1つ目の質問
「最初の質問は、移動速度だ。あたしたちは魔獣で、人間なんかよりはるかに速く走れる。しかも人間ほどの睡眠は必要としてない。夜目だって昼間程じゃないがある程度は利く。しかも寝てる間は無防備だ。あたしたちは交代で寝るがお前はそうもいかないだろう。そんないろんな不安がある中、移動時間は確実にあたしたちの方が長い。交戦だってお前と別れて以来はツーリルノが初だった。黙々と移動し続けたからな。なのに何故追いつくことができた?」
この質問になら答えられるだろう。アイテムのことはいずれ分かるだろうしこいつらが盗むとも考えにくい。
「まず、身体能力自体は多分俺はお前たちとそうは変わらない。」
「はっ!そんなわけねえだろ。」
バカにしたように鼻で笑うオリに「競争するか?」と聞いてみる。頷くオリと条件を同じにするために靴を脱ぐ。俺が靴を脱いだことに多少の疑問は感じたようだが追及はしてこなかった。
「じゃ、あの岩に触ってここまでより早く戻ってきた方が勝ちな。」
さっきのツーリルノを倒した時の魔法の影響で、平らになった周囲で唯一残っていた大きめの岩を指さして言った。オリの返事はなかったが肯定と取ってよさそうだった。
「んじゃ、はじめ」
シャルムの合図で2人で同時に走り出す。流石魔獣というか、獣なだけあってかなり速い。でも俺の体のスペックだってそう負けてはいない。岩に触れるのも、元の場所に戻ってきたのもほぼ同時だった。
「嘘だろ?お前本当に人間かよ?」
オリの言葉にどう返していいかわからなくなる。俺のステータスには種族:使徒になっている。つまり、正確には人間ではないのだろう。
「それを俺に聞くってことはオリの1つ目の質問と認識していいのか?」
俺がニヤリと笑って言うと、黙ってしまった。空気を察したシャルムが問いかける。
「あたしたちと速度が大して変わらないってことはわかった。でも移動時間はあたしたちが長いぞ?速度が一緒だと追いつけないだろ。」
「それはこれがあるからさ。」
そう言って靴をシャルムに向かって放り投げる。
「靴?これが何か?」
「その靴、ジャブレの靴って言うんだが、知ってるか?」
「ジャ、ジャブレだと??」
「やっぱ知ってんのか。」
「そりゃ知ってるだろ。希少ランクSの激レアの獣じゃねえか!魔法は使えないけどその高度な身体能力で滅多に見つからないし、運よく見つけても一瞬で目の前から消えるっていう、あのジャブレだろ?」
「ああ。たぶんそいつを倒した時の報酬品だ。獣って倒したらなんか落とすんだろ?ジャブレが落したものを加工して作った靴なんじゃねえか?これ。」
「何でそんなの持ってんだよ?しかも疑問形だし。」
「だから俺、記憶がねえんだよ。これ、気づいたら既に身につけてたし。ちなみにこのローブ、漆黒のローブだし、下に来てるのはシャルロのセーターだぜ?俺がここまでこれたのはこのアイテムたちのおかげかな。因みにこれはホーリーリングだ。」
左手首につけたリングを見せながら言う。開いた口が塞がらないって顔して固まっている二人。まあ、俺もこの装備品の効果知ったときはこんな顔してたんだろうし、別にいいか。
2人が正気を取り戻すのに数分かかった。
「おっ前それ本気で言ってんのか?お前が今口にしたアイテムってどれも模造品が相当高価に取引されてる代物だぞ?」
「ああ。俺は最初自分が何を身につけてるかさえ知らなかったからな。ステータス見て初めて知ったし。」
「ステータスにその名前で表示されるってことは本物か。」
シャルムがまだ納得しきれていない顔でぶつぶつ言っている中、オリがシャルムに尋ねる。
「オイラ、ソーマの言った中で、全部伝説級のアイテムってことしか知らないんだ!どんなアイテムなんだ?」
「漆黒のローブとホーリーリングは対になるアイテムでな。それぞれ闇の至宝、光の至宝って呼ばれてる。簡単に言うと漆黒のローブはそれを纏ってる奴の気配とか魔力を周囲の奴から隠してくれるんだ。ホーリーリングは回復補助アイテムだな。で、シャルロのセーターは名前通りシャルロの毛を使ったセーターなんだろ。どんな気候にも適応可能な獣だから、それを身につけてるってことは・・・」
「ソーマの装備、強すぎじゃね?」
ぼそりと呟いたオリの言葉に俺とシャルロはお互いの顔を見合わせた。




