表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
流体なる隣人たち -諸邦スライム巡見録  作者: Ono


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/10

第六章 温床スライム

旅先:トゥーリラ、極北雪原国家・内陸部。王国歴二六一年。


 ***


 寒さには段階がある。最初の段階は不快だ。首が縮み、耳と指先が痛み、一刻も早く暖かい場所に入りたいと思う。これは誰もが知っている寒さだ。

 次の段階は静けさだ。痛みが薄れて体の感覚が均一になり、妙に落ち着いた気持ちになる。これが危ない寒さだとトゥーリラの案内人ユンは言った。「痛くなくなったら、もう終わりに近い」と。

 三番目の段階は私には分からない。そこまで行った者は、戻って教えてくれないからだ。


 私は二番目の段階に、人生で二度、達した。ユールハーゲンで過ごした翌年、さらに北へ向かった旅の最中のことである。どちらもトゥーリラの温床スライムに助けられた。そのうちの一度は、助けられたのか食われかけたのか、今でも判断がつかない。


 ***


 ⋄トゥーリラへの道


 雪原国家トゥーリラは大陸の最北端に位置する。「国家」という語が適切かどうかは疑わしい。そこには統一された王権も議会も存在せず、氏族単位の集団が点在する集落を形成し、共通の慣習法と交易網で緩やかに結びついている、というのが実態に近い。

 人口は全体で十万を超えないと推定されているが、知る必要がない、という認識が当事者間にはあるようだ。


 私が向かったのは内陸部の氏族集落の一つ、シュネル村だった。人口は約百名、移動を行わず恒久的な居住区と建物を持ち、周辺の狩猟地を管理しながら生きている。温床スライムの存在が比較的よく知られているのはこの村の周辺であると、帝国の古い探検記録にも記されていた。


 港町から内陸への移動はウルフェン・ハウンドが引く橇だった。狼橇の御者兼案内人として紹介されたのがユンで、口数が少なく年齢不詳の女性で、私の質問に対して必要最小限の言葉で答えることを信条としているようにさえ見えた。初日の出発前に彼女は私の装備を見て「足が足りない」と言った。

「えっ、足? 二本揃っているつもりですが」

「寒さは足と手を最初に殺す」

 彼女は倉庫から追加の毛皮を持ってきて、私の足首に黙って巻いた。足部分の防寒具が足りないという意味だったと気づく。余計な説明はなく、終わると即座に橇の準備へ戻っていった。これがユンという人間の全体を表していた。言葉よりも行動が速い。


 内陸への道程は約四日だった。狼橇は揺れるが、寒さの中では不思議と酔わない。


 ***


 ⋄最初の遭遇


 雪原をしばらく進んだ日の午後に雪が降り始めた。最初は粉雪程度で、まだ進めるとユンは言った。しかし夕刻に近づくにつれて風が出てくるとユンは橇を止めてまずウルフェン・ハウンドたちの餌の仕度を始めた。

「雪嵐だ」

 橇が止まったのは遮蔽物のない雪原の真ん中だった。空を見ても私には曇天と嵐の兆候の違いが分からない。

 ユンは手際よく緊急用の天幕を設営し始めた。私も手伝おうとしたが、防寒手袋をした手では金具の操作が覚束なく、ほとんど邪魔になるため大人しくしていた。天幕が張られる頃には外の気温はさらに下がっていた。

 中は狭く、ユンと私と、それから特に大人しいらしい二頭の狼が私たちの暖房として天幕に入った。残りの狼は外で輪になって体を寄せ合い、悪天候と魔物の襲来を警戒する。ユンは「あいつらのほうが雪嵐に強い」と言い、それ以上気にしなかった。


 夜が深まるにつれ、天幕越しに風の音が大きくなる。私は眠れなかった。寒いためではない。天幕の中はユンと狼たちの体温で思ったよりも温かかった。ただ外の音が気になったためだ。風の中に何か別の音が混じっている気がした。低い波のうねりに似た音。雪の重さが地面を押すような、あるいは大きな何かが雪の下で動いているような、そういう気配の音だ。

 ユンに言うと、彼女は薄目を開けて言った。

「温床だ」

「今夜、見られますか」

「明日にしろ」

 彼女はそう言ってまた目を閉じた。私は夜通し、あの音を聞き続けた。


 ***


 ⋄温床スライムの外見


 翌朝、嵐は収まっていた。雪原は前日よりさらに厚みが増しており、橇の走路を確認するためにユンが先行して歩いた。私はその後ろをついていきながら、周囲を観察する。ユンが立ち止まり、少し離れた雪面を指差した。

