55.危険物取り扱い
「お兄さん駄目です!」
「《ポコポーン》は退治しちゃだめなのー」
「コロナさん、それでは力を入れすぎです! また殺しちゃいますよ!!」
現在全否定されている俺ことコロナ・パディーフィールド。
民都プロンティアからほどなく離れたところにある森――《渓谷森》にいる。
オフ会を開いたつもりが、森に来てビッグなキチンと戯れることになったでござる。
何があったかわから……止めよう二度ネタはイケナイ。
自制できる程度には混乱はしていないと思う。
なぜこのようになったかというと、あれは――――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
日が昇り始める頃になると、俺たちは《ポコポーン》がいるとされる森にたどり着いていた。
その森はどこも変哲のない普通の森のように感じられた。
レイリア達の話によると、《ポコポーン》は世界各地の深い森ならどこにでも生息しているらしい。
それ故美味しい卵が、それなりにリーズナブルで提供できるらしい……。
しばらく森の中を歩いていると、ちらほらと卵が落ちているのに気付き、それを回収する。
ときどき同業者らしき姿も見かけた。
特に挨拶などすることもなく、皆卵拾いに夢中で、それどころではないらしい。
ちなみに、このような時間にやって来たのは訳がある。
鶏と同じく卵を産むのは早朝だからだ。
だからといって、必ずしも鶏と生態が一緒という訳ではないらしい。
鶏みたいに卵を作るのに25時間掛かり、1個以上は無理――というわけではない。
《ポコポーン》は身体が重くなると排出するらしい。
この魔獣は危険はなく、無防備に近づいても問題はない。
何もしなければ襲い掛かってくることはない。
そういうタイプの魔獣は珍しく、例外中の例外らしい。
これは魔獣専門の学者が色々調べた結果により判明したことだ。
コロナとしては、習性なのだからわざわざ研究するようなことかと疑問を抱いた。
そもそも、研究といっても推測の域をでないようでは意味がないのだから。
卵を排出した《ポコポーン》だが、その体内にはまだ――卵が残されているらしい。
無理矢理排出させた卵の方が、朝産んだ――《ポコポーン》からすると捨てた――卵よりも美味しいのだ。
そういうわけで、一通り落ちている卵を収納道具に回収したあと、体内に残っている物を手に入れようということになったのだ。
プリンの亡者たる少女達はソレを手に入れないなんてとんでもないと、必死で主張したからだ。
そして冒頭に戻るわけだが――――
俺は自分と同じくらいの背丈のある鳥――《ポコポーン》を右腕で抱え、左手で腹パンをしていた。
ちょっとしたことくらいでは反応を示さない。
のんびり気質の鳥な為、抱える程度ではまったく問題ない。
なかったのだが――
どうやらパンチの威力が強いらしい……。
卵を排出する以前に、この鳥を殺してしまい兼ねない威力だったようだ。
聞いた話によると――
下手なちょっかいを加えた《ポコポーン》は、鳴き声で周囲にいる仲間を呼び集め、攻撃してくるようになるらしい。
対処法としては、ほどよい強さで攻撃する必要がある。
鳴き声を出せないくらい強く、そして体内の卵を傷つけない程度の強さ。
これはなかなかに難しい。
ボディーブローというのは角度とか色々問われるものだ。
レバー狙いとか他にもある。
詳しくはWEBで――――……という訳にもいかない状況だ。
現在3匹目。
他2匹もお察しの通り。
上手くいくなんてことはなかった。
1匹目はぶっちゃけ殺してしまった。
強くやって問題ないと言われたので、調子に乗った。
後悔はしていない。
――――思いっきりやったら拳の一撃でダウンさ、フッ……。
どうやら彼女達の想定以上のIRYOKUがでてしまったらしいな。
結構グロテスクなことになってしまった。
つまり、何が言いたいかというと――詳しい描写は控えさせて貰いたい。
2匹目は――これもまぁグロテスクといえばそうなんだが……。
