case35.クリスマスの攻防戦
高校二年生の天羽陽菜は、ずっと友達以上恋人未満だった五十嵐修斗と付き合い出した。陽菜はクリスマスに、一歩関係を進めたいと思い……。
友達以上恋人未満だった二人の、クリスマスの攻防戦のお話です。
ぜひお読みください!
(本作はcase.9友達以上、恋人未満 のペアの、両思い後のお話です。case9を読んでいなくても問題なく読めます。)
今年のクリスマスは彼氏と付き合って、初めてのクリスマス。
せっかく楽しいクリスマスになるはずが、天羽陽菜の胸は晴れなかった。
(やっと、彼氏と彼女になったんだし……もっとスキンシップとか、キス、とかも……したいって思うのに……)
彼氏である五十嵐修斗とは、二週間ほど前にやっとの思いで『友達以上』に進んだばかり。まだ彼氏と彼女という言葉にすら慣れず、つい照れてしまう。
ずっと友達以上恋人未満な、甘酸っぱい雰囲気の二人だったけれど、恋人になった瞬間から、修斗はどこか距離を置くようになってしまった気がしていた。
(もしかして私、魅力ないのかな……?)
そんな不安を抱えて、陽菜は放課後、友達の工藤皐月に相談した。
「ねえ、皐月。か……彼氏にさ、クリスマスに、その……、キ……キスって、どうやったらしてもらえると思う?」
「え、陽菜、可愛いっ!ウブだね〜!でもその気持ち、めっちゃわかるよ!せっかくクリスマスなんだから、恋人っぽいことしたいよね。……じゃあ、キスしてもらえる攻め方教えてあげよっか?」
陽菜は皐月の言葉に、大きく頷いた。まるで拝むように。
そして迎えたクリスマス当日。
待ち合わせは午前十一時、駅前に飾られている大きなクリスマスツリーがよく見えるカフェだった。
「修斗!」
「よお、陽菜」
小さく手を振る修斗は、恋人の欲目を抜きにしても、かっこよかった。制服ではない私服姿に、思わず胸がきゅっとなる。
(好き……やっぱり好きだ……)
陽菜は、皐月に教えてもらい、今日やると決めていた恋人アピールをさりげなく繰り出していくことにした。
まずは、近づく距離。
そして、上目遣い。
テーブルの下では、修斗の足に自分の足が偶然のふりをして触れる。
(……うん、今のは我ながら、さりげなかった)
ところが。
「……なんか寒いよな、外」
修斗は陽菜の視線からふっと目を逸らし、窓の外を眺めた。陽菜の足からは、そっと距離を取っている。
(……え、今のスルーされるの?)
このあとも陽菜は、映画館でさりげなく手を伸ばしてみたり、歩いている時、袖を掴んで甘えてみたり、色々と「それっぽい」ことを仕掛けてみた。
けれど修斗は、まるで普通の男友達かのように、どこまでもクリーンだった。
時間が経過する毎にモヤモヤしたものが心に溜まっていく。
帰り道、イルミネーションが綺麗な公園に立ち寄った時、陽菜はついに、立ち止まってしまった。
「……修斗」
「ん?」
「……私、魅力ないのかな?」
修斗は目を見開いた。
「なんでそうなる?」
「だって……今日、いっぱい……アピールしてみたのに、なんにもしてくれないから……。私といても、キスしたいって思えないのかなって……」
涙をこらえながらの言葉だった。
陽菜は目を伏せた。そんな自分が、恥ずかしくて仕方なかった。
そのとき。
「……お前なあ……」
と、低く、苦しげな声が落ちた。
