異常
「それは誰だ?」という質問をギリギリのところでやめる。ティムの表情がお願いだからそれを聞くな、と言っている。
絶対精霊なのだから、俺がそう聞きたいのを分かったうえでそういう表情をしている、と気づき俺も質問をやめた。
「何かあったのか?」
状況を読めていないフォルドがやってきて首をかしげる。
「別に何もなかったわ。ソーマの脚が心配だっただけ。大丈夫?」
フォルドにも内緒にする気なのか。そして、俺は足のけがのことを思い出す。闘ってるときは夢中で忘れていたんだ。怪我の存在を思い出すと痛みも倍増するもので、そのまま地面に倒れこむ。
「ち、ちょっと!?」
ティムが焦った様子で俺の足に近づき、ズボンのすそを軽く捲る。
「うわっちゃー。」
自分で見てもかなり気持ち悪いことになってる。紫なのか赤なのかわからないような色に変色してるし、所々黒い。水ぶくれみたいなものもあちこちに出来てる。
「これ、痛くないの?」
「痛い。戦闘中に取りあえず動くようにしただけで他はなんもやってないし。」
「ごめんなさい。私のせいよね。私が油断なんてしてたから。」
「バーカ、何言ってんだよ。俺がティムを守るのは当たり前だろ?いつもティムは俺のためにいろいろやってくれるんだから、こういう戦いぐらいは俺に任せろっての。これはお前を守った名誉の負傷だよ。」
「そんなこと言ったって・・・。取りあえず治療するわね。」
そう言って、光魔法を使ってくれる。足が冷たい膜に包まれてるみたいでかなり気持ちいい。
「そろそろいいわよ。どう?具合は。」
再び足を見ると、まだ所々に傷の形跡が残っているけど、他はすっかり治っていた。試しに動かしてみても、多少の違和感はあるものの特に痛みは感じない。
「結構ひどかったからこれだけじゃ治らなさそう。今MPを消費しすぎるとこれからが大変だから。ソーマ自身が光魔法を持ってるし、ちょっと特殊な体質だから暫くすれば勝手に治るはずよ。」
「そっか。ありがとな。でも、MP消費しすぎると後が大変ってどういうことだ?」
「あら、言ってなかったかしら。ここ、まだ1層目じゃない。キースがいるのってさすがにこの階層じゃないでしょ?」
「ああ。確か23層目だったと思う。」
「あら、結構深いところまで行ったのね。」
は?階層?何ここ。そんなダンジョンみたいなこと言わなくったって・・・
「ソーマこそ何言ってるの?まあ口には出してないけどさ。ここは結構有名じゃない。難攻不落のフジュール地下って。ほら、その辺に時々落ちてる奴って人骨でしょ?あ、あれは形状的に人間ね。クエストに失敗したのかしら。ここは最難関クエスト地の1つよ。ここでしか取れない氷花の採取依頼とか受けたら結構なお金になるらしいじゃない。まあ、氷花も10層以上下に降りないと採れないけど。」
「じゃあここってなん層まであるんだ?」
「知らないわ。私たちが1回来たときは78層くらいでやめたわ。ソーマが飽きたとかいうから。私たち以外でここに来た人の話はあんまり聞かないけど50層くらいまで行って、かなり街で噂になったギルドがあったわ。人類初の快挙とか言って。魔獣や魔人もそのくらいね。魔獣は地元だから60くらいまでは行ったことあるやつがいるらしいわ。結局私たちの記録を抜いた人はいないけど。」
ってことはさっきのホワベルみたいなのとあと20回以上闘わないといけないのか?
「あ、もちろん階層が下に行けばいくほど敵は強くなるわよ。」
げー。
俺こんなの相手にしてたのかよ。
「でもおかしいわね。前来た時は、こんなに強かったかしら。」
「それには儂も同意見だ。1層目くらいなら半分ほど殲滅して、ホワベルにある程度のダメージを与えたら先に進めていた。というかホワベルが1度消滅するようになっていた。さっきのホワベルは異常だった。」
その言葉に、さっきの魔石を思い出す。魔石はティムの指示で今はポーチの中だ。
もしかしてあれが原因じゃ・・・?
『あの魔石のことは誰にも言わないで。あれの存在がばれると余計な混乱を招くわ。』
『でも、ホワベルの異常ってさっきの奴が原因だろ?』
『それでも。私が何とかするから!』
全然納得はできなかったが、取りあえずそこには触れないことにした。
「取りあえず先に進みましょう。」
ティムの言葉に、奥の方まで進むと下に降りる階段を見つけた。
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「俺、本当にこんなのを78層まで行ったのか?」
「あの時は行ったけど、相手はこんなに強くなかったわ。」
俺たちは今16層にいる。
しかし、満身創痍という言葉が相応しいくらいにボロボロだ。各階層のボスはなかなか死んでくれず、上級、超級規模の魔法を使わないと勝てなくなっている。魔石に傷をつけない限りはどれだけ傷ついても向かってくる。魔石は基本心臓か頭の位置にあるため、そこを重点的に攻撃をすることで何とかここまで来たって感じだ。
回収できないくらい砕けてしまったときは無理だけど、それ以外の魔石にはすべてホワベルと同じ刻印がなされていた。ティムの顔色は悪くなる一方で、聞きたいと何度も思ったがその度に聞くなという目でこっちを睨んでくる。
「なあ、ここまで苦戦するものなのか?いくら敵がちょっとやそっと強くなったくらいで、前は78層、今は16でぎりぎりっておかしくないか?」
「何もおかしいことはないわ。だってソーマがまともに魔法使えてないんだもの。前はかなり巧みに魔法を操っていたわ。今はただの力押しじゃない。記憶がない分仕方ないのはわかってるけど、魔法の訓練が必要ね。それにソーマ、今は属性魔法しか使ってないでしょう。無属性魔法はどうしたの?」
そういえば、ステータスには無系統魔法って学習/絶対の障壁/無効化の3つが書かれてたな。
「それ、使ってないでしょう。正確には使い方が分からないだけでしょうけど。」