内臓破裂なんてことはない。
単にKOしてしまったということくらいだ。
当然体内の卵は全て割れてしまった。
鳥のケツ当たりから、粘っこいものと、黄色い物が混ざり合ったものが垂れ流しになってしまった。
――――ばっちいことこの上ない。
本来は殺してしまうのは駄目なことらしい。
そもそもはぎ取れる物は何もないためする者もいない。
俺はあのふさふさな羽毛とか使えるんじゃないかと思っていた。
しかし、すぐに腐敗するらしい。
収納道具――ダンジョンの魔物とは違い証に入らない――で持って帰っても、加工する前に腐り落ちてしまうらしいのだ。
何より、卵を産むようになるまでに数年の月日が掛かる。
それとどういうわけか、一つの森には一定以上増えない。
しかし、産み落としている卵は有精卵ではない。
そもそも有精夢精の違いなどないのだ。
なぜなら雄雌の違いなどなく、両性というわけでもない。
死んだ個体が確認されるなり、拾われずに残ってた卵のどれかが孵化することになる。
一応、森で卵を採取するモノの決まりがある。
帰るときに一つ卵を置いていくというものがある。
これはこの世界の住民ならではの智慧だろう。
もしかしたら絶滅危惧種だった時があるのかもしれないな。
それと孵化しなかった卵は、どこかに消えてしまうらしい。
孵化の謎と合わせて、異世界ならではの不思議パワーが働いているのだろう。
が……今はどうでもいいことだろう。
そんな訳で、1匹目やってしまった後は、当然速攻で逃げ出した。
女の子よりも先に逃げるのは、格好が悪い。
先に逃げるように促したのは英断だったと、自分を褒めたい。
逃走しているときに、同業者に回り込まれるようなことはなかった。
それひと安心し、呼吸を整えていく。
それから少しして、2匹目に取りかかったわけなんだが……。
見事にKOしてしまったってわけよ。
《ポコポーン》はなんとか無事だった。
また逃げなきゃいけないと思ったから、助かったぜ。
そいつは【ヒール】を掛けて、放置することにした。
バレなきゃ問題ない!
うむ良い言葉だ。実に素晴らしい。
逃げ回っていた時も、当然卵は回収している。
少女達は実にたくましい。ちゃっかりしているのである。
少女達のスイーツに馳せる情熱は執念そのものだ。
そして3匹目――
過去の経験を糧にする俺は、さらに威力を抑え一撃をかました。
だがそれでもまだまだ足りなかったらしい。
下手に攻撃されるのは勘弁願いたい。
「コロナさん! 威力よりも角度とえぐるにやるんですよ」
「ねじればいい……」
「せめて身長がもうちょいあったら私がやったのに……」
「ふぅ、諦めるという選択肢もありそうですわね」
俺以外の――少女たちの誰かがやればいい、という訳にはいかない理由がある。
そう、身長が足りないのだ!
彼女達の身長でも腹パンはできる。
しかし、抑えておくことができないの。
それでは威力が足りない。
それでは《ポコポーン》を集めてしまう可能性が高い。
ならば複数で押さえつければいい――と思うかもしれない。
だがそういうわけにはいかない。
《ポコポーン》は習性があるのだ。
数人で囲むと威圧感を感じ鳴き声を上げてしまうのだ。
そうなっては、周囲から《ポコポーン》の群れがやってくる。
だからこそ、不器用な俺が何度もやっている……という状況だったのだ。
「なぁ、これ押さえつける必要ないんじゃないか?
俺が殴れば抑えなくても十分な威力出るだろ?」
「……やってみる価値はある――とでも言うと思いましたか?」
「お兄さんがやったら飛び上がってしまいますわ。
たとえ――卵が排出されたとしても、宙で排出されれば、落ちて割れてしまいます」
「あ……」
「ふぅ」
最後のカメリアのため息は、
『やれやれこんなこともわからねーのかよ』
と口にはしなかったが、そういう感情が込められていただろう。
彼女達の視線に耐えきれず、コロナは八つ当たりをする。
――当然その対象は、《ポコポーン》だ!
