53話 対戦車戦闘
俺がエッグランチャーの発射スイッチを押すと、棒の先端にある卵型の榴弾が飛び出していく。
ポンッと軽やかな音を立てて飛んでいく卵。
卵の後部にはロケットの羽のようなものが付いていて弾道を安定させているようだ。
しかし直線起動ではなく放物線を描く軌道だ。
思った以上に弾頭の速度が遅い。
しかしかろうじて戦車の下部のキャタピラ付近に命中した。
「おっし!!」
俺は拳を握って喜びを表す。
しかし1発での撃破はなかった。
エッグランチャーは使い捨てだからさらに止めのもう一撃はできない。
オークの60型戦車は右側転輪を1個破壊されてキャタピラが切れる。
そしてしばらく進むが切られたキャタピラの影響で右側に進行方向を変えて停止した。
戦車の乗員が車外へ逃げてくれることを期待したんだがその期待は外される。
砲塔だけが回転して主砲を俺に向けてくる。
移動不能状態のくせに徹底抗戦を選んだようだ。
ひええ!
当然おれは一目散で走り出す。
うん、やっぱゴブリンと比べちゃいけない。
オーク怖し。
俺の走った後には主砲と同軸の機関銃の弾丸が草木を弾き飛ばしていく。
よし、砲塔の旋回速度よりも俺の走る方が早い。
俺は近くの茂みに飛び込んでじっとする。
砲塔は旋回したまま機関銃の銃口は俺を通り過ぎていく。
どうやら俺を見失ったようだ。
戦車の内部から視察スリットを通して外部を見ると、あまりにも視野が狭くなる。
至近距離で素早く動く物には対応が難しい。
こうなったらやってやる。
75㎜砲の支払いのためにもあの戦車を倒す!
俺は砲塔の銃砲の向きを気にしながら徐々に戦車の後方から迫る。
砲塔は俺を探すようにあっちこっちへと回転する。
俺の今の持ち札は拳銃と手榴弾、そして度胸だ。
移動不能になった戦車など接近は容易い。
近くまで行ければあとはハッチを開けて手榴弾を投げ込むか、エンジンルームの上で手榴弾を何個か破裂させるだけだ。
手榴弾はたくさんあるしな。
戦車にとりついた俺は拳銃を構えながら戦車をよじ登る。
すると砲塔のハッチがいきなり開いた。
開いたハッチからオークの頭がにょきっと飛び出す。
慌てて俺は拳銃の銃口を向けて引き金を引き絞る。
廃屋アジトで見つけた9㎜自動拳銃だ。
頭を出したオークの後頭部に銃弾は命中し薬莢が宙を舞う。
オークはそのままずるずると戦車内へとずり落ちていく。
俺はそれを追うようにして砲塔ハッチから拳銃の銃口を車内へと向ける。
中にいたオークと目が合う。
恐怖に満ちた目だ。
一瞬ためらうも俺は引き金を引いた。
3発ほど連射しただろうか。
戦車内には動くものがなくなった。
この戦車は2人乗り。
俺の勝利だ。
終わった。
俺はため息をつきながら戦車の上で座り込む。
いつの間にかに戻って来たのか、アルファーのガキンチョ3人が俺の座り込む戦車の横に立っている。
俺がそれに気が付いてそいつらを見るとその中の1人がしゃべりだす。
「あの、こいつの修理手伝いましょうか?」
忘れていた。
この戦車は足回りが壊れているだけだ。
修理次第では動く。
やった、オークの戦車なら高く売れるはずだ。
いや、この戦車に乗り換えるか?
あ、だめだ。75㎜砲の支払いを先に完結しないと。
よし、命を助けたんだからこいつらに修理を手伝わせるくらいいいよね。
だいたい、自分たちからそう言ってることだし。
「そうか、悪いな。それじゃあ手伝ってもらえるか」
俺の一言でこいつらは修理を始める。
切れたキャタピラは直ぐ直りそうだけど、転輪が1個が割れちゃってるから予備でもない限り修理は無理だろ。
その前に騒ぎにつられて敵が集まってくるかもしれん。
とにかく警戒するために砲塔の武器を使えるようにしなくちゃいけない。
オークの死体を中から引っ張り出して、これが結構重いんだな。
そう、そう。オークの討伐部位の角も回収。
それと戦利品も物色。
そうだ、罠で爆発した現場へいってコボルトの戦利品も確保しよっと。
こうも稼げるとなんだかうれしい気分になる。
スキップをしながら罠の現場へ行く。
そこでの戦利品は軽機関銃だ。
それもブール製の26型軽機関銃……の複製品だ。
手榴弾の破片で傷ついてはいるがまだ使えそうだ。
これはラッキーだ。
オリジナルよりも性能は落ちるかもしれないが軽機関銃には変わりはない。
それ以外で金になりそうなのはリボルバー拳銃くらいか。
軽機関銃が手に入ったんだから良しとするか。
俺は軽機関銃と一緒に弾薬を担いで戦車まで戻る。
アルファの3人はもくもくと戦車の修理に励んでいる。
ついでにサイドカーもこいつらに直させるか。
しかしこいつらこの後どうするんだろ。
話を聞くとアルファーの他のメンバーはさっきの戦闘で隊長を含めた全員が死んでしまったらしい。そうなるとこの3人だけではここでの狩りは無理だという彼らの判断だ。
そこは間違いないな。
近くにトラックが止めてあるっていうから帰ろうと思えば帰れるはずだよな。
そのあたりを何気なく聞いてみたら――
「持って来たお金は全部今回の狩りの準備ににつぎ込んでしまったんで、このまま稼ぎもないまま帰るわけにいきません」
――という返答だった。
じゃあ3人で狩りの続きをすればいい。
それを俺が口にすると「僕たち3人では無理ですよね?」って!
いやまて。
その言い方は俺も一緒に来いと言ってるよね。
「俺を誘っても無理だから。だいたい君らと同じ4等級だよ、俺は。君らの2等級の隊長とは違うからね」
すると彼らから返ってきた言葉に驚かされることになるのだった。
設定資料
89型擲弾筒:
口径:5㎝ 重量:4.7kg 射程距離:40~650m(弾種によって違う) 弾薬:照明弾、ガス弾、手榴弾、専用の榴弾
個人用携帯火器。
1人で操作ができる迫撃砲のような武器で、放物線のような曲射弾道を描いて手榴弾を飛ばす。専用の榴弾も用意されていて、この榴弾の破壊力は手榴弾の数倍の威力がある。グレネードランチャーともいえる武器。
次話投稿は明日の予定です。
明日もよろしくお願いいたします。




