case34.彼女の家で勉強会
高校2年生の 香坂奈津美と如月隼人は付き合いだしてもうすぐ半年ほどになるカップル。期末テストが迫る中、奈津美の家で2人きりで勉強をする事にしたが……。
ピュアなカップルが、彼女の家で勉強会をする話です。
ぜひお読みください!
11月の中頃。
木々の葉は赤や黄色に色づき、冷たい風が頬をかすめるようになってきた。
教室にはすでに夕暮れの影が差し始めていたが、最後まで残っている二人の姿があった。
香坂奈津美と如月隼人。付き合いだしてもうすぐ半年ほどになるカップルで、今は来週に迫った期末試験の為に、机を並べ教科書を開いて勉強中だった。
「ねえ、ここってどうやって解くの?」
奈津美が数学の問題を指差しながら首をかしげる。
「ここはこの方程式を使って……」
隼人が丁寧に説明を始めると、奈津美は目を丸くして頷いた。
「すごい、分かりやすい。隼人、教えるの上手だね。2人で勉強するとすごく捗る」
「そうかな? でも、奈津美の英語の説明もめっちゃ分かりやすかったよ」
「そ、そう? ありがと」
ふとした沈黙のあと、奈津美が顔を上げる。
「もうちょっと長い時間一緒に勉強したいな。……そうだ。ねぇ、隼人。今週の土曜日、勉強会しない? 」
「いいな、それ。じゃあうちに……、あー……」
何かを言いかけて、隼人は口ごもった。珍しく歯切れが悪い。
「え、隼人の家に行ってもいいの?」
奈津美が、まっすぐにキラキラした瞳で見つめてくる。
「……あ、いや……土曜日、うち誰もいないから……」
小さく、照れくさそうにそう言った隼人の頬はほんのり赤い。
奈津美はその意味をすぐに察した。途端に頬が熱くなる。
「いや、何もしないけどな!?勉強するんだし!」
照れを誤魔化すように少し大きな声で、隼人が言った。
奈津美も真っ赤な顔で返す。
「……あ、うん。そうだよね!」
その後、少し考えるそぶりをして、
「えっと……じゃあ、うち、来る?」
と聞いた。
「いいのか?」
「うん、多分お母さんは家に居ると思うけど……隼人が良いなら」
そんなやり取りの末、土曜日、奈津美の家で勉強することになった。
土曜日の午後。空は快晴。なのに、隼人の心はどこか落ち着かない。
(別に、何があるわけじゃない。普通に、勉強会。勉強するだけ)
そう自分に言い聞かせながら、奈津美の家の前に立つ。緊張で喉がカラカラになっていた。
インターホンを押す指先に少しだけ汗を感じる。
「はーい!」
ドアが開き、奈津美が笑顔で現れた。カジュアルなパーカーにジーンズ。ラフな姿で、いつもより少しだけ大人っぽく見えた。
「どうぞ、上がって」
「お、おじゃまします……」
玄関で奈津美と、奈津美の母親が出迎えてくれた。
「こんにちは。奈津美がいつもお世話になっています」
奈津美の母親は、笑顔が奈津美によく似ていた。
「こんにちは。奈津美さんとお付き合いさせてもらっています、如月隼人です。よかったらこれ、召し上がってください」
隼人が準備していた挨拶を言い、手土産のケーキを母親に渡した。
「あら、お気遣いいただいてどうもありがとう。奈津美、おもたせだけど、後で勉強の休憩に二人でいただきなさいね」
そう言って母親はケーキを受け取った。
上手く挨拶できた事に、隼人はほっとした。
リビングを抜けて、奈津美の部屋に通される。日差しの入る明るい部屋。
淡いピンクのカーテン、机の上に並んだ文房具、壁には小さな棚に小物が整然と並んでいた。
女の子らしい、けれどどこか落ち着いた空間。
「飲み物取ってくるね。適当に座ってて」
奈津美が部屋を出ていき、隼人はローテーブルの前に座る。少し落ち着かない。
隣に置かれたクッションに、奈津美の香りが微かに残っていて、ドキッと心臓が跳ねる。
内心そわそわしながら奈津美を待つ事5分程度。
奈津美が手にココアの乗ったトレイを持って戻ってきた。
隼人にマグカップを渡し、トレイを机に置いて、隼人の隣に腰掛ける。
「はい、どうぞ。あ、ホットココアね」
「ありがとう。……あったかい」
ふーっと息を吹きかけてから一口飲む。
そのあと、教科書を広げて勉強が始まった。
「ここの因数分解、間違えた」
「ここ、マイナスを忘れてるよ。符号注意ってやつ」
「ほんとだ……こういうケアレスミス、時々やっちゃうんだよね。恥ずかしい」
恥ずかしそうにはにかんで笑う奈津美。その笑顔に、隼人はつられて笑ってしまった。
勉強は至って順調に進んでいた。
だが、それは休憩の時。
「なんか、ちょっと疲れてきたね」
「そうだな。……ちょっとだけ休憩しよっか」
勉強の手を止めて、ほっと一息ついた。
妙な沈黙。
その沈黙が、空気をどこか甘くさせた。
「ねえ、隼人……」
「ん?」
「今日、来てくれて、嬉しかった。お母さんにも丁寧に挨拶してくれて、ありがとうね。お母さん、すごく喜んでた」
「……俺も、呼んでくれて嬉しいよ。おばさん、喜んでくれたみたいで安心した」
そう言って笑いあっていると、ふと、二人の指先が触れた。
ぴくりと指先が震える。
最初は遠慮がちに。
でも、徐々に指と指が、絡みあった。
隼人はそっと、隣に座る奈津美を見る。
奈津美も隼人の方を見ていて、2人の目線が絡まる。
どちらからともなく、静かに目を閉じた。
唇が重なる。
静かな部屋に、リップ音が響く。
もう一度。
ちゅ、ちゅ、
角度を変えて、キスが続く。
柔らかくて気持ち良い唇の感触に、身体が熱を帯びてきて、
「……これじゃだめだね……勉強に全然集中出来ないや……」
ぷしゅーっと顔を真っ赤にさせた奈津美が言う。
同じく真っ赤になった隼人。
二人は顔を見合わせて、同時にぷっと吹き出した。
「ごめん、奈津美。何もしないって言ったのに……。奈津美を前にするとどうしても自制が効かなくなる……」
隼人が申し訳なさそうに謝った。
「ううん、私も同じだから、お互い様だよ。……でも私達、勉強は家じゃやっぱり集中できないね」
そう言って苦笑する奈津美に、隼人は頷いた。
「たしかに……」
「じゃあ、また学校で一緒にやろっか」
「うん。教室の方が、勉強に集中できるよな」
「じゃあ、……次のお家はテスト終わりのご褒美にしてもいい?」
奈津美の発言に、隼人はまた、頬を真っ赤に染めた。
照れくさくて、でもどこか心地よい空気が、2人の間に流れた。
見つけてくださり、お読みいただき、ありがとうございました!
本作は、case2.初デートのお祭り のカップルの話です。
隼人×奈津美の話のバックナンバー
case2.初デートのお祭り
case5.凍える冬の恋人繋ぎ
case12.頬が赤くなった訳は
case16.イヤホンの距離
case21.君が水着に着替えたら
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ぜひご一読ください。
陽ノ下 咲




