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ガタンガタンと電車が走っている。わたしは扉に背をくっ付けて揺れに身を任せている。
窓の外を流れるのは、眩しい初夏の風景だ。葉っぱを茂らせた桜の木々が線路沿いに連なり、その後ろを畑や田んぼが続いた。
人工的な建物の少ない田舎の風景になってしまったが、それはほんの一瞬のことだ。駅が間近に迫ったのだろう。住宅と住宅との間が少しずつ狭くなって、再び建物の数が増え出した。密集した住宅街の風景に変わると、次に到着する駅のアナウンスが車内に入る。
「次は千国。千国でございます。お降りの方はお忘れ物の無いよう――」
そのとき車内アナウンスに被さるようにして、「きゃ~っ」という甲高い声があがった。
「それ本当? バレー部の練習試合があるって~?」
――えっ。
驚きをもって声のした方向に視線を向けたら、わたしと同じ制服を着た女子高生が三人もいた。こんな時間にめずらしい。
混雑する朝のラッシュが苦手なわたしは、人込みを避けるために、一時間以上早い電車にずらして乗ることにしている。
だから、乗り合うのは、スーツ姿の男性や若い女の人、登山へ行く恰好をした初老の夫婦や大きな旅行鞄を持ったおばさんばかりだ。同じ年頃の子たちと遭遇することはめったにない。
朝の早い時刻だと車両はたったの二両しかないけれど、車内は空いているため席にすわったり立ったりするのも自由だった。テストの日なんかは教科書を広げたりして、四十分間の通学時間を有意義に過ごすことができる。
秋の大会が近いせいだろう。朝練があるに違いない。三人ともスクールバッグの他にカバーのかかったテニスのラケットを持っている。キャーキャーと騒ぐ彼女たちのテンションの高さは、静かな車内の雰囲気にそぐわない感じだった。
三人のうちの一人、スカートの丈が一番ミニのギャルっぽい女子がキッパリとした調子で言った。
「間違いないよ。妹から聞いたんだから。あ、言ってなかったっけ。うちの妹、宮高に行ってるんだ。そっちの情報なの」
「ふ~ん、だったらガセじゃないね」
「今どき妊娠して学校やめる子がいるなんてさ。なんか昭和のドラマっぽくない?」
「ははっ、ほんとほんと。言えてる~」
その隣にいた背の高い女子がうなずいた。
残る一人の子が「あっ」と声を出す。
「どうしたん?」
「見て見て、あの人! かっこよくない?」
――なぬっ?
「かっこよくない?」の声につられて、思わずわたしも彼女たちと同じ方向に視線を向けた。
すると、そこには……――。
お姉ちゃんから無理やり送られてきた写メに映っていた、茶髪の彼氏とうり二つの男が立っていたのだ。
「あ~っ!!」
うっかり大きな声を出してしまった。車内中の人たちがみんな、あっけにとられた顔でわたしを見ていて。そして、お姉ちゃんの彼氏も、びっくりしたようにポカンと口を開けていた。
彼と目が合う。
え、えっと……。
戸惑っていたら、お兄さんも困ったように小首をかしげた。
そりゃ、そうだ。こんな公衆の面前で、女子高生に指を差されたら、困るだろう。しかも電車内で。疑いの眼差しをかけられてもおかしくない。
「あ、あ~、すみません! いきなり……」
とっても恥ずかしかったけれど、その場に居合わせた乗客たちの誤解を解くために、わたしは大きな声を出した。
「お、おはようございます。はじめまして、お兄さん。わたし、藤岡まどかの妹の真紀です。こんなところで会うなんて、ほんと偶然ですねー……」
本当のことを言ったら、「エッチの下手くそなお兄さん」の文字が真っ先に脳内に浮かんだのだけど。
苦笑いをしながら自己紹介をしたら、お姉ちゃんの彼は「ああっ!」と驚きの声をあげたのだった。




