364. 見えざる代償
新雪に輝く学院の校庭。
人気も皆無な広々とした白銀の大地を前に、流護、ミア、リーフィア、ロック博士が並んでいる。
「で、ではリーフィア・ウィンドフォール、『加護の初め』にとりかからせていただきますっ……!」
気合充分、一歩前に進み出た小さな風の少女が、覚悟を決めたように頷いた。
「うぅ~ん! そんなに気負わなくても大丈夫だからねぇ~、リーフィアちゅわぁ~ん」
猫撫で声などという表現では許されない、身の毛もよだつ汚声であった。その発生源たるロック博士に対し、
「スタアァーッップ!」
兵としての権を持つ流護はノータイムで躍りかかった。
「いだだだだだ! ちょ、ちょっと! いきなり何をするのさ、流護クン!? いだだだだ! お、折れる! 折れる!」
「リ、リューゴくん!? ロック博士の腕がすごいことに! なにそれどうなってるの!?」
「リっ、リ、リューゴさんっ……! 博士が痛がってます! や、やめてくださいっ」
「はっ!?」
三人の抗議を受けて我に返った流護は、博士に仕掛けていたチキンウィングアームロックを解いた。
「しっ、新年早々、腕が粉砕するかと思ったよ……。な、何のつもりだい、流護クン……」
肩を押さえつつ息も絶え絶えでメガネを直す白衣の男に、流護は困惑しながら頭を下げた。
「いや……博士の声があまりにも不審者チックだったので、遊撃兵として衝動的に取り押さえてしまったというか……」
「それはまた、年明け早々仕事熱心なことで結構だね……。ただ、濡れ衣は勘弁してよ」
「濡れ、衣……?」
「なんで心外そうな顔してるのさ! ひどい濡れ衣だよ! ボクは、限りなく純粋な保護者の目線でリーフィアちゃんを見てるんだからね!」
男二人のアホなやり取りに苦笑いしつつ、少女たちは今年最初の神詠術を発動し、『加護の初め』の儀に取りかかった。ミアの放つ白雷が薄い積雪を溶かし、リーフィアの纏う風が粉雪を舞い上げる。
そんな光景を眺めながら、ロック博士は眩しげに目を細めていた。
「性的な目で見てますか?」
「見てないよ! 全く、キミはボクを何だと……」
答えながら、博士は白衣の懐からタバコを取り出した。が、続けて引っ張り出そうとしたマッチ箱が滑り落ち、雪の上にトサリと落ちてしまう。
「あ、拾いますよ」
濡れ衣(自己申告)の詫びも兼ねて流護が拾い上げるが、
「サンキュー流護クン……っと、濡れちゃったか……」
湿った雪に触れ、箱の側面にある摩擦部分(ロック博士に聞いた話では、側薬や横薬と呼ぶらしい)がびちゃびちゃになってしまっていた。
「おっと、ここは俺にお任せを」
得意げに頷いた流護は、箱からマッチを一本取り出して、
「よっと」
握りしめた自分の拳の表面に、素早く先端部をかすらせた。一拍遅れる形で、小さな火種が燃え上がる。現代日本で用いられているものとは違う材質のマッチだからこそできる芸当だ。
「どぞ、ボス」
「おお、ブラボー。『拳撃』の異名は伊達じゃないね。そういえば、古いアメリカ映画とかであったっけなあ、ジーンズやブーツの底で点けるやり方。憧れたっけ」
流護が舎弟よろしく差し出したマッチで、博士はようやくタバコの点火を終える。
「ふー……。流護クンはさ。神詠術って力を、どう思う?」
満足そうに煙を吐きながら、研究者は思い出したようにそんなことを問いかけてきた。
「え? どう、って……。そりゃまたなんつーか、いきなり……漠然としてますね」
目の前では、ミアやリーフィアが今まさにその神詠術を行使している。人の意思に従って迸る稲妻、巻き起こる旋風。
流護としても、今となってはすっかり見慣れてしまった異世界の力。それでいて、自分にはないもの。
「そっすね……。やっぱ、『強い』っすよね」
「ふむ。流護クンらしい意見だねえ」
