B. 箱庭デ、幸福ヲ願ッタ少女
◇
「私は……やっぱり帰ることにします!」
「…………」
「えーなんで!?《シラルトン》、そんなに気に入らなかった……?」
「ううん、すごく素敵だと思う。魔法も、夢も、なんでも揃う……けど、私にはそれよりも大切な人がいるんです」
そのまま続けて言う。
「地球はつまんないし、理不尽で大っ嫌いだけど、ミライちゃんがいてくれるなら私はそっちの方が楽園に思えるって、気付きました」
「……リスクの事も言ったよね……?私にも、何が起こるかわからない。前はもしかしたら死ぬって言ったけど、それがどのくらいの確率かもわからなくって、すごく危ないんだよ!?」
「それでも……!私はミライちゃんと生きたいんです!だってあそこで私を救ってくれたのは、他の誰でもない、ミライちゃんだったから……」
「…………」
「…………」
私はイヴの両の目をしっかりと見ながら、はっきりとそう言う。
………………
沈黙が流れる。これでよかったのだろうか?
何を言われるかわからない。
不安だ。
だけど……きっと間違いじゃない。
「あなたの選択を、誰かが責めることなんてできないよ。例えそれが、神の私だとしてもね……少し悲しいけど、カコちゃんが本気でそれを望むなら私は止めない」
「……!それって……!」
「さよならだね。ははは、ちょっと悲しいかな」
もしかしたら否定されるんじゃないかとも思ったが、案外あっさりと許してくれた。でも、その目は、その顔は笑っているはずなのに、どこか哀愁を漂わせた、悲しい顔だった。
「帰る前の最後の時間、いる?待つよ」
「ううん、できれば今から行きたいです。……この決意が薄まる前に」
「わかった。ちょっと待ってね……魔法をかけてあげる」
イヴはそう言うと近付いてきて、私をぎゅっと抱きしめた。それに対して、私も抱き返す。すると、私の周りに淡い光が纏わり付いた後、ゆっくりと離れた。
「私にできる事はこのくらいだからさ……ごめんなさい、変だなぁ……ここじゃ、悲しい事なんてないはずなのに……」
気付けばイヴの顔には涙が流れていた。笑ったままだけど、幸福の神だけれど、そんな幸福の中でさえ、悲しみはあったんだ。
「でも最後くらい、敬語は使って欲しくないかな……」
「……そうだね」
涙声の中、イヴはもう一度私を抱きしめる。今度は魔法をかけていなかったけれど、すごく暖かい気がして、思わず私の視界までぼやけてしまう。
……悲しい静寂を破ったのは、イマさんの声だった。
「カコちゃん……今までありがとう」
「え?」
「私はこれまで……いや、こんな話最後にすることでもないわね──せめて、最後は笑顔で見送らせてちょうだい。貴女は私の親友よ」
……イマさんもだ。泣いている。
私が行く事を、ここから消える事を選んだから……
でももう決めたんだ。この決意は揺るぎない。
それを分かってくれているから、イマさんもイヴも、私を止めようとはしない。
「ありがとう、二人とも……私も、二人が大好きだよ!」
─────────
「今、ゲートを創ったよ。ここから真っ直ぐ行けば、地球に戻れると思う。ただ、時間軸まではわからなかったから……もしかしたら、カコがここに来るよりもちょっと前に戻ることになるかも」
イヴは魔法で大きな扉を創った後、ゆっくりとそれを開けた。
「ただ、もし迷ったり、少しでも道を逸れたりしたら危ないから、本当に本当に気をつけて行ってね!」
イヴはそう言って私の両手を握る……と、そこにまた魔法をかけたのか、手の部分だけ少し光が強くなった。
「うん。ありがとう」
「それじゃあ……」
「「行ってらっしゃい」」
二人が口を合わせて行ってくれた台詞に
「…………行ってきます!」
笑顔でそう返して身を翻し…………足を進める。
「ミライに、よろしく伝えといて」
去り際に聞こえたイヴの言葉に反応しようと振り返ったら……もう入り口は消えていた。
(…………)
行こう。
……熱い……
燃えているの?
痛い……
これが、リスク?
……イヴが、イマさんが、応援してくれたんだ。負けるもんか。
絶対に帰ってやる……
私は、幸せになるんだ…!
──────────
「……行っちゃったね」
「…………」
「無事に戻れると良いなぁ」
「……イヴ、私はこれから、城を出る事にするわ。やりたい事が見つかったの」
「そっか。それじゃあお城、静かになっちゃうなぁ」
「ふふ……私に対しては悲しんでくれないのね」
「……イマには、また会えるからね……」
─────────
………………………………………
どのくらい歩いたかな……………
………………………
わからないけど、信じて進まなきゃ
帰るんだから……
……………
身体が熱い……けど、私はしっかり進んでるはず。
信じよう、みんなを、私自身を。
…………
どのくらい歩いたんだろう……
もう何日も光を見てない気がする。
途方もない……真っ暗だ。
もう、どこから来て、どこに行くのかもわかんなく…………
身体中が灼けるように痛い。魔法がほぼ切れかけてるのか、もうほとんど何も見えない。
あれ?ここ、どこ?
『カコちゃん!』
……!
あっちだ。
「み、ら、、ィ、チャ…………」
もう、気力だけで歩いていた。身体はもう動けないくらいボロボロになってる。
でも、確かに聞こえた。私を呼ぶ声、私が求め続けた声。
──────────
◆
ドグチュッ
久々に感じた感覚で、私の脳は生き返る。
初めは触覚、何かが触れた感じがした。
次に聴覚、静かだけれど、無ではない。
そして……視覚。
「…………」
発しようとした言葉は。喉も口も動かせないせいで無に帰す。
なんで……?
ミライちゃんと────私。
二人共、私を見て固まっている。
私の影が真っ直ぐ伸びて、二人にかかる。
腰が抜けた私と、立ったまま固まるミライちゃん。
……………
……………
そっか。
「」
何も言えない。
何も伝えられない。
(……最後に、もう一回見られて良かったよ。ミライちゃん)
私にはもう、こう思う事しかできない。
そこで私は意識を失った。
一片の悔いも残さずに。
END B. 幸せを求めた少女
「──────、過去の未来を願って」
次の話(最終話)に進んでください。




