ポーグ
ティムがアイツと言った時の表情からしてあまり仲が良くないのだろう。
それでもこれでルナと名乗った少女の言ったことは正しかったことがわかった。まだ出会って数時間しかたっていないというのに、俺はティムに絶対的信頼を置いていた。自分でもなぜかは分からないけど、ティムが言うならそうなんだろうと勝手に思っている自分がいる。
「おーい、早くいくぞー。何してんだよソーマ。」
俺が立ち止っているのに気づいたオリが声をかけてくる。
「じゃ、またいつか縁があれば。」
キューリィに言われて「ああ。」と一言だけ返して店から出たオリたちを追いかける。
二人はやはりすぐにこの街「ルネッシオ」から立ち去るつもりなのかまっすぐに門の方へ向かっている。俺はどうせすぐに追いつけるので少し前を走るシャルムたちに声をかける。今は人間の街中なのであまり速度は出していない。
「俺、少し見たいものがあるから先に行っててくれないか?そんなに長くはかからないし。どうせすぐ追いつけるから。」
「ああ。日が暮れる前には追いついて来いよ。暗くなると合流が難しくなるから。」
「わかってる。」
そう言って2人と一旦別れる。「シャルム!ソーマが追い付けないくらい早く進もうぜ!」とオリが言ってシャルムに拳骨されていたのは見なかったことにしよう。
『2人と別れて何をするのよ』
1人で猫と話しながら歩いていると不審に思われることを察してくれたのか、心に直接話しかけてくる。
『いや、折角だから美味いものは買っておこうと思って。』
『変わってないわね』
『やっぱそういう言い方をするってことは俺たち会ったことあるんだよなあ』
『まあそうなるわね』
『いつ会ったんだ?っていうか俺はアポルに来たことがあるのか?』
その瞬間激しい頭痛に襲われる。
「ちょ、ちょっとソーマ、大丈夫?」
ティムが動揺してるのは分かるがこの頭痛がどうにかならない限りどうしようもない。
立っているのも辛くて道の真ん中にしゃがみ込む。周囲の人から不審げな目で見られているのを感じるが、それどころじゃない。
「ソーマ、ソーマ!」
俺の名前を呼び名がら心配そうに俺の周りをグルグル回るティム。
どのくらいそうしていたのだろうか。自分ではかなりの時間だったような気もするがそうでもないのかもしれない。ある程度おさまったためフラフラと立ち上がる。まだ不安げな目でティムは俺を見ているし、周囲の人間もいつ俺が倒れるかと見ているのを感じる。
このままでは不味いため、ティムに人が来なさそうな場所に案内させる。
フィルネーの裏路地のようなところに着いた。
頭痛は大分マシになったがやはり足元がおぼつかない。
「ポーグを飲んだら少しは良くなると思うわ。」
「なんだよそれ。」
「多分ポーチに入ってる。いつも予備は入れてたはずだから。」
ティムに言われたとおりにポーチに手を突っ込んで《ポーグ》と頭の中で唱えてみる。すると手に小さい何かが当たったので掴んでみると、小さな木の実のようなものだった。
「それそれ。そのまま食べれるから、よく噛んでね。」
その実を口に放り込む。何だかグミみたいな触感でミント系の味がする。キシリトールガムのグミ版?
食べ終わったところで少しずつ変化が現れる。残っていた頭痛が消え、やけに気分がスッキリする。身体もかなり軽くなった。
「よかった。治ったみたいね。」
「ああ。この実、すごいな。買い込んどくか。」
「無理よ。この実は普通の人間には結構きつい毒よ。大体は死ぬんじゃないかしら。食べてるところ見たことないからわからないけど。だから店になんて並ばないわよ。魔獣は全身麻痺くらいで済むかもね。魔人も多分そんな感じ。これ、精霊やエルフの非常用の薬なの。ソーマじゃないと使えないわ。それにかなり希少なの。一部の土地にしか生えない木の実だから。」
そんなの、もし俺が普通じゃなかったら今ので死んでたのか。
体調が戻ったから、本来の目的の美味しいものを買い込もう!折角果実の美味しい街に来たんだし。
ティムに美味しい店を案内してもらう。情報特化型って便利だな。カーナビより役に立つ。
「今失礼なこと考えたでしょう。」
ギクッとする。
「何のことだ?」
「あら、もう忘れた?私たちはある程度の思考は共有できるのよ。お互い隠したいと思ってることとかは無闇に暴かないけどちょっとした思考は正確ではなくてもなんとなくわかるんだから。」
最初は便利だと思ってたけど案外そうでもないらしい。これじゃあプライバシー侵害だ。
「大丈夫よ。形はどうあれ私たちはソーマに忠誠を誓ったの。主が嫌がることはしないわ。」
そんなもんなんだ。
しかもさっきは言葉を口に出してしまっていたようだ。自分が店内にいることを忘れてた。
またチラチラと視線を感じる。猫に向かって「何のことだ?」なんて言ってる黒ローブの男なんて怪しいにきまってるか。