ミアやリーフィアのように身体の小さな女子であっても、大の男に抗し得る力。この世界では、力自慢の大男というだけでは強者になり得ない。
「他にはどうだい?」
「む……そうやって訊いてくるってことは、博士の期待する答えじゃなかったってことか。そーだなあ」
戦闘から離れてみても、その異能の存在というものはやはり大きい。
例えば――ベルグレッテが喚び出した水を使って織物を絞ったり、ミアが雷の力で携帯電話の充電を可能としたり、レノーレが夏場に氷の塊を作り出して涼んでいたり、エドヴィンが炎で楽々とゴミを焼やしていたり。
今現在、魂心力の結晶を得たことによって開発が進められている封術道具にしても同じこと。それらが目指すところは結局、より生活を楽にするため。利便性の向上だ。
つまり、
「えーと……『便利』、とか?」
「そう、その通り!」
正解だったようで、神詠術研究の第一人者は大きく首肯する。
「例えばボクは表向きには炎属性の使い手ってことになってるけど、本当に術が扱えれば、タバコに火をつけるのも楽チンだ。こんな風にわざわざ、マッチを持ち歩く必要もない」
「まあ、確かに」
「これから封術具の開発が進んでいけば、今とは比較にもならないほど快適に過ごせる日々がやってくるだろうね。きっと、その未来はそう遠くない」
考えるまでもない。それは、間違いなくいいことだ。
だからこそ、流護は気がかりだった。博士が、どことなく浮かない顔をしていることが。
「例えばだよ。車は便利だけど、走ればガソリンを使うし、排気ガスも出す」
「はあ」
「産業が発展して人の生活は豊かになったけど、その代わり環境問題が叫ばれるようになったよね。ボクは十五年前の事情しか知らないけど、最近はどうなってるのかな?」
「そう、っすね。温暖化がどうとか、それで海面の高さが上がってどっかの島が沈みそうみたいな話とか、聞いたことありますけど……」
「ふむ……何だかんだ、今もそんなには変わらないのかな」
懐かしむような目をしつつも、博士は続ける。
「必ず、とまでは言わないけど……快適さや便利さの裏側では大概、それに見合った代償を支払わされることになるものだ――と、ボクは考えてる」
何事も等価交換。
それはこの世界でも同じではなかろうか、と。
楽しげに戯れる異世界の少女ふたりを眺めながら、研究者は核心に触れた。
「ずっと心の片隅で思ってたのさ。神詠術っていう、このとてつもなく便利な力。これを使うことによって、人は代償を支払わなくていいのだろうか、と」
神詠術というこの異能には、リスクがなさすぎる。
その力を研究する専門家は、そう指摘するのだ。
しばしの沈思を経て、流護がおずおずと口を開く。
「いや、でも……神詠術使う場合、魂心力を消費してますよね。詠唱にも集中力がいるみたいだし……」
「普通の人はそうだね」
博士の目線を追って、流護はハッとする。
『加護の初め』が終わり、いつしか雪で遊んでいる少女二人。そのうちの片方、リーフィアの姿を見て。
「そう。『ペンタ』の保有する魂心力は無尽蔵とも言われている。基本的には詠唱も必要ない。もちろん使い続ければ体力は消耗するけど、それはボクらが歩き続ければ疲れてしまうのと同じ理屈の話だ。神詠術の規模を考えたなら、とても代償と呼べるようなものじゃない」
「……、」
「『ペンタ』でなくとも本質は同じさ」
博士は指摘する。
「この世界の人々は神詠術の行使に当たって、魂心力という名のガソリンを消費する必要こそあるものの、排気ガスに相当する何かを放出していないんだ」
「……」
「これからボクらが作ろうとしてる封術道具にしても同じ。研究が進めば、きっと地球にあるものに負けないぐらい便利な代物も生まれるだろう。今のところ、有限な資源を消費する必要もない見込みだ。けど……本当に何の対価も支払うことなく、その利便性だけを享受し続けられるものなのか? そんな都合のいい話があるんだろうか? ボクはそんな風に考えてしまう」
