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第11話 三者三様

 俺は悩んでいた。

 カメリアが加入して数日、特に大きな問題もなく旅は続いている。

 そう、大きな問題はないのだが……

「…………」

「…………」

「…………」

「お前ら飯の時ぐらいはなんか喋れよ」

 宿屋にてただ黙々と出された料理を食べる三人思わず突っ込んだ。

「そう言われても特に話すことはないのじゃ」

「同じく。私は面白いことも言えそうにないのでな」

「アカツキ君となら話したいことはいっぱいあるんだけどなー…… 流石にこの状況じゃねー」

 数日前からずっとこんな調子だった。

 始めの頃はそれなりにあったものの最近は会話が非常に少ない。

 それどころか意図的に会話を避けているような感じだった。

 パーティ内の空気も悪く最悪の場合いきなりパーティ崩壊の危機かもしれない。

 なんとかしなければいけない気もするが何とすればいいものやら。

「全くどうなってるんだよ…… ってあれ?」

 考え事をやめ机に視線を向けると既にリーザしか残っていない。

「あれ、あいつらは?」

「もう食べ終えて外に出ていったぞ。あやつらは食事ぐらいゆっくりできぬのか……」

 ごもっともである。

 見るとリーザはまだ半分ぐらい料理が残っていた。

 ならばいい機会だ、それぞれに話を聞こうじゃないか。

「なあひとつ聞いていいか? あいつらのこと正直どう思ってるんだ?」

「あいつらとはあやつらのことじゃな?」

「まあどっちでもいいよ」

「お主には正直に言おう。……あやつらはさほど信用しておらぬ」

「何故?」

「まず神殿への苦手意識は昔ほどではないがやはり根強く残っておる。あの女騎士にも同じことが言えるかのぉ」

 つまりは神殿への苦手意識の延長がそのままエルナへの不信感になっているわけか。

 これはまあ時間の問題かな。

「してあのドラゴンの方は…… ……が気に食わん」

「え? 聞き取れなかったからワンモアプリーズ」

「何度も言わせるでないわ! とにかく奴は気に食わんのじゃ!」

「は、はあ……」

「わしは部屋に戻る。来るではないぞ! 全くどうすればあのように大きくなるのじゃ……」

 ちなみにリーザは『小さい』

 無関心そうに見えても案外気にしていたらしい。

 女心とは複雑なものである。


■■■


「セイッ! ハッ トアア!」

 宿屋の裏の空き地で暑苦しい声と共に素振りしていたエルナを見つけるのはそう難しくなかった。

「精が出るな」

「……何だアカツキ殿か。なんの用だ?」

「まあちょっと話をしたいと思ってな」

「む、鍛錬じゃないのか……」

「また今度頼むよ。それにしても飯食うの早いんだな」

「出兵時なんかだとあまり落ち着いて食事ができなかったからな。その癖でどうにも食事が短くなってしまうのだ」

「ああ、そういえばあんたは一応軍人だったな」

「一応とは失礼な。私は世に名高き神聖十字騎士団団長だぞ?」

「で、その団長さんがなぜ護衛任務などやっているんだ?」

「……なんでだろうな?」

 半分がリーザの要求、残りの半分は彼女自身の意思だった気がする。

「話がそれたな。正直に話してくれ、あんたはリーザとカメリアをどう思っているんだ?」

「どう思っている、とは?」

「好いているとか嫌っているとか…… まあ本人には言わないから正直に頼むよ」

「そう言われても私は護衛だ。リーザには護衛対象という感情以外は特に持ち合わせていないな」

 随分と淡々としているがそりゃそうかとしか言えない正論だろう。

「そしてあのドラゴンの方は…… うむ……」

 何やら歯切れが悪い。

「私は騎士団の仕事として今までにも数え切れない魔物を討伐してきた。無論ドラゴンもな。私にとっていや騎士団全体にとっても魔物は敵だろうな」

「つまりあいつも敵だと?」

「そうなるはずなんだがああも人間に馴れ馴れしいドラゴンなど初めて見る。ましてやその価値観が人間に近いとなるとどう接していいのかわからないな」

「まあ…… 悪い奴じゃないんだろうけど」

「それでも私は人間で彼女は竜だ。たとえ姿かたちが人間と同じでもその本質は変えられない」

 これまた正論である。

 むしろこれがこの世界の人間の標準的な魔物に対する考え方というやつか。

「と、まあそんな感じだな。私はしばらく鍛錬を続ける、よければ君も……」

「今日は遠慮しておく。その代わりひとつだけ言っておきたいことがある」

「なんだ?」

「うるさいからその鍛錬はよそでやってくれ」

「……? 何がうるさいのかよくわからないが了承した」

 あの奇声は無意識に出ていたのか。


■■■


「後はカメリアか。 ……あいつどこに行った?」

 近くで外の空気を吸っているのかと思ったらかなり探し回っても見つからない。

 まあ別にそんな急ぐことでもあるまい。

 夜中に探し回るのはしんどいのでそろそろ宿屋に戻ろう。

「だーれだ」

 背後から両目を塞がれる。

 聞きなれた声にもう慣れた背中に当たる柔らかい感触、向こうから来るとは都合がいい。

「カメリアだろ? どこ行ってたんだ? 探したぞ」

「ちょっと羽を伸ばしてたのよ。それよりも私を探してたって本当?」

「ああ、嘘をつく理由もない」

「つまり私と会いたかったってことでしょ! 嬉しい!」

「あー、うん…… わかったから俺が死にそうになる前に離れてくれ」

 抱きついてくるカメリアをそれとなく回避しながら距離を置く。

「気持ちだけ受け取っておくよ。それよりもちょっと聞きたいことがあるんだけど……」

「何? アカツキ君にならどんなプライベートなことでも答えてあげる」

「そんなプライベートなことじゃないんだが…… ほかの二人をどう思っているか率直に聞かせてくれ」

「どちらも興味なし、以上」

 今までで一番単純明快な回答である。

「私が興味あるのはあなただけ。あの二人にどう思われようが私の知ったことじゃないわね」

「あーうん、やっぱりそうかー……」

「ねえそれよりも今ふたりっきりだよね。よかったら一緒に散歩でも……」

「それだけ聞けりゃいいんだありがとな。明日も早いからしっかり寝ておけよ。じゃあお休み」

「あ、うん。お休みー……」


■■■


 結論:うちのパーティの空気は最悪だった。

 これは早急に何とかせねばなるまい。

 しかし人の意識を変えることはできない。

 ならば互いを意識せざるを状況を作るに限る。

 明日ギルドで何か仕事を受けよう、それもとびっきり難しいやつ。

 そう心に決め俺の意識は深い闇に落ちた。


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