 最初は何を指しているのかも分からなかった。目を凝らすと、真っ白いばかりの雪が少し盛り上がっているように見える場所があった。直径で五メートルほどの円形の範囲で、その部分だけ雪の質が違う。新雪が積もる周囲に比べて雪が固まっており、表面に薄い光沢がある。よく見ると微細な湯気のようなものが立ちのぼっていた。

「あの下にスライムがいるんですか」

「そうだ」

 近づいて雪面に手をかざすと確かに熱がくる。穏やかな冬の焚き火のような柔らかい放射熱だ。地熱ではない。この辺りに火山活動はないし、広がり方が局所的すぎる。何かが雪の下で熱を作っている。


 雪を少し払うと、その下に橙色に近い、濃い赤みがかった粘体が見えた。

 温床スライム、暫定学名Caloritheca nivalis(雪中熱床粘体)との、正式な初対面だった。


 ***


 ⋄発熱の仕組み


 シュネル村に着いてから、私は三週間を温床スライムの観察に費やした。最も気になったのは「なぜ、どうやって彼らは熱を出すのか」だ。

 生物が発熱する仕組みは大きく二種類に分けられる。一つは代謝熱、体内の化学反応の副産物としての熱だ。人間もそうであるように生命活動そのものが熱を生む。もう一つは意図的な発熱、つまり体温調節や外部への熱放射を目的とした積極的な発熱機構だ。温床スライムは後者であると私は考える。

 観察した限り、温床スライムの発熱量は外気温に応じて変化する。気温が下がるほど、より多くの熱を放出する。これは単純な代謝熱では説明しにくい。代謝熱は代謝速度に依存するが、温床スライムは極寒でも驚くほど安定した高い発熱を維持するのだ。


 村の長老の一人、エイリクという八十近い老人が興味深い観察を教えてくれた。

「あれは腹が減ると熱が増すのだ」

「食事と発熱が連動しているんですか?」

「食べた直後は熱が落ち着く。腹が空いてくると、また熱が強くなる。我々はそれを『呼んでいる』と言う」

「何を呼んでいるんでしょう。獲物ですか」

「温かい場所に引き寄せられるものを全部だ」

 これが温床スライムの戦略の核心だと私は理解した。熱を出すことで周囲の生物を引き寄せる。引き寄せた生物を取り込む。その栄養でさらに熱を出す。極北の厳しい環境で温床スライムが頂点に立つ理由が、この循環にある。


 ***


 ⋄小動物との共生


 しかし事態はそれほど単純ではなかった。

 村の外れ、シュネル川の岸に近い場所には特に大きな温床スライムが棲みついていた。直径で十メートルを超える個体で、村人たちは「ヴォルム」と呼んでいた。

 ヴォルムに近づいて観察するとすぐに異変に気づかされる。

 表面が動いているのだ。スライム自体の動きではなく、表面を何かが走っている。よく見ると、小さな白い齧歯類――雪鼠がスライムの表面を走り回っていた。それも一匹ではない。およそ十匹以上が表面を駆け、スライムの縁から内部に潜り込み、また出てくる。


 スライムに食われているのか、あるいは食っているのかと最初は思った。しかし違った。雪鼠たちはスライムの内部に巣を作っていたのである。表面の一部に複数の穴があった。雪鼠たちはそこから出入りし、内部で繁殖している。スライムは彼らを消化しない。少なくとも、能動的には。

 この状況をユンに尋ねると、彼女は何を当たり前のことをという顔をした。

「鼠はヴォルムの中で冬を越す。外は寒いから」

 雪が降り始めたら家に入るだろう、とでも言いたげな様子であったのを今も覚えている。

「スライムが雪鼠を食べないのはなぜですか? それに、雪鼠が『食われる』と恐れないのも」

「私は知らん」

「そ、そうですか……」


 一緒に住まわせることで何か得があるのだろうか。

 雪鼠は外に出て食べ物を探して、またスライムの中に戻る。戻る時に食べかすや糞を持ち込むだろう。それがスライム自体の栄養にもなる。野生の草を全部食べるよりも、農業をしたほうが効率が良い場合もある。そういうことなのかもしれない。

