過去の事実
伝えられている話よりさらに悲惨な事実。
俺はこの話を3人にもするべきか悩んだ。ちらっとティムを見ると、『あなたに任せる』と心の声が聞こえてくる。
別に話しても何も変わらないかもしれない。でも、事実は知っていてほしい。会ったこともない想像もつかない魔人の王女。話を聞く限り、とてもいい人だったのだろう。そんな子が自殺と思われっぱなしなのは何だか気分がよくないと思った。
「ティム曰くだけど、キューリィの話には一部誤解があるってさ。」
その出だしでティムが言ったことをまた訳す。
3人ともすごく驚いた顔をしていたが、中でもやはりキューリィの驚き様は群を抜いていた。
「俺はそんな話聞いてねえ。俺はそん時はベルシャークの防衛の任に就いてたんだ。現地の奴らは帰ってきてもそんなこと一言も言わなかったぜ?」
キューリィの言葉にティムがため息をつく。
「当り前じゃない。その騒ぎを見ていたのは軍の前方にいる奴ら、つまり立場が上の方の人間ばかり。そんな奴らが『魔王が自分の娘を殺した』なんて言いふらしたら大変なことになるわよ。自分の立場が危うくなることは言わないでしょうね。自殺したってことにした方が丸く収まるもの。現場を見てない人は信じるしかないでしょう、その人たちの言葉を。」
俺が訳したティムの言葉に顔色を変えるキューリィ。
「そうか。本当に我々は最低のことをしていたんだな。生き残った精霊たちはみんな北にいるのか?」
キューリィの質問にふとティムが前に言ったことを思い出す。
「精霊って、どこにでもいるわよ?ただ見えないだけ。」
確かにティムはそう言った。でもキューリィが言ったことを考えるともういないんじゃ?
「因みに精霊は自然から生まれるの。自然のエネルギーと魔力が調和することで誕生するのよ。最初はただの力の塊。でもそれが色々な要因で成長するの。それが最終的に私たちみたいにちゃんとした姿かたちをとるの。つまり、今もヨールキ全土で私たちは生まれ続けてる。そしてあの悲劇を再び生まないために精霊は生まれた瞬間隠れるの。ある程度力をつけないと可視化されないから。南が何もなくてこんなに心地よい環境で安定するわけないじゃない。あの戦争でも一部の契約精霊とその主はきちんと逃げることができた。近しい精霊も保護してくれたし。魔人と違って事態を予測する猶予があったから。それでも間に合わなかった人は殺されたけど。魔獣にも隠れた人はいるはずよ。人間程ではないけれど。気候が安定していたり、亜獣や亜人、魔物の襲撃が少なかったりするのはほとんど精霊が守っているおかげよ。流石に私たちも魔人を許せるほど心が広くはないから西って結構荒れてるでしょう。」
「そっか。俺たちはあんなことをしたのに許してもらえていたんだな。」
もう俺を翻訳係から解放してほしい。
でもホッとした顔をしているキューリィを見るとまあいいかなと思う。
「よし、腹も満たされたことだしそろそろ出発するか。」
シャルムの言葉に俺もオリも立ち上がる。
「え、ちょ、どこに行くのよ。」
焦るティムに「取りあえず北」と答える。
「あのね、ソーマ。あなたは早く絶対精霊を探し出さないとまずいことになるわ。核が割れてないから消滅してはいないけどその暗さは危ない。わかるでしょう?私の翠の核だけが光っているの。」
確かに1つだけ鈍く光っている。
「それが通常の状態なの私たちは絶対精霊なのにあなたと永い間離れすぎた。私はあなたがいなくなってからあなたを探すためにヨールキ全土を回った。でも限界が来た私はテトと会った。私は一部の情報を対価に自らを封印してテトに守ってもらうと同時にソーマとの邂逅を望んだ。契約通りテトはあなたが戻ってきたことを感知するとすぐに出会わせてくれた。封印されている間は力を使わずに済むから辛うじて持ちこたえることができたけど他の精霊がどうしているかわからない。早く見つけ出さないと。」
確かに。俺は知らないが俺と出会わないことで消滅してしまうなんてほっとくわけにはいかない。ティムはさっと俺の肩の上に乗る。今までは抱っこしていたが肩に乗られると、それがまるで定位置のような気がしてくる。
「ところでソーマたちは今からどこに行くつもりなの?」
「シャルムたちはわからないが取りあえず俺はヴェルドの森へ。」
「な、なんで?」
「とある人に言われたんだ。ヴェルドの森ってところに行けば俺の相棒ってってやつがいるらしい。」
「それ言ったの誰だろ。私の情報が正しければ精霊がいるはずよ。ソーマとの付き合いが一番長かったアイツが。」




