第3話 チュートリアルは受ける派だった
森を抜けるのに大した時間はかからなかった。
魔物もリーザの顔をよく知っていたのだろう、それなりに警戒こそしていたものの必要なかったようだ
「着いたぞ、ここがイスダールじゃ。なかなか立派な街じゃろう?」
「まあ確かに、それでギルドっていうのはどっちに?」
「まあ待て、その前にお主は装備を整えるのが先じゃ。付いて参れ」
言われるがままリーザについて歩く。
街中はまさに冒険者のための街といったような感じだった。
ざっと見るだけでも町民らしいのが半分で冒険者らしいのが半分といったところだろうか。
なんとなく見られているような気がしたがそれは気のせいということにしておいた。
しばらく歩くと剣と盾モチーフの看板がぶら下がっている店にたどり着く。
ここが武器屋であることがたとえ文字が読めなくてもわかる親切な看板だった。
「失礼するぞ。店主殿はいるか?」
「リーザさんじゃねえか。何ヶ月ぶりだ?」
店の奥より出てきたのはガタイのいいおっさん…… いやおっさんと呼ぶには若干早いかもしれない三十代前後の男だった。
「こやつに装備を見立ててやって欲しいのじゃ」
「了解した。んじゃ測るぜ」
武器屋の男は手早く巻尺で寸法を測ると店の奥に消える。
しばらくして薄手の革鎧を手に戻ってきた。
「初めは金属鎧よりもこれぐらい薄くて軽いほうがいいだろう。武器は適当に持って行ってくれ」
しかし使いたい武器はもうなんとなく決めている。
俺はためらうことなく陳列台から大太刀を手に取った。
これでも前世はこういうのに憧れていた身だ。
一応それなりには使えるはず。
「太刀か、あんたに使いこなせるかな?」
「努力する」
こうして俺は武器と防具を手に入れた。
なんとなく紐っぽい気もするが今は恥をしのんでおこう。
■■■
「さて、わしは少し神殿に用がある。お主はギルドへ行き登録して仕事を受けるとよかろう」
「え、俺ひとりで?」
「ギルド登録後は直ぐにギルドが指定した仕事を絶対にひとりで受けることになっておるのじゃ。まあ仕事の流れを確実に覚えるだけじゃから基本的に身の危険はほぼないぞ」
要はチュートリアルか。
まあゲームみたいなことを現実にやらされるなら諸々の仕様がゲームっぽくなったとしてもそうおかしくはないだろう。
「それじゃあお主の仕事が終わる頃にはわしの用事も終わっておるじゃろうからな。酒場で待っておるぞ!」
そう言うと手を振ってリーザは何処かへ去っていった。
■■■
俺は気合を入れると冒険者ギルドと書かれた建物のドアを開けた。
中は思ったよりもごちゃごちゃしてはおらず役所の中みたいな印象だった。
俺は新規登録と書かれている受付の受付嬢に話しかけた。
「冒険者登録を頼みたい」
「はい、ではまず契約書に目を通し了承できるならサインをお願いします」
契約書にはいろいろごちゃごちゃ書かれていたがしっかり全部読む。
やはり書かれているとは思ったが
『仕事中に生じたすべての事柄に関して冒険者ギルドは一切の責任を負いません』
の一文が非常に恐ろしく感じる。
そして最後には名前やら出身地やらを書く欄があった。
しかし名前は『アカツキ』とだけ書いておくしかない。
出身地はこの街で良いだろう、それ以外の項目は適当に埋める。
「書き終わった」
通るかどうか不安になりながら契約書を受付嬢に手渡す。
「問題ありません。これよりアカツキさんを冒険者と認めます」
どうもこの世界の人間は名前には比較的ルーズらしい。
「ではこれより最初の仕事を行っていただきます。準備が終わるまでしばらく椅子に腰掛けてお待ちください」
言われるまま椅子に座って待っていると近くの冒険者どうしの会話が聞こえてきた。
「なあ、お前ドラゴンと戦ったって本当か?」
「本当だっつってんだろ、おかげで武器を持って行かれちまったよ」
「持って行かれたって…… 何やったんだ?」
「死闘のあげく剣突き刺したらそのまま逃げられたんだよ。今度会ったらただじゃ済ませねえ」
「しかしこのあたりにもドラゴンが出るとは…… こりゃ近々討伐クエストが出るか?」
「しかも新人研修地と目撃エリアがかぶっているからな。こりゃ日を待たずに出るだろうな」
聞かなきゃよかった。
これは間違いなくフラグでしかも負けイベントフラグっぽい。
思わず逃げにくい重厚な太刀を選んだことを後悔してしまった。
「アカツキさん、クエストの準備が整いましたのでこちらにどうぞー」
それではこれより死地に赴こうか。
■■■
「さて今回は初めてなので私がクエストのあるエリアまで連れて行きましたが基本的には自分でクエストエリアまで行ってくださいねー もちろん途中で掛かる費用は仕事を受けた人持ちです」
重厚そうな鎧に身を包んだ冒険者ギルドの職員に引率されて森の入口にたどり着く。
とは言ってもリーゼに連れられて先ほど通った森の出口と同じではあった。
「これよりあなたにはコボルトを三匹撃破してもらいます。退治し終わったらそれを証明できるものを持ってここまで帰ってきてください」
要は死骸を持ち帰ればいいのだろう。
「なお対象外のモンスターを撃破するのは自由ですがそれに関しての追加の報酬は出ないのであしからずもちろん撃破したモンスターの所持品は撃破した人間に与えられます」
「そういえばさっきこのあたりにドラゴンが出るって噂を聞いたんだけどそれについては?」
「それは契約書に書かれているとおりで」
つまりは自己責任ということか、なんて殺生な。
「しかしいざという時にはこの信号弾を使ってください。それを使えばすぐに救援が向かうはずです。」
そう言うと花火のような筒とマッチを手渡される。
しかし救援が来るまでに耐えられないような気もするが……
この世界の人間はどいつもこいつもとことんルーズなのか?
「それではいってらっしゃい。あなたに幸あらんことを」
俺は見送られながら森の中へ一歩踏み出した。




