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日常恋愛オムニバス  作者: 陽ノ下 咲


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case11.どんな君も好きだけど

高校二年生の月城(つきしろ)尚也(なおや)は、昼休みに男子の後輩達が、幼馴染で最近やっと想いが通じて恋人になれた本間(ほんま)みくの事を噂しているのを聞いてしまい……。


好きだからこその、独占欲とジレンマの話です。

ぜひお読みください。

 昼休みのチャイムが鳴ると同時に、教室の中は一気にざわめき始めた。窓際の席に座っていた月城尚也は、手にしていたペンをそっと置くと、カバンから弁当箱を取り出した。だが、食欲はほとんどなかった。


「本間先輩、ほんっと優しいよな。今日もさ、書類運ぶの手伝ってくれて……」


「しかもめっちゃ可愛いし。あれで彼氏いなかったら奇跡だろ」


 近くの廊下から聞こえてくる後輩男子たちの声が、尚也の胸をざわつかせた。

 彼らの話の中心にいる「本間先輩」は、他でもない、長年の秘めた想いが最近やっと通じ合い、晴れて恋人関係になった尚也の幼馴染の本間みくだった。


(……また、誰かに優しくしてる)


 尚也は弁当のふたを開けたまま、微かに唇を噛んだ。

 

 みくの優しさが好きだ。誰にでも分け隔てなく接するところ、優しく笑いかけてくれる笑顔、自分の事で無くても人の為に全力で怒ったり静かに泣いたりするところ。

 みくのそういった全ての仕草が、好きなはずなのに。


 けれど、恋人になった今、自分以外の誰かに向けるその優しさが、時折、鋭い棘になって尚也の心に刺さる。


 放課後、昇降口でみくを待っていた尚也の前に、制服姿のみくが現れた。

 薄桃色のリップが自然で、ストレートの髪をポニーテールに一つに縛って、可愛い笑顔で現れたみくは、最高に可愛かった。何度その姿を見ても飽きる事が無い。


「待った?」


「ううん、今来たところだよ」


 自分で言って少し恥ずかしくなるくらい、月並みなやり取り。でも、そういうありきたりの言葉の一つ一つが、尚也には宝物だった。


 二人並んで歩く道。だけれども今日はいつもより少しだけ風が冷たく感じる。


「尚也、元気ないね。どうかしたの?」


 鋭い。尚也の微細な変化をすぐに察するのも、みくの優しさだった。だがその優しさが、今は苦しい。


「……今日、昼休みにさ。みくちゃん、後輩の男子手伝ってたでしょ?」


「うん。社会のレポートまとめてるって言ってたから、図書室に行くついでに参考書持ってってあげただけだよ?」


 その「ついで」が、尚也にはうまく飲み込めない。たったそれだけのことに、後輩たちは浮かれた声を上げていた。彼氏がいるかどうかを話し合っている彼らの姿を、尚也は苦々しく思い出す。


「……別に、怒ってるわけじゃない」


 そう言いながらも、声はどこか冷たかった。 

 みくは一瞬きょとんとしたが、すぐに笑って尚也の袖を軽く引いた。


「尚也って、ほんとわかりやすい」


「……なにが?」


「やきもちでしょ?」


 みくの言葉に、尚也は顔をそむけてしまった。

 図星すぎて反論すらできない。けれど、やきもちだけではなかった。


「僕……みくちゃんの全部が好きだって思ってた。でも最近、それが苦しいんだ」


「苦しい?」


「優しいとこも、明るいとこも、誰にでも平等なとこも、全部、僕が一番に欲しくなってる自分がいてさ。最低だなって思うんだよ。だって、それって、みくちゃんに、らしくないことを望んでるってことだから」


 尚也は、自分の言葉が彼女を傷つけてしまうのではと怯えながらも、最後まで言葉を吐き出した。


 静かな沈黙。駅までの道が、やけに長く感じた。


「そっか……」


 みくは立ち止まり、尚也の方をまっすぐ見つめた。


「尚也がそう思ってくれてるの、すごく嬉しい。独り占めしたいって思ってくれるのも。でもね、私が人に優しくするのって、尚也がそういう私を好きになってくれたからなんだよ」


「え……?」


「好きな人に褒めてもらえると、自信が持てるから。尚也が『優しいね』って言ってくれたから、私はもっと優しくなりたくなったんだよ」


 みくの目が、少し潤んでいた。


「でも……尚也が苦しいなら、ちゃんと言ってくれてよかった。これからは、ちゃんと境界線つけるよ。恋人として、私なりに考えていくね」


 尚也の胸に、ずっと絡まっていたものが、少しだけ解けていく気がした。


「ごめん。みくちゃんを苦しめたくて言ったわけじゃない。僕、ただ……自分の気持ちがどうしていいかわからなくて……」


 みくがふっと微笑む。その笑顔に、尚也は何度救われただろう。


「気持ちを伝えるって、難しいよね。でも、伝えてくれてありがとう。私も、尚也のことが大好きだよ」


 その言葉が、尚也の中に温かく染みこんでいく。


 恋人として、まだまだ不器用な自分たち。けれど、こうしてぶつかりながらでも少しずつ歩み寄っていけたら――。


 二人は並んで歩き出した。

 夕暮れの駅前。淡いオレンジ色の光が、優しく2人を包んでいた。



見つけてくださり、お読みいただき、ありがとうございました!


本作は

case1.突然のバックハグ の幼馴染二人の話で、二人が両思いになった後の話です。


尚也×みくの話のバックナンバー

case1.突然のバックハグ

case4.雨の日の相合傘


こちらも合わせてお読みくださると嬉しいです。

ぜひご一読ください。


陽ノ下 咲

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