修斗が右手で自分の前髪をかきあげながら言う。
「好きな子目の前にして、したくない訳ないだろ!高二の男の性欲なめんな。いつもキス以上のことしたいって思ってるよ」
「……えっ」
陽菜は思わず、顔を上げた。
「……でもそれ以上に、お前のこと、大事にしたいって思ってるんだよ」
その言葉は、優しくて、真っ直ぐだった。
「付き合い始めてまだ二週間だろ?俺が焦って手出したら、陽菜が引いちまうかもって、ずっと不安だった。俺、陽菜のこと……ちゃんと大切にしたいんだよ」
陽菜の胸の奥が、じわっと熱くなる。
「……大切にされてるよ」
「……!」
「大事にしてくれてるの、わかってる。でも、私だって……」
陽菜は一歩、彼に近づいた。
「……修斗と、もっと近づきたいって、思ってるんだよ」
彼の目が、一瞬揺れて、そして強く見つめ返してきた。
「……ああ、もうっ!お前なあ、そんな可愛いこと言うな……!」
ぶっきらぼうに言ったあと、彼は深く息を吐いた。
「……あのさ……さっき大事にしたいって言ったばっかだけど……」
そして、陽菜の頬に手を添えた。
「キスは……してもいいか?」
陽菜は、小さく頷いた。
「……うん」
白い吐息が交わり、距離が近づく。
世界が静かになって、陽菜は目を閉じた。
唇が触れたのは、一瞬だった。でも、あたたかくて、優しくて、心臓が飛び出しそうだった。
「……陽菜」
「ん……」
「ごめん、もう一回していい?」
「……うん、嬉しい。……何回でも、して……」
今度は、少しだけ長く唇が重なる。
唇から、修斗の熱が伝わってきた。
帰り道、陽菜は手を繋ぎながらぽつりと言った。
「……来年のクリスマスも、隣にいてくれる?」
すると、繋いだ修斗の手の力が、ぎゅっと強くなった。
「当たり前だろ。これから先も、ずっとな」
力強く、そう言ってくれた。
side修斗
陽菜と付き合って、約二週間程度がたって迎えた、初めてのクリスマス。
修斗は今、改札の前で心臓がうるさくなるのを抑え込んでいた。
ちら、とスマホを見る。
予定通り、陽菜から“もうすぐ着くね!”のメッセージ。
(……今日、ちゃんと楽しくさせられるかな)
彼女になった陽菜は、友達だった頃とは少し違う表情を見せてくれるようになった。
驚いた顔、照れた顔、そしてとびきり可愛い笑顔。
恋人の距離での表情を陽菜から向けられるたびに、胸の奥がどうしようもなく熱くなる。
同時に、修斗は必死になって強くブレーキを踏んでいた。
(……手ぇ出すのは早すぎる。ちゃんと待たなきゃ。身体目的だと思われたくない。だから、大切にするんだ)
そう自分に言い聞かせているのに。
「修斗!」
「よお、陽菜」
陽菜の声に振り向くと、ふわっとした赤とオレンジのチェックのマフラーで身を包んだ彼女が駆け寄ってきた。
(……可愛すぎだろ……)
思わず息を呑む。
陽菜の笑顔は、本当に反則だと思う。
カフェに入って、並んで座る。
陽菜は今日、やけに距離が近い。しかも、足がちょいちょい当たってくる。
(……ん?)
偶然、にしては多すぎる接触。
上目遣いでチラチラとこちらを見てくる。
その仕草がまた、妙に可愛くて……思わせぶりで、心臓に悪い。
(……もしかして、今日……陽菜、そういうつもりなのか……?)
いや、気のせいかもしれない。
でも、もしそうだったら?
