23 ゴブリンの罠
明日23日はお休みします。
翌日、僕達はゴブリンが出る山の麓に来ていた。
「さてアレッサ、今日のリーダーよろしくね」
「うむ、任された」
少し気負っているようだけど、何かあったときのフォローはこっちでするから問題ないだろう。
「さて、今から一気にゴブリン共の巣穴まで突撃する! トーカとカレンは前衛、我とマノンは後衛だ。ゴブリンは見つけ次第殲滅、まずは巣穴を探すぞ!」
「「おー!」」
「ええ……」
うんうん、気合入っているね。
逆に委員長はちょっと落ち込んでいる。 大丈夫かな?
「さ、委員長行くよ。ゴブリン共をやっつけろー」
「はぁ……、あなたは元気よね……」
「委員長は考えすぎなんだよ。それは良い時と悪い時があるから気をつけなよ」
「考えすぎね、そうよね……」
駄目だ、相当昨日の事を引きずっている。
「嫌な気持ちはゴブリンに叩きつけてやればいいよ」
「そうね、それが一番よね……」
委員長の目が獲物を探す獣のようになる。これが人がダークサイドに堕ちる瞬間か……。
冗談はさておき、周囲にはかなりの数のゴブリンがいるのが空間把握で分かる。入ってすぐでこの数は多すぎる、これは300では済まないかもしれない。
「アレッサ、かなりの数のゴブリンが周囲にいるよ」
「では、蹴散らしてしまおう」
おや? それだけ? アレッサも空間把握みたいなスキルで数を把握できているのか? 持っているのかどうかは知らないけど……。
「分かった、じゃあこっちから行くよ」
委員長に場所を教えると、そのままゴブリンに襲い掛かる。
ゴブリン達も委員長の姿を捉えると、慌てて迎撃しようとするが、委員長の勢いに飲まれ、そのまま蛇腹剣に斬り伏せられてしまう。
「見事な強襲だね、ゴブリンに何もさせなかった」
「次に行くわ、どこが近いのかしら?」
本当にゴブリンでストレスを発散するつもりみたいだ。
近くにいるゴブリンを教えていくと、次々とゴブリン達を倒していく。まるで天沢と3人で迷宮に入ってすぐの時のように魔物を倒すことに集中しているようだ。
ゴブリン達も音に気がつき出てくるが、瞬く間に委員長に倒されてしまう。
ただそのせいで、アレッサとマノンが戦うことがなく、呆然としている。さすがにこのまま委員長が倒してしまうと意味がないので止める。
「はーい、委員長はそこまで!」
やっと委員長が、戦いを止める。
「どういうことかしら? まだ序盤よね?」
「うん、でもこのまま委員長1人で終盤までいかれても困るから」
委員長の実力だと、相手がどんな策できても、ほぼ跳ね除けられるから。
「あ……、前にもこんなことがあったわね……」
あったねぇ、ほとんど同じパターンだよ。
「アレッサとマノンのターンが来ないので、委員長は僕より前に出ないでね」
「分かったわ、だいぶスッキリしたもの。もう大丈夫よ」
委員長にとって、魔物はストレス発散の道具なんだね。冒険者は委員長のためにある職業だよね。
委員長の頑張りによって、既に100匹以上は倒している。やはりゴブリンの数は、相当多い。
「アレッサ、ここまでは問題なく来たけど、これからどうする?」
「う、うむ、予定通り突撃して、巣穴探そう」
「了解、じゃあ突撃するから付いて来てね。あと攻撃もよろしく」
戦闘をアレッサとマノンに任せて、僕は最低限の戦闘で済ませよう。
さっきまではゴブリンを狙い突撃していたけど、今度はゴブリンの隙間を進んでいく。
ゴブリンとの距離が少し開くため、離れたゴブリンをアレッサとマノンが攻撃し倒していく。委員長が倒すよりも遅いが、戦闘回数を減らして進んでいるため少し移動が速くなった。
だいたい2人合わせて100匹ほど倒したぐらいで、ゴブリンの巣穴らしき洞窟を見つけた。前にはゴブリン数匹が座り込んでいる。洞窟の入口は僕達でも十分入れるサイズだ。
「本命かどうかは知らないけど、あれは巣穴だよね」
僕が指を指しアレッサの意見を聞く。アレッサも確認すると、うなずく。
「よし、突入しよう!」
お、突入するんだ。
座り込んでいたゴブリン達を倒すと、洞窟に僕と委員長が先に入り、アレッサ達も続く。
中に入ると想像以上に広いことが分かる。進んでいくとゴブリン達にちょくちょく遭遇するが、意外と少ない。
ただ、中のほうには大量にいることが空間把握で分かる。
もしかして罠かも……。
「うーむ、思ったよりも少ないな。ここは巣穴ではないのかもしれない」
「でもゴブリンの気配はします!」
マノンはなんとなく分かっているんだろうな。アレッサはどう判断するんだろ?