 温床スライムと雪鼠(注:私自身は未観測だが、後にユンから根気強く聞き出したところによると、雪鼠以外にもこの関係を保つ小動物は多数いるらしい)の関係は単純な捕食でも完全な共生でもなく、その中間の、高度に均衡した相互利用関係にあるようだった。

 スライムは小動物に温もりを提供し、彼らは一定の栄養を巣に持ち込む。両者はそれぞれの論理で動いており、意図的な協定などはない。しかし結果としてどちらも単独より豊かに生きている。


 ***


 ⋄旅人を救うスライム


 この出来事を書く前に、少し前置きが必要だろう。

 私はこれまで危険な場面にいくつか遭遇してきた。二四四年のヴァイスデン湿原での出来事が最大の過ちだったが、若かりし日の罪深い経験から私はバルドの遺した教えを守ろうとしてきた。

 しかしトゥーリラでの六日目は、判断する時間がなかった。

 シュネル村からやや離れた場所でユンと共にスライムの観察をしていた時、私はまたしても道を誤った。正確には吹雪によって視界を失い、ユンとはぐれたのだ。手を伸ばせる距離ですら互いが見えなくなる吹雪だった。私は声をあげ、その時はユンも声をあげてくれていたはずだが、風がすべての音を掻き消した。


 私は歩き続けた。正しい方向かどうかも分からなかった。幸いというべきか、不安や恐怖心も寒さに凍りついていた。

 どのくらい歩いたか、身体の感覚が薄れ始めたのはおそらく一時間ほどが経ってからだっただろう。先に述べた、寒さの二段階目に入っていた。痛みがなくなり、足が実際に動いているかどうかの確認を視覚に頼るよりほかなくなった。転んでも立ち上がるのに時間がかかった。もう一度転んだ時に立ち上がれるか自信が持てなかった。

 その時、足許に温かいかもしれない感じがした。この曖昧な表現は当時の再現である。感覚が鈍っていたので確信が持てなかったのだ。雪の上に座り込むようにして手で地面の雪を払った。下に橙色があった。温床スライムがいたのだ。


 立ち上がれなかったのか、立ち上がらなかったのか、思い出せない。ただ熱を感じた。身体の芯まで冷えた状態で、その熱は自宅の暖炉を思わせる安堵をもたらした。私はスライムの上に体を横たえた。

 悪手かもしれないという考えは、正直あった。温床スライムが旅人を救った逸話が伝わっているが、同時に食らった逸話もあることを、私はすでにエイリクから聞いていた。しかし選択肢は実質的になかった。このまま動き回っても救助を困難にするのは確実で、そもそも体力が尽きかけていた。スライムの上にいれば、少なくとも今夜は凍えない。

 私は食われるならばそれまでとの思いで、スライムの上で目を閉じた。


 ***


 ⋄捕食と保護の曖昧さ


 翌朝、ユンが私を見つけた。彼女は私がスライムの上で寝そべっているのを見てぽつりと何か言った。後でエイリクに聞いたら「間抜け」という意味のトゥーリラ語の罵倒だったらしい。

 身体に異常はなかった。スライムによる腐食の跡はなく、皮膚の状態も正常。あるいは分厚く着込んだ防寒着が防御の役割を果たしたのだろうか右手の甲に若干の赤みがあったが、痛みはなく数日で消えたし、それはおそらく凍傷の手前であった。


 なぜ食べられなかったのか。エイリクにこの話をすると、老人は笑った。死を覚悟した話の最初に出てきたのが笑いだったので、私は少しだけ傷ついた。

「単に運が良かったのか、それとも理由があるのか、どちらだと思いますか?」

「両方だろうよ。温床は旅人を食べることがある。特に死にかけているものをな。だが、毎回食べるわけではない。何が違うのかは、我々にも分からない。だから旅人には『吹雪の中で温床を見つけたら乗れ、ただし雪が止んだらすぐに逃げろ』と教える。乗れるだけ乗って、なるべく早く離れろ、ということだ」

「それは矛盾していませんか」

「している。どちらも正しい。温床は救うし、食らう。そのどちらになるかは我々には分からない。不確かなものを確かであるように言うのは嘘つきだ。だから矛盾したままで教える」


