フィルネー
「なんだ?今日は祭りか何かがあってるのか?」
「いや、こんなの普通だろ。どこの街でもフィルネーくらいあるだろ。」
「フィルネー?何だそれ。」
「こういった屋台が並んでるところ一帯のことだ。祭りは確かにこれの規模が大きくなったような感じだな。微妙に違うが。」
「普通の専門店みたいなところはないのか?ちゃんとした店。こんな屋台みたいなやつじゃなくて。」
俺はポエルにいた時はこんなの見た記憶がないんだがな。
「ああ。もう少し先の方に行ったら普通にあるぜ。フィルネーでは人間の冒険者たちが個々で仕入れたものや、作ったものを売り買いすることが多いからな。珍しいものとか、品質がいいものとかを安価でやりとりされてるからあたしは結構好きなんだ。物々交換とかも普通にやってるし。因みに時々魔人や魔獣も紛れてるぜ。」
「は?種族間って対立してんじゃないのか?」
「基本はな。でも全員が全員悪く思ってるわけではないから。それに皆正体隠してやってるしな。多種族製のアイテムとかって高価値だったりするんだよ。実際、あたしたちも参加したことあるし。」
それはなんとなくわかる。地球でも似たようなことがあったし。
「オイラあれ食いたい!」
オリが美味しそうなものを見つけたらしく、一直線に走っていく。追いかけようと走る体制に入るが、隣のシャルムを見るとのんびり歩いてる。
「追いかけなくていいのか?」
「ああ。いつものことだ。ただ、あいつの味覚はおかしいからな。オリの美味しいは信用すんなよ。あいつも多少は金持ってるだろうから多分あと数秒で戻ってくるぞ。こういうときのオリの行動力は半端ないから。あんまり来ない分来たらテンション上がりすぎて手が付けられん。」
4,3,2,1
「ソーマー!」
本当にぴったりだ。
「これかなり美味いぜ!特別にソーマにも少しやる。」
オリが手に持っているものを見て顔が引きつる。
赤と緑のツートンカラーでドロッとした形状のものが光沢のある紫の円盤状のものの上にのっている。
正直言って気持ち悪い。というより食べ物に見えない。その物体を、オリは「美味い」と言いながら食べている。ご親切に俺の分と言って半分に割って俺に差し出しながら。光沢のある紫の部分も食べれるらしいが、オリが口に入れるたびにヌチョッっと嫌な音がする。
助けてという視線をシャルムに送るが、知らん顔で近くのフィルネーを物色してる。
「オリ、俺はいいからお前が食べろ。それ、美味いんだろ?」
「気にすんなって。オイラの奢りだから。」
俺は十分すぎる額の金を持ってる。よって奢られる必要はない。潔癖症という程ではないが、そんなキモイもの触るのも無理だ。
俺が本気で困っていると、丁度いいタイミングでシャルムが戻ってきた。
「これ、飲むか?」
シャルムが差し出してきたのは、透明なカップに入ったジュースみたいなものだった。見た目は少しトロッとしていて薄いピンク色の液体。よく冷えていて少なくともオリが手にしている物体より遥かに美味しそうだった。
シャルムに礼を言って受け取り、すぐに飲んでみる。
「あ、美味い。」
思わずそう呟いてしまうほどのおいしさ。甘酸っぱくて、飲んだ後すごくすっきりする。ミルクのようなものに凍らせた果実を砕いたものを入れてるようだ。ミルク自体は結構甘いが、酸っぱい実とうまく調和していい感じになっている。
今日は暑かったからぴったりだ。そういえばアポルにも四季ってあるんだろうか。
「これ、何が入ってるんだ?」
「これはクラルトっていう飲み物だ。クラムの実がはいってるだろ?それの果汁で全体的にピンクっぽくなってんだ。」
中に入ってる赤い実を指して教えてくれる。
「そういえばさ、アポルって季節とかあるのか?」
「季節?何だそれ。」
まさか季節の概念がない?
「暑い日とか寒い日とかが大体決まってるのかってこと。」
「ああ、それならこの辺はないな。ずっとこのくらいだ。多少冷えるときもあるが大して変わらねえ。ただここ以外はそうでもない。東は真っ二つに分かれてる。」
「東って獣人の国だよな?どういうことだ?」
「そうだ。あたしの出身地なんだが、海側とそうじゃない側で完全に分かれてるんだ。暑いのと寒いの。気温差すごいぜ。ベルシャークはちょうどその真ん中にある。」
「ベルシャークってあの魔獣の国だっけ?真ん中ってどうなってんだ?」
「そうだな。丁度、このくらいの気温になってる。魔獣も極端な気温下では生きられないものもいるからな。暑い方がカルム、寒い方がトルムっていうんだが、それぞれに2つずつくらい小規模な国がある。あとは小さな村とか町が時々あるくらいかな。」




