第2話 喋り方など些細な問題
目が覚めたのはベッドの上だった。
体に目立った外傷はないものの無理な体の動かし方をしたためか立ち上がるのに苦労する。
近くの机には見たこともない装飾の薄手の服が置かれていた。
それに袖を通しドアを開け廊下に出る。
しかし一体誰が俺を助けたのだろうか。
そう思いながら部屋をひとつずつ確認すると一つ扉の閉まっている部屋があった。
扉には見たこともない文字が書かれていたが何故か読むことができ『研究室』とだけ書かれていた。
俺はドアをノックする。
「ふむ、今開けるぞ」
ドアが開かれ扉の向こうの声の主と対面した俺は思わず拍子抜けしてしまった。
「我が名はリーザ・グルムバッハ…… どうしたのじゃ? そんな怪訝な顔をして」
「いやなんかイメージとだいぶ違うというか……」
目の前にいたのは少女だった。多分年齢は自分と同じか1~2つ下ぐらいだろう。
それでもお約束というべきか相当な美少女であり視線を合わせるだけでドキっとしてしまう。
しかしその姿を見て真っ先にちんちくりんという言葉が浮かんだのは黙っておこう。
「さて、名乗ったからにはお主も名乗るのが礼儀というものじゃ」
「ああ、俺の名はアカツキ……」
そういえば考えておくつもりだったな。しかし適当なものが思いつかない。
「アカツキか、良い名じゃの」
しかし向こうが勝手に納得してくれたので良しとしておこう。
「ところでお主、いま空腹か?」
「そりゃもうものすごく空腹です」
「それは良かった。あれだけの大勝負のあとじゃ腹が減らぬ訳はあるまい。簡単な食物を用意しておいたからそれを食べながらでも話を聞かせてもらおうかの」
「本当に感謝します」
研究室の中央の大きな机の上にさらに山盛りのサンドイッチが置かれていた。
その周囲の床には乱雑によくわからない資料やら羽ペンとインクやらが置かれていたことから本来は物書き机として使われていたと思われる。
机の上の卵サラダが挟まったサンドイッチを手に取り口に運ぶ。
「なかなか美味しいな」
「褒めても何も出ぬぞ」
リーザが自分で作ったものらしく褒められたことに素直に顔をほころばせていた。
喋り方はババくさいがこうして見ると普通に可愛い少女である。
「しかしお主、あのような場所で一体何をやっておったのじゃ? わしがたまたま通りがからなければ死んでおったぞ」
「何をと言われても……」
いきなり痛いところを突かれる。
ここでの選択肢は二つ、ごまかすか転生のことまで全部話すかである。
「話すと長くなるが…… 転生って知っているか?」
俺は迷わず後者を選んだ。
「転生……とな?」
「俺は別の世界で死亡した後にいろいろあってこの世界に転生してきた。そして転生後のスタート地点があの森の中だったわけで」
「なるほどのお……」
リーザは向こうを向き手をあごの下において考え始める。
「それでまあ恥ずかしながら転生前はそれほど強かったわけでもなくてだな。その結果があんたの知るとおりで」
「――なかなかおもしろき話じゃの」
「やはり、そう思いますか」
「じゃがそのようなおもしろき話、信じねばなるまい!」
ビシィッと効果音が出るかと思うぐらいの勢いで指を眼前に突きつけられる。
「要するに信じてくれるってこと?」
「もちろんじゃ、神殿のような頭の固い連中ならお主に優秀な医者を紹介するじゃろうがわしは頭が柔らかいのでな。そのような話は信じるしかあるまいよ」
「礼を言う、実はあんたなら絶対に信じてくれると思っていた」
「なんと!? お主わしの頭が柔らかいのを見越しておったのか!?」
いえ、変わった人だろうから信じてくれると思っただけです。
そしてたった今それは確定事項になってしまったがそれも黙っておくのが礼儀というものだろう。
「そういえばここはなんて世界だ?」
「世界の名は知らぬがここはファルベンス大陸、お主はなんというところにおったのじゃ?」
「えっと地球って惑星の日本ってところ……だと思う」
「ふむ、興味深いが話すと長くなるであろう? いずれ退屈なときにでも聞かせてもらおうか」
「それはありがたい、そういえばあの野犬の群れはどうなった?」
「わしが追い払った、わしは一流の魔導技師じゃ、あれぐらい何とでもなる」
「つまり冒険者としてのレベルも高いと」
「うむ、本業ではないがそこいらの魔物程度には負ける気はせぬぞ」
数値化されて見えるわけでもないが自信から見るにリーザの実力は本物らしい。
「それにしてもお主には恐れ入った。一撃で敵の頭をかちわる勇猛さに自らの匂いで敵をおびき寄せるその知略。お主には冒険者が向いておるぞ」
冒険者か……
別にファンタジーな世界とは言え商人なり農民なり非戦闘的な仕事だって多様にあるはずである。
しかし今の状況で流石にNOとは言いにくい。
「冒険者になるにはどうすれば?」
「とりあえずギルドに登録すれば万事オッケーじゃ。森を抜ければイスダールという町があるからそこへ行くと良い」
「感謝す…… 森を抜けて?」
「ああ、お主はまだ非武装だったな、だが心配はいらぬ。わしも少しその町に用事があるのでな」
「と、言うと?」
「そこまでは同行してやろうではないか。道中の魔物からはお主に傷ひとつ付けさせぬわ」
「それはありがたい……」
いきなり女の子に守られるという情けない立場な俺であった。