「でも……それならそれで、いいんじゃないすか? リスクがないなら、それに越したことないと思うし」
「うん。ボクもそう思うよ。本当にそうなら、何も問題はない」
同意しておきながら、博士の表情は硬い。
その理由は、すぐに語られた。
「ここでボクが怖いと思うのは、『知らない間にリスクを背負わされていたら』ってことなんだ」
「? 詳しく」
すぐに理解できなかった流護は、眉根を寄せて問い返す。
博士は今一度言った。
「つまり……誰も気付いてないだけで、神詠術を使うことによるリスクは生じてるのかもしれない。皆の自覚がないだけで、知らない間に代償を支払ってるのかもしれない、ってことさ」
便利な暮らしをしている裏で、環境汚染が進んでいる。しかし、誰もその事実に気付いていない。
「そのリスクが目に見えないような、無視できるような小規模のものならいいんだけどね。でも……神詠術の利便性を考えると、ボクはどうしても大きな何かを想像してしまう」
いつか、その多大なツケを支払わされる日がやってくるかもしれない。
そんな話だった。
「流護クンも知っての通り、レインディールと周辺国では大陸暦と呼ばれる年号が採用されている。まさに今日、これが七八二年になったワケだけど……およそ八百年なんて、惑星や宇宙規模で見れば一瞬さ」
「はあ」
「原初の溟渤でボクが倒れた遺跡は千年以上前のものと推定されたし、『暗き森と、最初のふたり』っていう有名な童話があるんだけど、これも千年以上前に綴られたって説がある。各地の遺跡なんかじゃ、数千年は下らないんじゃないかっていう出土品も見つかってるみたいだよ。大陸暦以前に、旧時代と呼ばれる謎の時代があったんだ」
「まあ、地球にも紀元前とかありますしね」
この世界の人類史について流護は知るべくもないが、年号が定まる以前にも人は存在していただろう。
「うん。ただ紀元前と違って、この世界の旧時代についての情報はほとんど残っていないんだ。皆無、と言っていい。どんな国や人がいて、どんな文明が存在していたのか。そういった話の一切が今に残されていない」
「そうなんすか。まあ、確かに聞いたことないけど」
「……例えばだよ。旧時代の人たちに、何か大きな厄災が降りかかったのだとしたら?」
「…………」
約八百年前。後世に何も残せなくなるほどのものが、人々を襲った。
「それが……『代償』……ってことっすか?」
「いや、あくまでボクの勝手な想像さ。旧時代の人々は皆面倒くさがりで、口伝や文献を残さなかっただけかもしれない。ただ、不自然な空白があることは確かなんだ。五百年前のガイセリウスの逸話なんかは星の数ほど溢れているのに、そのさらに三百年前のことについては誰も知らないんだ」
「…………」
「ボクはこの世界へやってきて、歴史や文化をある程度学んだ際に不思議に思ったんだよ。人数が少なすぎるんじゃないか、ってね」
「人数?」
「レインディールの総人口はおよそ三十二万人。大国と呼ばれるレフェで七十万。西のお隣、バルクフォルトは二十六万。他の周辺国もおおよそ五万から十万ってところだけど……どうかな。いずれもひとつの国家の総人口としては、少なすぎると思わないかい? 推定数千年以上の人類史があるなら、尚更」
「…………」
普段暮らしていると、国家の総人口だの何だのなんてものは意識すらしない。
「この一帯全ての人口を合わせても百五十万人強。怨魔なんていう人類を目の敵にしてる危険生物が跋扈してはいるけど、歴史の長さの割にちょっと少ないんじゃないかなとボクは思うんだ」
つまり何らかの大きな厄災によって、人類の数は激減したのではないか。
神の加護として、皆が疑うことなく当たり前のように使い続けている神詠術。
