Prologue
「先生!見ててね!私、やり切る!」
遥か頭上、少女が柵を乗り越え建物の淵に立っている。
やめろ、早まるな、周囲の人が声を飛ばすなか、肝心の自分は喉が震え、痛み、声が出ない。
体育館から持ってきたであろうマットや、保健室から持ってきたであろう毛布などが地面に積まれていく。
積んでいる者たちもみな、それがほとんど意味をなさないであろうと思っている。それでも積んでいくのは祈りのようなものだった。
昨日、部屋に来た彼女は私になんと言っただろうか。どれもこれも明るい言葉だったはずだ。
彼女が一歩踏み出す。周囲が叫びを上げる。自由落下。
私の足は動いていた。
彼女の方へ、走り出した。
目の前に黒い塊が落ちてきた。
── ── ──
ドンっと、体に強い衝撃が走る。
「がはっ、はぁっ、はぁ」
涙でぼやけている視界の中、顔を上げると全身鏡に己が写し出されていた。
「……誰?」
金色の髪、青い目、薄い緑のワンピース。
首元についた縄状の赤あざだけが浮いていた。
やっと定まってきた視界で周囲を見渡す。
「……ここは──」
── ── ──
ロイト王国、ここには魔法が存在する。
魔法の使われ方は多種多様で、魔物と呼ばせる生物の攻撃、物の創造そして破壊、そして人の回復など多岐にわたる。
国民の90%以上が魔法を使うため、魔法が使えない残り10%のものは、魔法不能障害として障害者に分類されている。
魔法不能障害の者が就ける仕事は限られており、多くの場合は工場などの単純作業に就く。言い換えれば、この国の要職は魔法を使える者だけが就くことができる。
スピカ・スタキスは、魔法不能障害者の一人だ。
彼女は王国の中心を離れた農村に暮らしている。
彼女の家は小さな2階建で、一階の奥の部屋を使って仕事をしている。
部屋は白を基調とした小さなものだ。
部屋の奥には真四角の机と椅子が2脚。これもまた白っぽい塗料が塗られている。
その横には細い観葉植物の鉢が置かれている。
この部屋の特徴は、今挙げたこれらではない。
扉側の壁に置かれた収納。
そこには、さまざまな種類の小さな人形や動物、植物などのおもちゃがある。そして、その横の箱には、さらさらとした大きめの粒の砂が入っていた。
9:55。スピカは表の扉の鍵を開け、看板をひっくり返した。
『相談屋 1時間80レンタ』




