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第百三話 消化管穿孔4

「フェアリードラゴン?」


 そんな村にある時冒険者の一向がやってきた。なんでもフェアリードラゴンという魔物を狩りにきたのだとか。見るからに強そうなその冒険者たちは、村長の家を拠点としてこの森の探索をすることになったという。

 この村が魔物に襲われていないのは、ばば様が考案した防護柵のおかげでもある。それでも高位ランクといわれる魔物が襲撃してくると柵は役に立たないことも多いらしいけど、周辺の高位ランクの魔物は過去に冒険者たちに依頼して討伐してもらっていたし、今現在この森にいる高位ランクの魔物は村の周辺には近づいてこないようだった。


「フェアリードラゴンなんて俺たちでも見た事はほとんどない。まあ、たまに誰かが見かけるからいるのは確実なんだろうがな」

「それで、そのフェアリードラゴンというのはどんな魔物なんだ?」

「ああ、ここ数年の目撃情報はないぞ? 小型の竜で、そうだな……このくらいの大きさか」


 ステインは自分の腰くらいの高さを手で示した。羽がついてていつも飛んでいる緑色の竜だという。


「あ、もしかして……」

「どうした?」

「ステインに助けてもらう前にどっかの泉の近くで見かけたよ、それ」


 こっちにきてすぐに見かけた小型の竜である。特徴は一致していた。


「それはどの辺りだ?」

「うぅーん、ステインに保護してもらうまでにそれなりに歩いたから、この辺りではないことは確かなんだけど」


 村で過ごしだしてから、あの泉の近くを通ったことはなかった。それはあの泉がこの村の近くにはないことを意味している。


「もしかして、西に行った所にある泉か?」

「分からないよ、当時は必死だったし。僕はなんでそんなところにいたのかも知らないんだ。あ、でも泉の向こうには大きな樹が生えていたかな」


 大まかな説明はしていた。しかし、僕が現代日本からやってきたなんていう事を信じてもらえるわけもなく、すぐに説明するのがめんどくさくなった。そのためにこの村の人間は僕が遠いどこかからやってきたとだけ理解してくれている。詮索しないでくれるのは正直ありがたかった。あの生活を思い出したいとは思わない。


「まあ、大きな樹が生えている泉があるなんてところはあそこしかないだろうが……」

「どうしたんだい?」

「ミヤギ、お前は運が良かったな。あの辺りには高位ランクの魔物が出ると言われていて、この村の人間は近づかないところなんだ」


 なんと、僕はもしかしたらあの辺りにとどまっていて高位ランクの魔物に食べられていたかもしれないというのだ。フェアリードラゴン自体、戦いになると魔法を使ってくるかなりやっかいな相手であって、村の者では太刀打ちできるものはいないとのこと。あまり好戦的な魔物ではないから近づかなければ問題ないということだったけど、僕はなんとなくあの時に威嚇されたのではないかと思い出していた。


「そ、それは危なかったなぁ」

「まあ、運が良かったということだろう」

「今度から見かけたら逃げることにするよ」

「とにかく俺は村長とあの冒険者たちに泉のところで目撃があったという事を話してくるよ」

「ああ、よろしく」


 僕はステインに報告を頼むと採取の準備をする。最近はキノコが生える時期になっていて、この村の周囲にも結構生えているのだ。中には毒キノコなんかもあったりするけど、持ち帰ると村人の中でキノコに詳しい人が選別してくれる。それを教えてもらって、焼きキノコをするのが最近の楽しみの一つだった。


「おぃーい、ミヤギ」


 そんなキノコの採取の途中で、村人の一人が僕に声をかけてきた。


「なんか、冒険者の人達がフェアリードラゴンを見た時の様子を聞きたがってるぞ」

「ああ、分かった。すぐに帰るよ」


 聞いたって、特に有益な情報を教えてあげられるわけじゃないんだけどなと僕は思ったけど、こんな僕にも親切な村人のように誰かに親切にしてあげたい気分にさせてくれる村だった。




 ***




「泉までついて来てくれないか?」

「えっと、足手まといになりますので。それに僕はこの村に来たばかりで泉の場所を詳しく知らないんです」


 冒険者のリーダーである戦士が僕にそう言った。そんなことを言ったって泉の場所を知らない。


「ミヤギはまだこの辺りに詳しくないのです。それにあの辺りで魔物が出ても自分の身を守れないでしょう」

「何よ、使えないわね」

「アルカ様」

「ふんっ」


 仲間の魔法使いの女がいきなり失礼なことを言う。僕はひさびさに他人の悪意に触れたような気がして、イラっとした。


「何よ、その顔」

「いえ、別に」


 おもいっきり表情に出ていたのだろう。魔法使いが僕の顔を見ていきなりキレた。なんでやつだと僕が思っていると村長が前に出て謝った。


「も、申し訳ございません。こやつはまだ村の生活に慣れておりませんで」

「躾がなってないわね」


 何様だと、僕は思う。しかし、ここは現代日本ではない。この冒険者たちはかなり質のよい装備をつけているようだし、身分の違いとかもあるのかもしれない。冒険者のリーダーである戦士も、魔法使いには強く言えないようだった。


「申し訳ございません」


 特に村人に迷惑をかけるわけにはいかなかった。僕は自分から頭を下げる。頭を下げるくらいで済むならばいくらでも下げてやろうではないかと思えるほどに、僕はこの村が好きになっていた。


「代わりにこのステインをお付けいたしましょう。あの辺りの地形にも詳しいですし」

「よろしく頼む」


 魔法使いが何かを言う前にリーダーである戦士がそう言った。明らかにこのリーダーよりも魔法使いの方が身分が高いのだろう。他の戦士や弓士も魔法使いには何も言えないようである。貴族の道楽で冒険者をやっているのかもしれない。なんとか魔法使いをなだめると、冒険者たちはステインを連れて出ていった。



「少し、心配じゃのう」


 いつの間にか村長の家にはばば様が来ていてそうつぶやいた。僕もあんな連中と一緒に行くステインが心配だと思う。


「ちがうわい、あのパーティーは正当な治癒師がおらんのじゃ」


 回復魔法が使える戦士が二人いた。それで治癒師を入れていないのだろうと思われるとばば様は言う。他は弓士のようで、全部で四人のパーティーだった。

 回復魔法が使える戦士なんて、騎士にしかいないのではないかと思うと村長が言った。やはり冒険者とはいえかなり身分の高い人間だったのだろう。

 実力があったとしても怪我を負うことはあるとばば様は言う。治癒師というのはいざという時に絶対に必要で、普段役に立たないからと言っても優秀なパーティーには必ず一人はおり、むしろ尊敬されているのだと言った。


「じゃから、ミヤギも治癒師になれるのじゃから」

「ばば様、僕は魔法はいいです。この村で過ごしていけるなら、それで」

「阿呆、この村で過ごしていくならば回復ヒールくらい使えるようになっておれ」

「すみません」


 ばば様には簡単に頭を下げることができる、と僕は思っていた。でも、そんな簡単に済ますのではなく、ここで回復ヒールのコツの一つでも教えてもらうべきだったのだ。



 その夜、冒険者たちと一緒にフェアリードラゴンの討伐に出かけたステインが負傷して帰ってきた。腹に刺さっているのは緑色の角、フェアリードラゴンの角のようだった。


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