02 逃げられて、逃げられて
盗賊女の両手両足をロープで縛って動けなくして馬車に詰め込んで走っていると、どうやら盗賊女が起きたようだ。
横からゴソゴソと体を動かす音が聞こえてきた。
「なんだこれは! 取れねえじゃねえか!」
ロープから抜け出そうと体を捻っているが、かなりきつく縛ってあるので抜けることは不可能だろう。
「起きた? 抜けられないように縛ってあるから無駄だよ」
盗賊女が僕を見て怒り始める。
「てめえ、この縄を外しやがれ! うちの盗賊団に逆らってどうなるか分かっているんだろうな!」
どうなるもなにも、既に壊滅状態なんだけどね。もしかして忘れているのかな?
「えっと、頭大丈夫?」
「頭は大丈夫だよ! 足が痛いんだよ!」
そういう意味で聞いたんじゃないんだけどね。
「それなら大丈夫。特に毒とかは塗ってないから危なくないよ」
「毒!?」
盗賊女が驚きこちらを見る。
そんなに驚くことかな? 盗賊なんだし毒とかも使うんじゃないのかな?
「毒とか卑怯だろ! お前らは強いんだから正々堂々と戦うべきだろうが!」
この人の卑怯の基準がよく分からない……。
「でも盗賊女さんも強いよね、なのに集団で戦っているじゃない」
あれだけマノンの矢を避けて、掠っても走れるって相当タフだと思う。
「そうか! これでも鍛えているから………盗賊女ってあたしのこと?」
やっぱり鍛えているんだね。反射神経もかなり良かったし。
「そうだよ、名前は知らないから。それにしてもやっぱり鍛えていたんだね」
盗賊女が頭を抱えている。やはり頭に問題があるのかも……。
「誰が盗賊女だ!!」
あれ? まさか……。
どうやら僕は、やらかしてしまっていたようだ。
「ごめんなさい。男性でしたか……」
「違うわー!!」
え? それなら何も問題ないよね?
「不思議そうな顔をするな! 確かにあたしは盗賊をしていたし、女だけど、盗賊女なんて呼ばれたくないんだよ!」
ふーん。
「どうでもよさそうな顔をするな!!」
「血だらけ疾走女」
「ぶっ殺すぞ!」
「回避上手女」
「センスが悪いんだよ!」
「頭おかしい女」
「それはただの悪口だろうが!!」
いったいどうすればいいんだ。この女、文句が多すぎる! いっそ馬車から捨ててしまおうか。
僕が馬車の外を見ると、盗賊女が怪訝な顔をする。
「お前今、あたしのことを外に捨てようとか思っていなかったか?」
盗賊だし問題はないでしょ。川があったらポイッて捨ててしまおうかな。
「おい! 否定しろよ! 怖いだろうが!」
「アレッサー、近くに川とかないかな? 池や湖でもいいよ」
「水は危ないだろうが! あたしは泳げないんだよ!」
どのみちロープがあるから泳ぐのは無理でしょ。
「川や池はないが、もうすぐ海が見えてくるはずだぞ」
そうだね、次の街は港町だから、魚介類が楽しみだ。
「海の中には魔物はいるのかな?」
「もちろんいるぞ、海の魔物は戦うのが難しいと聞くけどな」
海の魔物か、できれば戦いたくないね。
でももし戦う必要があるなら、やはり釣るのが一番かな。今なら使えそうな餌もあるし。
「おい! なんで今、あたしを見た? あたしを使って何をする気だ?」
盗賊女は意外と勘がいいよね。心を読む系のスキルでも持っているのかな?
「意外な使い道がありそうで良かった。盗賊女さんなら死んでも心が痛まないからね」
「カルロッタだ! 決して盗賊女なんて名前ではない! ってどうして死ぬことが前提なんだよ!? お前らは強いんだから何とかできるだろ!」
いくら強くても、海の中で戦うのは危険だからね。
「ロッタも強いから手伝ってくれるよね」
役割は餌だけど。
「そういうことなら任せろ!」
言質、頂きました。そのときがきたら存分にその言葉に甘えましょう。
「海が見えてきたぞ、もうすぐ街だ!」
海は久しぶりだね。こっちの海は初めてだけど、ちゃんと青くてよかった。大きな船がいくつか浮かんでいるのが見える。
僕達が海を眺めていると、「じゃあな!」と言って、ロープを外したロッタが馬車から飛び出して逃げ出していく。
「あれ? かなりきつく縛ってあったのに……」
さすがは盗賊ってことか、縄抜けとかはお手の物なんだね。ロープを見てみると、切れたり引き千切られたりした形跡はない。意外と侮れないね。
「まだ狙えますが、撃ちますか?」
マノンが撃ちたそうにしているが、逃げるなら放置でいいだろう。
「いや、怪我させるとまた世話をしないといけないから、自然に帰してあげよう」
もう悪い人間には捕まるんじゃないよ。
マノンは残念そうにしているが、あまり関わらないほうがいいと思う。
「マノン、ノヴァージェで美味しいものをいっぱい食べようね。港町だから、他では食べられない食材がいっぱいあるから買い込むよ」
「はい! 魚に貝に海老、楽しみですね!」
きっとマノンも満足するはずだよ。
◇
ノヴァージェに着くと、恒例の宿探しだ。門の近くのよさげな宿を見つけると、入っていく。
ちなみに今回、初日には冒険者ギルドには行かない予定にしている。アレッサが残念そうな顔をしていたが、翌朝1番に行こうと言ったら何故か嬉しそうだった。
宿が無事にとれると観光だ! やはり港町だけあって、海の男的な活気がある。
魚や貝ももちろん売っており、買い占めようとしたが1つ懸念が……。
「委員長は魚ってさばけるの?」
もちろん僕は無理だ。3枚おろしって何? ってレベルです。
「できるわよ、でもあまり難しい魚は無理よ」
さすが委員長。一家に一人は欲しいよね。
「じゃあマノン、どんどん買うよ!」
「はい!」
いろんな店を回り、魚を買っていると、どうやら僕達をつけて来ている人達がいるようだ。
「委員長気がついている?」
「ええ、完全につけられているようね」
ちょっとかっこつけて言ってみたけれど、気がづいたのは委員長の様子が変だったから、そこから察しただけだったりする。
「数は4人だと思うけど、何が目的なんだろうね」
「……気持ち悪いし、話を聞きに行きましょうか」
「うん、3、2、1、ゴー!」
合図と同時につけている連中に向かって走り出す。ストーカー達は、僕達が走ってくるのを見て、慌ててバラバラに走って逃げ始めた。
「速い!?」
思った以上に対応も足も速い。追いかけようかとも思ったが、土地勘のない僕達だと迷子になる可能性が高いので、追うのを止めた。
「トーカ、カレン!」
アレッサとマノンも急に走り出した僕達が気になって、追いかけて来たようだ。
「あの手際のよさ、ただのストーカーではなさそうよね」
「となると、いよいよ国が動き始めたかな……」
もしくは委員長の熱烈なストーカーだったりするかも……。
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