「どうする? 引き返す?」
「いちおう奥まで行ってみるか。何かあるかもしれないしな」
お、面白そうな展開になってきたかも。
「分かった、後ろにも気をつけてね」
「任された」
後ろから50匹ほどのゴブリン達に尾行されてるからね。
僕の言葉に委員長が反応する。僕の言葉の意味に気がついたようだ。僕のほうを見て、確認してくる。そして、すぐに後ろに行けるような位置に移動した。
「前方に広い空洞があるよ、どうする?」
「広い空洞? 怪しいな、慎重に進もう」
広い空洞には細い道がいくつかあり、そこにゴブリン達が大量にいて、僕達を待ち構えている。ゴブリンも罠を張るんだね。
「そうだね、ゆっくり進もう」
僕達が空洞の前に着き、中を確認する。ゴブリン達は上手く隠れていて、ここからは見えない。
「どうする、入る?」
「何もないようだな……、あ! あそこに剣が落ちているぞ!」
中に剣が落ちているのを見て、アレッサが中に入る。そしてそのまま剣のところに行こうとするのを委員長に止められる。
「何をしているのかしら?」
「剣が落ちていたから確認に行くところに決まっている」
「はぁ」
委員長が小さくため息をつく。
「罠に決まっているでしょう」
「罠? 剣が落ちているだけではないか」
アレッサが不思議そうな顔をしている。たしかにあの剣そのものに罠はない。でも剣に気を取られていると、一気に襲って来るみたいな展開かな。
「その剣をどうして後衛のあなたが拾いに行くのよ。私か初宮さんが拾いに行けばいいじゃない!」
「リーダーとして確認する義務があるだろ!」
そう言って剣の落ちている場所まで走り、剣を拾い持ち上げる。
「ほら、罠なんてない―――」
拾った剣の刃の部分が「パキッ」っという音と共に、外れて落ちる。
「―――え?」
ガシャーンと刃が落ちた音を合図に、隠れていたゴブリン達がワラワラと現れる。
「なっ!? ゴブリンが隠れていただと!?」
アレッサは慌てて柄だけになった剣を捨て、杖を前に向けるが、既に囲まれているため、どこに向ければいいか分からなくなり、音や声に反応し右や左に杖を向けている。
「委員長とマノンは撤収準備! アレッサを回収次第撤収するよ!」
「分かったわ!」
「はい!」
「アレッサはこの空洞内での魔法は禁止!」
混乱した状態で魔法なんて使われたら誰に当たるか分からない。それなら杖を振り回すほうがましだ。
「で、ですが、このままでは!」
僕はアレッサの黒いローブを掴むと、そのまま委員長のほうに放り投げる。
「キャッ!」
飛んできたアレッサを委員長が受け止めると、立たせてその手を引っ張りマノンと一緒に出口に走る。
「え? ちょっ、トーカがまだ……」
「大丈夫よ! 走って! マノンは進行方向のゴブリンだけを攻撃して、後ろはいいいわ!」
「分かりました!」
◇◇◇
カレンがトーカを置いて走って行く。掴まれた手を必死に離そうとするが、離すことができない。
前からもゴブリンが現れ、マノンとカレンが倒していく。かなりの数のゴブリンがいたが、カレンが魔法と剣を使いあっという間に殲滅する。そしてそのまま私達は、無事に巣穴からの脱出に成功した。
でも、これほどの実力があるのなら逃げずに戦えば、勝つこともできたかもしれない!
「見損ないましたわカレン! トーカを、仲間を見捨てるなんて、そんな人だとは思わなかったわ!」
私が怒っているのにカレンはキョトンとしている。
「アレッサは優しいのね」
カレンはふっと笑うと、今度は苦笑いをする。
「昨日私があなた達がいたからって言ったの覚えているかしら?」
もちろん覚えているわ。私とマノンではソラネに劣っていると言われたことよね。
「ええ、それがどうしたのかしら?」
「あれは、初宮さんがいたからと言う意味なのよ……」
「何を言っているんですか? トーカは今もいるじゃないですか!」
「そうよ、でも彼女が守るべき人数が2人から3人に増えたわけなのよ。だから私はあまり前に出ず、下がってあなた達2人を守ってもらえるようにしたのよ」
「言っている意味が分からないわ……」
「あなたたちになら言ってもいいわよね……。彼女には障壁を出すことが出来るスキルを持っているのだけど、その数は3つだけなの。だからもし私達3人がばらばらに戦えば、私達を優先的に障壁を使用し、自分は使えなくなるのよ」
「あ! たまに相手の攻撃が弾かれるのはそのためだったのですね!」
そのようなスキルが!? そういえば迷宮で悪漢の矢が弾かれたように見えたのは、トーカのスキルのおかげだった訳なのですね。
「だから3人でいたときは遠慮なく戦えたけれど、4人のときはなるべくフォローに回るようにしてるのよ」
「そうでしたのですね……。迷宮で50階層まで行くことができ、盗賊も退治して強くなったつもりでいたけれど、ずっと2人に支えられていたのですね」
きっとトーカが今回、私にリーダーをするように言ったのも、私達の成長を促すためにされたことなのでしょうね。
「カレン、ごめんなさい。そしてありがとう、今まで私達を支えてくれて」
「いいわよ別に……」
そしてトーカにもお礼を言わないといけないですわね。
「カレン、トーカを助けに行きましょう! 私達では力不足かもしれませんが、トーカを見捨てるような真似はできません!」
「必要ないわよ、だからここで待っているんじゃない」
待っている? 確かに逃げるなら村まで帰ればいいのに巣穴の前にいるのはおかしな話ね。
「トーカは無事に戻って来るのですか?」
「ええ、彼女が負けるなんてありえないわよ」
カレンの顔には一切の曇りはなく、戻ってくると信じきっている顔をしている。
「うむ、では我もトーカを信じて待とう!」
「私も信じてます! トーカは強いですから!」
「うん、僕も信じてるかな。トーカは主人公になれる存在だと!」
え? 後ろを振り向くと、トーカが無事な姿で立っている。
「趣味が悪いわよ……」
本当にまったく……、カレンが心配しないわけだ。
「まぁ、トーカだからな……」
「アレッサ、分かってきたじゃない」
「え? ちょっと?」
「今のはトーカが悪いです!」
まったくよ。
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