付き合ったばかりで、ちゃんとした“初キス”すらまだ。
それは、修斗が意図的に避けてきたからだ。
(キスくらい、したいに決まってる)
好きな子と付き合えて、隣で笑ってくれてる。
それだけで幸せだとは思うけれど、
(……もし、あそこで手を伸ばしたら……)
心の中で、何度も、もしもを思い浮かべては、必死で打ち消してきた。
(でも、今日の陽菜……)
このあとも、映画館で陽菜の指先がそっと触れてくる。
歩いている時も、腕に軽く触れたかと思えば、ちょっと袖を掴まれたり。
(……いちいち可愛すぎるだろ……)
なのに、触れてきたその手からさりげなく距離を取り、気づかない振りをしてしまう自分がいる。
怖いのだ。
きっと修斗が望んでいることは、彼女が望んでいること以上のことだと思うから。
(欲張ってがっついて引かれでもしたら、絶対立ち直れねえ……)
それがずっと、頭の中から離れなかった。
「修斗……」
帰り道、公園の中を歩いている時、陽菜が立ち止まった。
イルミネーションの光が陽菜の髪と頬を反射している。
その輝きに反した、陽菜の不安げな表現。
小さな声。
嫌な予感がした。
「……私、魅力ないのかな?」
(え?なんで……)
陽菜から出た言葉は、修斗が全く予想していなかった言葉で、陽菜がそう思うに至った理由が分からず聞いた。
「なんでそうなる?」
「だって……今日、いっぱい……アピールしてみたのに、なんにもしてくれないから……。私といても、キスしたいって思えないのかなって……」
陽菜の声が震えている。
陽菜のその言葉と声を聞いて、修斗はもう耐えられなくなった。
「……お前なあ……」
勢いづいて、前髪をかきあげながら、言葉が口から零れる。
「好きな子目の前にして、したくない訳ないだろ!高二の男の性欲なめんな。いつもキス以上のことしたいって思ってるよ」
勢いで言った。
けど、それが嘘じゃないから怖い。
陽菜はぽかんと俺を見つめていた。
修斗はその視線から逃げずに見つめ返す。
「……でもそれ以上に、お前のこと、大事にしたいって思ってるんだよ」
ひとつ息を吸い、優しく陽菜に語りかける。
「付き合い始めてまだ二週間だろ?俺が焦って手出したら、陽菜が引いちまうかもって、ずっと不安だった。俺、陽菜のこと……ちゃんと大切にしたいんだよ」
陽菜が、簡単な気持ちで付き合ってるわけじゃないと修斗はわかっている。
だから、ちゃんと「大事にされてる」って思ってもらえるようにしたかった。
でも、陽菜は、
「……大切にされてるよ」
静かに、はっきりとそう言った。
「……!」
修斗は息を呑む。
「大事にしてくれてるの、わかってる。でも、私だって……」
陽菜が一歩近づいてくる。
修斗を見上げ、目を合わせて言う。
「……修斗と、もっと近づきたいって、思ってるんだよ」
その一言に、胸をぶち抜かれた。
「……ああもうっ!お前なあ、そんな可愛いこと言うな……!」
(なんだそれ、反則だろ)
もう限界だった。
「……あのさ……さっき大事にしたいって言ったばっかだけど……」
もう一度、正面を向く。
陽菜の頬にそっと手を添える。
「キスは……してもいいか?」
目の前の彼女は、ほんの少し頷いた。
「……うん」
その言葉を合図に、修斗はゆっくりと顔を近づけた。
初めてのキス。
ふわっとした陽菜の唇の感触。ドキッと心臓が跳ねた。
触れたのは一瞬。だけど、それだけで世界が一変した。
「……陽菜」
「ん……」
「ごめん、もう一回していい?」
「……うん、嬉しい。……何回でも、して……」
震える声でそう言った陽菜を、もっと抱きしめたくなった。
けど、今はこれで十分だった。
彼女の唇に優しく、先ほどよりも深い口づけをした。
帰り道。
手を繋ぎながら歩いていると、陽菜がぽつりと呟いた。
「……来年のクリスマスも、隣にいてくれる?」
修斗は沢山の思いを込めて、手をぎゅっと握りしめた。
「当たり前だろ。これから先も、ずっとな」
そう言うと、陽菜は幸せそうに微笑んでくれた。
見つけてくださり、お読みいただき、ありがとうございました!
本作は
case9.友達以上、恋人未満 の2人の話です。
修斗×陽菜の話のバックナンバー
case9.友達以上、恋人未満
case14.ゼロ距離の昼休み
case19.君にジャージを借りたなら
case22.ポッキーゲーム
case26.君に名前を呼ばれたら
case30.この関係を変えたくて
case31.恋人以上になりたくて
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陽ノ下 咲