しかしそれにより、誰も知らないところで負の代償が……排気ガスのような何かが少しずつ溜まっていく。ゆっくりと、何百年もの時間をかけて。
そしてある日、それらは許容量を越えて――
「いやー……おっかないこと言わんでくださいよ。どーしょもないじゃないですか、そんなの」
「ははは。飽くまで仮説、というより妄想だよ。ちょっと意味ありげに語りすぎちゃったかな。飽くまで与太話さ。八百年前に何かがあったのは確かだと思うけど、順当に考えるなら大規模な天変地異が起こったか、疫病が蔓延したか……。それとも何か理由があって、後世に歴史を伝えなかったか。人口についてだって、たまたまこの大陸が少ないだけかもしれない。ボクらが知らないような遠方では、莫大な数の人々が普通に暮らしてる可能性もあるよね」
「えー? なんすか。結局んとこ、こじつけってことすか」
「そうさ。色んな角度からこじつけて、新しい発見を探す。そういう人種だもの、ボクらは」
そう笑って、博士はさも美味げにタバコの煙を吐き出した。
ともあれ現代日本でも研究職に就いていた者の一人としては、『何の代償も負わず、際限なく使い続けられる力』というものに、どうしても据わりの悪さを感じてしまうようだった。
そんな岩波輝元教授の講座が閉会したところで、雪遊びをしていたリーフィアがこちらへ駆け寄ってくるのが見えた。白い息を切らせながら、足場の悪い雪の大地を一生懸命踏みしめる姿が実にたどたどしく愛らしい。
「どぉぅ~したんだぁい、リーフィアちゅわ~ん?」
その瞬間の岩波輝に今しがたの識者としての面影など微塵も残ってはおらず、発せられた汚声は下劣な性犯罪者のそれを彷彿とさせた。
「博士はそのクッソ汚い声出すたんびに、俺に『代償』を支払ってくれませんか。慰謝料として」
「キミに言ってないんだけど!?」
そんな二人の前までやってきた『ペンタ』の少女は、顔のすぐ脇にゆらゆらと揺らめく波紋を展開させていた。その維持も一生懸命、といった様子が微笑ましいが、どうやら誰かと通信術を繋いでいる最中らしい。
「あ、あのっ……リューゴさんっ。陛下がお呼びですっ」
「え、って王様? 俺に?」
自分の顔を指差す流護が尋ねれば、少女は「はいっ」と頷く。新年早々、意外な相手からの指名というべきか。
「えーと、こちら流護ですけどー……」
リーフィアが維持する神詠術の波に呼びかけると、
『うむ、リューゴか。アルディアだ。新な年を迎えたが、今年もよろしく頼む』
確かに、今や聞き慣れた王の太い声が流れてきた。
『此年においても、汝に神の加護があらんことを』
神聖な詩の一節を謳うがごとく厳かな王の挨拶に対し、
「おはようございます、陛下。此年も、偉大なる我らの王に神々のお導きがありますよう」
ロック博士がさらりと対応する。リーフィアは、すぐ隣で手を合わせながら目を閉じていた。
『うむ、ロックウェーブも一緒か。二人とも、今年もよろしく頼むぜぇ』
「はっ。僭越ながらこのロックウェーブ、陛下のご期待に添えるべく全力を尽くす所存です」
さすがに、この世界での生活が長い博士は慣れたものだ。
「あ、えーと……、よろしくお願いしまっす……」
一方でグリムクロウズ歴一年目の流護はというと、異世界向けの挨拶もおぼつかない。
『がははは! 無理はせんでいいぞ。「ニホン」だと、新しい年の挨拶ってのはどんな風なんだ?』
「え? そうっすね……明けましておめでとう、とか言うんですけど……」
『ふうむ、そうか。不勉強ですまんが……アケマシテおめでとう、リューゴ。今年もよろしくな』
相も変わらず柔軟な対応のできる王だった。
己の国や信奉する教義こそが絶対、それ以外は格下もしくは認めない――といった考え方を持つ者が少なくないこの世界。他者の思想やしきたりを尊重できるこの人物は、そういった面でも他の為政者たちと一線を画す。
例えばアルディア王は『焔武王』という二つ名を持つが、これは元々レフェで呼ばれていた渾名なのだそうだ。
