほど歩いたところで、ふと話し声が聞こえてきた。
「ちょっとリズ!大丈夫ですの!?」
「ええ、このくらい――っつ!」
「無理しちゃダメですわ!今他の使用人を呼びますから、それまで安静にしていなさい」
「はい……すいません」
あれは……生徒会長と……メイド、だよね?メイド服着てるし。どうやらメイドさんが足をけがをしているらしい。
「あら?おかしいですわね……」
「琴音さん、ここは森の中ですよ。電波が届くわけないじゃないですか」
「あっ!ど、どうしましょうっ」
う~ん、困ってるみたいだし声かけてみるか……それに、用事もあるしね。
「あの~、すいません」
「あら?……新入生のようね、悪いけど今は取り込み中で――」
「いえ、困っているようだったので……なにか力になれればなぁ、と思いまして」
「えっ、本当ですのっ!?それでしたら、生徒会室に行って事情を説明してきて欲しいのですが……」
「あ~、と……大変申し上げにくいのですが……自分、迷ってまして」
「……」
すいませんすいませんすいませぇぇぇん!!!
「う~ん、それでしたら私と交代でこの子を負ぶって貰えるかしら?私では力がなくて……」
「ああ、それならいいですよ。力には自信がありますから」
「それはよかったですわ。ほらリズ、この方の背中に」
「はい……すいません、新入生の方」
「いえ、これくらいかまいませんよっ、と」
うわ、軽!?
「……重くありませんか?」
「いえ、軽すぎるくらいですよ」
……あれ?ひょっとして俺、綾以外の女の子をおんぶするの初めて?そういえばさっきから背中に柔らかい物ががががが!い、いかん、意識してはいけない……!
「あ、あの……本当に重くありませんか?」
「ええ、もちろんです」
「大丈夫そうですわね。新入生の方、私についてきてくださいな」
「はい」
生徒会長の後に続き、森の中を進む。ローファーが土を踏みつける音と、メイドさんの息づかいだけが聞こえてくる。……っていかんいかん、何も考えるな、考えるんじゃない、俺!
「……あの」
「何ですか?」
メイドさんが生徒会長に聞こえない声でささやいてきた。
「えっと……その」
「?」
「…………ヨシノ、ちゃん……ですよね?」
……………………………………イマナンテイッタ?
「どうかしましたか?急に立ち止まって……。もし、しんどいようなら代わりましょうか?」
「い、いえ、大丈夫ですっ!問題ありませんっ」
「そうですの?つらくなったら言ってくださいまし」
「は、はい」
い、いかん、思考停止していた。
「えっと、リーゼさん、ですか?」
「あ、やっぱりヨシノちゃんだったんですね!」
「どうしてわかったんですか?」
「私、顔とか話し方とか、人の特徴を見分けるのが得意なんです。ヨシノちゃんは顔をほとんどいじってなかったみたいでしたので、すぐにわかりました」
「あれ、結構顔変わってたと思うんだけどなぁ」
「ふふ、骨格とかは変えてなかったじゃないですか」
骨格でわかるのかよ!?
「あ、そういえば……ヨシノちゃんはどうして私がリーゼだとわかったんですか?」
「簡単ですよ、俺のプレイヤーネームを知っているのは、俺の知っている限りでは4人だけですから」
「なるほど」
「それにしても、リーゼさんとで全然印象が違いますよね。口調とか」
「あ~、それは琴音さんが自分だけロールプレイするのは恥ずかしい、と」
「……てことは生徒会長が」
「あ~……よかったら黙っててあげてください。多分、他の人に知られたってなると恥ずか死ぬと思うので……」
は、恥ずか死ぬ?
「り、了解です」
「あなたたち、さっきからなにをこそこそと話してますの?」
「えっ、あ、いや、何でもないですよ、何でも」
「……な~んか怪しいですわねぇ」
「は、ははは……」
「さ、つきましたわ」
「米蔵さん、ここまでありがとうございます」
「このくらいお安いご用ですよ」
森を抜けるまでに、二人のことについていろいろと聞いてみた。メノウこと姫崎琴音は、この学校に多額の投資をしているという例のOB社長の娘さんらしい。なんでも、リーダーシップを身につけさせるために、無理矢理生徒会長にさせられたらしい。
リーゼことリズベット・霧島・ルイスは、名前からわかる通りハーフだそうだ。日本人の父親が翻訳家で、母親と一緒に海外を飛び回っているらしく、知り合いの姫崎家に使用人として働く代わりに面倒を見てもらっているらしい。
「あ、そうだ。姫崎先輩、これを」
「これは?」
姉に渡された(無理矢理)部活動新設書を渡す。
「……」
「……あれ、どこかおかしかったですか?」
「……こ」
「こ?」
「この手があったかぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「わっ!?」
どうしたんだ!?
「っは!?し、失礼しましたわ」
「そんなに叫んで、どうかしたんですか?」
「いえ、リズもこれを見なさい」
「はぁ……VR技術研究会」
「姉のいつものやつです」
「なるほど、ということは三人ともこの学校に?」
「はい」
「何の話をしていますの?そんなことより、これですわ!私もこの部活に入らせていただきますわ!」
あ~、なるほど……そういうことか。
「琴音さん、生徒会はどうするんですか?」
「ほら、よく働いてくれる新入生がいるでしょう?そいつに任せれば良いのですわ!」
「ああ、あの変態メガネですか。それならいいんじゃないですか?」
おい慎二、たった二日でなにやらかしたんだおまえは……
「えっと、それで……」
「ええ、きちんと受理させていただきました。部室、機材、顧問、部費、どれも心配いりませんわ!すべてこちらで準備させていただきます」
「え、いいんですか?」
「もちろんですわ。それより、私とリズが入部するのに問題はありますかしら?」
「いえ、むしろ大歓迎です。ちょうど部員を集めるのに苦労していたところで」
「そう、それならよかったですわ」
こうして、VR技術研究会が設立されたのだった。




