51話 コボルト追撃
アルファのグループはきっと獲物に遭遇したに違いない。
あわよくばおこぼれに、なんて考えている俺は最低だな。
とりあえず近いこともあり様子を伺おうと思って、サイドカーで爆発音が聞こえたあたりへと接近してみた。
サイドカーのエンジンを切り、少し歩いて木々の間から音のする方向を覗いてみる。
一応すぐに撃てるようにライフル銃を構える。
銃撃音と爆発音と悲鳴が聞こえる。
どうやら魔獣と遭遇したんではなく、コボルトの部隊と遭遇したらしい。
しかし一方的に攻撃されているっぽい。
あの装備で押されてるってことはコボルトの数が多いのか、武装が強力なのか、はたまたその両方なのか。
人間側は完全に守勢な感じだ。
あ、怪我人がいるのか。
3等級のハンターが1人重傷のようでポーションを使っている。
結構な贅沢をするチームなんだな。
しかも高ランクのポーションっぽい。
重傷者だった者が1瓶飲むだけで回復してるし。
敵とアルファの間は10mもない。
かなりの接近戦闘だ。
コボルトの部隊が密林の奥で動き回るのが時々見える。
コボルト側は軽機関銃を持っているらしく、銃撃がかなり激しく、時折手榴弾も投げてくる。
接近しすぎててアルファが装備している擲弾筒は使えないようだな。
しばらく観察したところ、やはりコボルトは1個小隊くらいいるようだ。
それにアルファに比べて戦闘に慣れている。
あ、またアルファのメンバーに怪我人が出た。
これは近寄らない方がいい気がする。
済まんが俺はこの場から撤退させてもらうよ。
俺の装備じゃどうにもならないしね。
俺はサイドカーに戻ろうと振り返った時、何かと目が合った。
「コボルト!」
思わず声に出てしまった。
コボルトも驚いたみたいで、慌てて持っているライフル銃をこちらに向ける。
俺と5m位の距離か。
コボルトは2匹で、どうやら迂回してアルファを襲う作戦だったらしい。
コボルトにしたら予期せぬところで再び人間に遭遇したんだ。
それは驚くのも当然。
でも俺も同じくらい驚いた。
俺はライフルを構えるよりも隠れることを優先した。
すぐに木の後ろに身を伏せて隠れる。
コボルトが放ったライフル弾が俺の隠れている木に命中する。
やばい、やばい、やばい。
俺もライフル銃で応戦するが、あまり使い慣れていないこの銃、命中させることができる気がしない。
すぐに腰のホルスターから拳銃を引く抜いて持ち代える。
この間手に入れたラムド35型拳銃だ。
この距離ならこれでも十分応戦できると判断。
なんせ連発できるのが頼もしい。
敵を倒す威力よりも牽制して逃げ延びることを選択した。
しかしこの至近距離だ。
そうそう逃げ出せるもんでもない。
俺の足元に煙を吐く何かがゴロンと転がる。
手榴弾っ!
咄嗟におれはそれを拾って投げ返す。
手榴弾はなぜか俺の乗って来たサイドカーの近くで爆発した。
ちがーう!!
今の間違えだから!
そう思ってももう遅い。
すでにサイドカーは手榴弾攻撃で煙を吐いている。
あああ、レンタルなんだってそれ。
このままだと75㎜砲の支払いの前に、サイドカーの支払いを何とかしなくてはいけないじゃねえか。
俺は怒りに任せてコボルトに向かって手榴弾をお返しする。
コボルトの足元に俺の投げた手榴弾が転がる。
コボルトも俺と同じように投げ返そうとそれを拾う。
しかし拾った途端にそれは爆発した。
手榴弾は時間を見計らって投げるんだよ!
コボルト2匹は手榴弾1発で吹き飛んだ。
コボルトも確か討伐対象で牙を持っていくと換金できるんだけど、ゴブリンよりもちょっといい程度。
特に今はそれどころじゃないというのもあるんで、放っておいて先を急ぐ。
今の戦闘音でコボルトの本隊に俺の存在がばれてるはず。
一刻も早くここから逃げ出さないといかん。
でもサイドカーの近くまで来てみると、涙がこぼれそうになる。
修理代が相当かかりそうだ。
これは下手すると買取だぞ。
しょうがない、押していくしかないか。
俺は渋々、動かなくなったサイドカー付きのバイクを押し始める。
タイヤがパンクしなかったのは不幸中の幸いだ。
本当はバイクを押して帰る余裕もないほどの状況なのは俺もよくわかっているんだが、放置して買取とかなったら手も付けられん。
敵に見つかるまでは努力してみる。
俺がバイクを押し始めてすぐだった。
後ろから必死の形相のアルファの連中が出現。
あ、ばか。こっちへ逃げてくるなよ。
俺の後を追うように逃げてくるアルファのメンバー。
当然のことながら、そのアルファを追撃するコボルト部隊。
ということはだ、その集団の一番先頭にいるのは俺ということだ。
なんでこうなった!
こうなったらバイクを押してる場合ではない。
バイクを捨てて、荷物だけ持って全力で逃げ出す俺。
くそ、湖から離れるか。
俺が逃げる方向を変えるとなぜかアルファの連中も方向を変える。
こ、こいつら着いてくるんじゃないってのに!
運が悪い時というのは結構重なるもので、俺の逃げるのを阻むものが現れる。
ジャングルの奥から聞き覚えのある音が聞こえてきた。
―キュラキュラキュラ―
キャタピラ音だ!
俺はすぐに姿勢を低くして木の陰に隠れる。
するとアルファのメンバーも同じように姿勢を低くする。
そういえばアルファのリーダーっぽい人がいないな。
後ろから逃げてくるアルファ―のメンバーは確認できただけで3人だ。
全員が4等級バッジをつけてる。
行動を見る限り4等級成り立てっぽい。
どう見ても5等級の動きしかしてないもんな。
しかしこの状況はまずい。
前からは戦車、後ろからはコボルト部隊。
右方面へ行くと湖に出てしまって遮蔽物が少なくなる。
左方面しか行く方向がない。
いや待てよ。
戦車が必ずしも敵とは限らないじゃないか?
味方戦車の場合だってある。
そうだ、きっとハンターの戦車に違いない。
俺はそう信じて姿勢をゆっくりと起こし、キャタピラ音のする方向を覗いてみた。
俺の視線の先に映ったのは……
コボルト初登場でした。
次回、窮地の中で主人公の決断した行動とは?
次話は明日投稿の『予定』です。
どうぞ明日もよろしくお願い……するつもりです。