かの国との交流が深まった折、友好を示す意思表示の一つとして、王はこの俗称を自らの二つ名に改めたのだという。
もちろん、他国で使われているただの通称を名誉ある二つ名とすることに異義を唱える側近も多かったようだが、そこはこの巨王。我を通した結果、レフェからは豪気な支配者だとして一目置かれることとなっている。今年もまた、この大きな主君は我が道を思うままに突き進むのだろう。
『それでな、リューゴよ。新たな年の幕開け早々に連絡させてもらったのは、他でもない。アヤカのことについてだ』
「!」
意味はないと分かっていても、流護は思わず通信の波紋を凝視した。
『レフェのカイエル爺さん……国長が未だ臥せっとるのは、お主も知っての通りだな』
「ええ、はい」
レフェの王とも呼ぶべき人物、国長カイエル。
そんな超重要人物が倒れてしまったのは、去年の夏――流護も出場した天轟闘宴が終わってすぐのこと。
元々高齢なため復帰の目処もまるで立っておらず、次期国長となる候補を決めておかなければならない。のだが、意思決定機関であった『千年議会』が半壊した影響もあり、そちらも進展なし。
この国長について、流護個人としては面識のない人物であるものの、人となりは桜枝里から聞いている。
普段は押しも弱く一国の主としては少々頼りない印象の老人のようだが、不甲斐ない『千年議会』の面々を一喝したり、『無極の庭』へのドゥエン・アケローン投入を独断で決定したりと、時に大胆な行動に打って出ることのできる人物でもあるのだとか。
ダイゴスの話では、桜枝里のことは孫娘のように気に入っていたという。
『でな。カイエル爺さんについて、いよいよレフェの医療じゃお手上げだって判断になってな。未だ目覚めんドゥエン・アケローンの件もある。それで遠い東の国から、優秀な医者を呼ぶ運びになったんだそうだ』
「そうなんすか。あ! もしかして……」
『うむ。その医者ならば、アヤカの目覚めの手助けになるやもしれんと思ってな』
現状、彩花についてはまるで打つ手なし。流護としては、まさに藁にもすがりたい状態といえる。
「呼べるんなら、何とかお願いしたいですけど……!」
『ふむ。ではその医者には、レフェの後でウチにも寄ってもらうとするか。手配しておくとしよう』
「そ、そうしてもらえると助かります……!」
こういうとき、この王の即断即決ぶりというものは実に頼もしかった。
「東の医者、ですか。レフェよりも更に東となると、シックァルタあたりの人でしょうかねぇ」
興味深げにロック博士が呟けば、
『もっと東だとよ。ワーガータブの者だそうだ』
「へぇー、ワーガータブときましたか。そりゃすごい。さすがに……ちらっと国の名前を聞いたことがある程度ですねえ」
『うむ、俺もだ。どんな国なのかは全く知らん』
がはは、と王が豪快に笑う。
流護自身、聞いたことのない国名だった。レインディールで用いられている地図にも載っていた覚えはない。となれば、まるで交わりのない遠い異国ということになる。
『ただ、この医者ってのがレフェの一部の間では知られた者らしくてな。過去に世話になったこともあるそうだ』
ほう、と博士が関心したように相槌を打つ。
「そうなんですか。レフェは天轟闘宴でまとめてケガ人の面倒を見たりもしてますし、医療技術については結構な水準だと思ってましたが……あの国にそこまで頼られるとなると、さぞ凄腕のお医者さんなんでしょうねえ。シャロム君が興味を持ちそうだ」
『うむ。せっかく招待するんだ、俺らとしても勉強させてもらいたいもんだな。で、俺もその医者の名前だけは事前に聞いたんだが……あー、なんつったか……』
ややあって、そうだ思い出したぞ、と王が膝を叩いたらしき音が響く。
『通称、「薬師」。名を、ソラタ・ホズミというそうだ』




