表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Lovey-dovey  作者: このはな
世界でいちばん好きな人
6/7

 早く起きて化粧をし、いざ遠くへ行こうと思ったものの、特別行きたいところなんか思いあたらなかった。家族の手前、毎晩遊びに行く振りをして、実際はマンガ喫茶で時間を潰していた。が、それにも限界がある。


 地元の友達はみな、それぞれ予定があるだろうし、わたしには妹以外、仲のいい女の子がいなかった。自業自得というのだろうか。昔から男友達ばかりで、そのせいか余計に同性の友達ができなかったのだ。みんな、わたしのことを遊んでいる女だと思っている節があった。机の上によく、「淫乱女」とか「援交女子」だとか落書きされていたっけ……。


 まあ、いいや。昔のことを思い出しても落ち込むだけだもん。喫茶店に行って、コーヒーを飲んで来よう。


 家を出て近所の通りをぶらぶら歩いた。久々に見る町並みだ。うん、実に半年ぶり。


 確か、この通りを抜けたところに、おしゃれなカフェがあったはず。記憶を思い起こしながら、その場所へ向かったら、工事中の立て看板が目に入った。


 カフェの建物があった場所は、すっかり様変わりしていた。更地になっていて、重機が入っている。建築材が積まれていて、新たに何か他の建物を造ろうとしていることがわかった。


 ――あ、なあんだ。なくなっちゃったんだ……。


 すごくショックを受けた。現実と自分の記憶がちがっていたからだ。


 こうして、ちょっとずつ、変わっていくんだなあ。景色も、町も、建物も。そして、そこに住む人さえも。


 ずっと変わらずに同じままでいることを望むのは、到底無理な話なんだ。そう思い知らされたような気がして。ふいに、別れた彼の顔が浮かんだ。


 今頃、大阪で何をしているのだろう。どうして、わたしは彼のプロポーズを受け入れることができなかったのだろうか。別れてから一か月もたったのだ。わたしの知らない都会で、わたしの知らない生活を送って、きっと彼も変わったに違いない。


 彼もまた、この景色と同じように少しずつ変化を遂げて、いつのまにかわたしの知らない彼になってしまうのだ。


 ――っと、やば。


 いつのまにか視界がぼやけていることに気づき、涙を拭くためにハンカチを取り出そうとした。バッグの中に手を入れる。


 と、次の瞬間、携帯が震えた。着信のお知らせは、妹からのものであることを示していた。


「はい、もしもし」


 ホッとして電話に出たら、慌てふためく声が向こう側から聞こえてきた。


「お、お姉ちゃん! いまっ、今どこっ? どこにいるのっ?」


 何を慌てているのだろう、こんな朝早くに。


 我が妹ながら変な子だ。


「どこって言われても、家の近くのカフェがあった場所にいるよ。コーヒー飲みに来たら、建物がないんだもん。びっくりしちゃった。アンタ、どうして教えてくれなかったのよ! このこと知ってたんでしょう?」


 ところが、妹はわたしの話を聞いていなかったらしい。


「わかった! そこで待ってて! 三十分後!!」


 大きな声でそう叫んだと思ったら、勝手にプツンと電話を切ったのだ。わたしはあ然とした。


「ちょっとなんなの、今の。それに学校をどうするのよ、あの子は……」


 学校をさぼって、ここに来るのだろうか。そうでもしないといけない理由があるっていうの? いくら考えてもわからない。ちんぷんかんぷんだ。


 ――ふふん。いい度胸だ。ひょっこり顔を見せたら、とっちめてやるんだから。


 電柱の陰に隠れて、妹があらわれるのを待つことにした。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