一撃の威力をさらに落とし、連打する。
ぬいぐるみを殴ってストレス解消するアニメのシーンとかあるが、気持ちがよくわかるぜぇ。
なにやら、「ぷぎゃ」とか「ゴギャ」とか鳥が鳴いている――が、気にしない。
今の俺は無心。心などないと書く。
つまり《ポコポーン》の痛みなど知ったことないのだ。
煩悩からも解放されて、ただ、ただその腹の感触を楽しむ。
「あ…あぁ……《ポコポーン》が集まってきちゃいますよ!!」
「レイリアもう駄目だ! 退避するぞ」
「お兄さん、逃げますよ!」
「あん? この程度なら別に逃げなくても、倒しちゃえばいいだけの話だろ」
「際限なく集まってくるんですよ! それ全部倒しちゃったら絶滅しちゃうじゃないですか!!」
「それにこうなった《ポコポーン》倒したら犯罪」
相変わらずナンシーはクールだ……。
だが、犯罪となるとこの状況はいただけないな。
「フッ……なら俺に任せて先に行け」
――――言ってみたかった、ただそれだけ。
言ってみたい台詞はこういうときに使うべきなのだ!
相手は雑魚?
様にならない?
放っておいてくれ。
余裕があるときじゃないとできないじゃないか。
そして少女達がこの場から離れると、俺はこれからのことに集中することにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
私たちは、今朝入った入り口から少し離れたところまで戻ることにした。
逃げながらもその事をコロナさんにも伝えておいたので、いずれ合流できることでしょう。
コロナさんの言われるままに、私たちは彼をおいてきてしまった。
心配ではありますが――何もコロナさんの無事についての心配というわけではありません。
彼はつい……で《ポコポーン》を殺めてしまいかねない。
――――すごく心配です。
「お兄さんってやっぱり強かったんですね」
「あぁ、噂に偽りなしって感じだな。まさか《ポコポーン》を一撃とは、な」
「でも《ポコポーン》は倒しちゃダメ」
「そうですね。ですが、本来なら撲殺なんてできるものじゃないんですけど……ね」
友達のカミナ、ナンシー、カメリアも彼のことを心配しているという様子は見受けられない。
むしろコロナさんの非常識振りに呆れているようだ。
そもそも《ポコポーン》を素手で倒してしまうということあり得ない。
スキル【拳撃】を使っていたと考えられます。
しかし、手が魔力光を放っていなかった。
そのことからして――【拳撃】ではないのでしょう。
そうなると私が知らないスキルを使っていただけなのでしょうね。
でも、もしかすると【体術の心得】だけ――という可能性も考えられます。
私が思ったとおりの《選ばれし者》だとしたならば、相当なパラメータになっているでしょう。
普通、数値通りの動きができるようになるだけの【体術の心得】程度では、あり得ないことなのですが……。
そのパラメータが高ければできない――とは言い切れない。
悩んでも仕方がないことでしょうね。
どのような方法かは知りませんが、彼にはそれができてしまった……という事実があるわけですし。
ここでの問題は彼が凄いということではなく、彼によって――
「しかし、つっかえねーにーちゃんだったよな。《ポコポーン》知らないって時点であまり期待はしてなかったけど……」
「そういうこというものではありませんよ。彼が居なかったら収納道具に入っているこれも手にはいらなかったのですから」
「……でも新鮮な卵も欲しかったのも確か」
――期待してた所で、役に立たなかったという点でしょうかね。
そんな感じで驚きから、愚痴に変わってしまう。
しかし、それも何時までも続くわけではない。
次第に会話も世間話のようなものになり始めた。
そんな時、コロナさんがやってきました。
余所通り――というべきでしょうか。
恐ろしいことに、ケガをしてるような様子は一切ない。
むしろ何やらテンションが高いようにみえます。
そして、小走りで私たちの元に駆けてくると――――
「じゃーん。これなんだ?」
といたずらが成功したかのような顔で、私たちが望む物を見せつけたのでした。




