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つかの間の身代わり休息

「ティアナ様」

「は、はい!」

数秒の沈黙の後、ルドマン執事から声がかかった。

「そろそろ帰りの支度をなさいませ。日が暮れてしまいます」

「そ、そうですね!」

ルオラは、ぐいっとお茶を飲み干し、ぱっと立ち上がった。

すると、オリヴェートも立ち上がる。


「……これ、」

「え?」

オリヴェートの手には、招待状があった。

「来週、王様の聖誕祭がある」

「は、はい」

ルオラはその招待状を受け取った。

「僕の妻になるつもりなら、恥だけはかかないように、心してくれ」

「はい! しっかり礼儀を頭に叩き込んできます!」

「……いや、そこじゃなくて……」

オリヴェートとしては、婚約者として、妻として認めた事を伝えたつもりだった。

「?」

しかし、ルオラにはそれがよく分かっていないようだった。


「王様の聖誕祭にお呼ばれたのか!」

「はい」

「ルオラ、でかした!」

屋敷に戻り、招待状をバレッティ卿に見せると、彼は大きな太い手でルオラの背中を嬉しそうにバシバシ叩いた。

バレッティ卿は、船で島に渡ってティアナを探していたものの、断念していた。捜索は数人の使用人に任せて、戻ってきていたのだ。

「ちょ、痛いです」

素直にそう言うと、よほど機嫌が良いのか、「すまん、すまん」と初めて聞く謝罪を口にした。


小屋に戻り、ルオラは箱を開けてカブトムシを取り出した。カブトムシは机の上で動き回り、針金の義足はしっかり足の役割を果たしていた。

ルオラは、夕食のトウモロコシの粒のいくつかをカブトムシの口に持っていた。

元気よく食べる姿を眺めて、ルオラは余ったトウモロコシの粒を籠にいれていく。

乾燥させて、小鳥達にあげる為の作業だった。

きゅるるるる……。

ルオラはお腹が鳴り、欲望に勝てず、トウモロコシを半分食べて眠りについた。


それから数日間、ルオラは誰よりも早起きをして畑を耕し、一週間遅れの新聞を読んだ。

そこには、バレッティ卿のインタビューが載っていた。

『孝行娘を持って幸せです』

という見出しだった。

そこには、ティアナがくじ引きで選ばれたのは幸運の持ち主だからで、それは彼女の日頃の行いや神のご加護があるからだ、という内容のものだった。

読書が好きで裁縫が趣味で、ダンスが得意とか、妻に似て正義感が強く、自分を持っている美しい子である、なんて話がつらつら載っていた。

親バカ丸出しで、ルオラは驚愕した。

何よりルオラが気になったのは、「ダンスが得意」と書かれた一文。


王様の聖誕祭といえば、踊り明かすと言われるほど、ダンスをする所として知られていた。

「ど、どうしよう! ダンス得意にされちゃったよ!」

ルオラは頭を抱えた。ダンスなんて産まれてやったことがなかった。しかも、オリヴェートじきじきに「恥だけはかかないように」と忠告されている。

ルオラは、動揺したまま焼却炉に新聞紙を投げて、扉を閉めようとした。

「あっつ!」

ルオラは手袋をはめるのを忘れており、指を火傷してしまった。急いで水道で流すものの、赤くなって、じんじんと痛んだ。

あぁ、もう朝から最悪だ……とルオラは指に包帯を巻いた。

すると、コガラが肩に止まる。

「どうしたの? 慰めてくれるの?」

ルオラは、コガラの頭を人差し指で軽く撫でた。コガラは気持ち良さそうに瞳を閉じていた。


「ルオラ!」

メイド長が珍しく慌てて、畑の方へやって来た。

「メイド長様、どうかされたのですか?」

「島を渡った使用人から手紙が来たのよ! お嬢様が見つかったんですって!」

「!」

ルオラは、耳を疑った。

「ほ、本当ですか……?」

畑を耕し終えて、汗をだらだらかくルオラ。暑いはずなのに、背筋を通る汗を冷たく感じていた。

「おや、もっと喜ぶかと思ったのに」

メイド長のその言葉に、ルオラははっとした。

「も、もちろん嬉しいです! あまりに突然だったので、少しビックリしてしまって……それで、いつ戻られるんですか? 聖誕祭には間に合うのですか?」

聖誕祭は明後日だった。

「ええ、明日には戻れるそうよ」

「……そうですか」

ルオラは、あれほどティアナの帰りを待っていたはずなのに、あまり嬉しくない気持ちになっていた。

それがどうしてなのか、分からない。ぴりぴりと火傷した指先が痛むばかりだった。


「あの、こちらはただの畑ですので、入らない方が……」

すると、遠くからバレッティ卿の姿が見たた。しかも、誰かと話ながらこちらにやってきていた。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます! 今後も頑張りますので! もう少しお付き合いください! しゃす!

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