 捕食と保護の曖昧さは温床スライムの悪意からくるのではない。温床スライムには悪意も善意もない。ただ生存のための論理がある。熱を出して生物を引き寄せ、取り込んで栄養にする。しかし小さすぎる生物は栄養価が低く取り込む価値が低い場合もある。あるいは大きすぎる生物は取り込むのにエネルギーがかかり非効率な場合もある。何らかの状態の違いが取り込みの可否を決定しているのかもしれない。

 人間が「スライムに助けられた」と感じる時、温床スライムは単に「今回は食べなかった」だけかもしれない。

 その区別が重要かどうかは、生き延びた側の人間にとって、実用的にはどうでもいいことだ。ともあれ私は、スライムが私を「食べなかった」ことで「助けられた」のだ。それは事実であった。


 ***


 ⋄非常食の話


 もう一つ、食べるということに関する話をしよう。シュネル村では温床スライムを食べる。これは隠された事実でも禁忌でもなく、ごく一般的な食文化として王都でも一部の食通には知られている。エイリクが「食べていくか」と誘ってくれた時、私は躊躇なく同意した。そして翌日の昼食の席で軽く後悔した。


 調理法は単純だった。温床スライムの縁の部分を薄く切り取る。内部の核に近い部分は取らない。なぜかと聞いたら「取ると本体ごと死ぬ」という答えが返ってきた。取り除いた縁の部分を雪に晒して急速冷却し、その後、焚き火で炙る。すると表面が固まり、内側は半液体状のままの状態になる。

 出てきたそれは見た目がどうやってもスライムだった。夕焼け色に染まった白い塊で、湯気を出していた。匂いはあまりしなかった。


 味を正直に書く。最初の印象は「温かい」だった。味よりも温度の印象が先にきたのだ。次に微かな甘みがある。それから、なんと表現すべきか、大地の味とでも言うべき掠れた風味がある。肉とも植物とも違う。強い個性はないが、何もないわけでもない。後味は長く残らず、すっと消える。

 決して不味くはなかった。美味しい、と言い切る自信もなかった。

 じきに慣れるとエイリクは言った。

「最初はみんなそういう顔をする」

「私はどんな顔をしてるんでしょうか」

「何も分からない顔だ」


 エイリクによれば、温床スライムの縁は非常食として重要な役割を担っている。極北の冬、猟が続かない時期、食料が底をつきかけた時、温床スライムは貴重な栄養源になる。肉や魚には劣るが、脂肪分が高く、少量でも体を温める効果がある。何より真冬の雪原でも発見が容易だ。熱を出しているから、雪の上でも存在が分かる。

「飢えで死にかけている旅人にとって、温床は二重の意味で命綱だ。温めてくれる。そして食える」

「食われる可能性もある、ということを含めると三重になりますね」

 真剣に言ったのだが、面白い冗談だとエイリクは笑った。


 ***


 ⋄ヴォルムとの最後の朝


 シュネル村を発つ前日、私は一人でヴォルムのところへ行った。

 夜明け前、空がまだ青みがかった暗さの中でヴォルムは静かに熱を放っていた。表面に雪が積もり、その雪が内側からの熱で少し溶けながらまた凍るという過程を繰り返していた。縁の部分に薄い氷の結晶が花のように広がっている。

 雪鼠が一匹、穴から顔を出してすぐに引っ込んだ。私は膝をついてヴォルムの表面に手のひらを当てた。革手袋越しでも熱が伝わってくる。表面は柔らかく、指の重みで少し沈んだ。

 ヴォルムは変化しなかった。前年に出会った灯り玉のウィルフのように色を変えたりはしなかった。セアルラスの酵母粘体のように特別な香りを放ったりもしない。ただそこにあり、熱を出し続けている。


 私は観察記録の新しいページを開き、厚い革手袋に四苦八苦しながらペンをとった。温床スライムについて書くべき事実はすでに書いていた。発熱の仕組み、雪鼠との関係、捕食と保護の曖昧さ、食文化としての利用。それらは王都に持ち帰り、正式な記録として残す予定であった。

 しかし今ここで手のひらに感じているこれを、どう書けばいいか分からなかった。極北の夜明け前、雪の中で、大きな生命の温かさの中心に触れているという、この感覚を。


 私は記録帳に何も書かずに立ち上がった。すべてを言葉にする必要はない、と初めて感じたのだ。


 ***


 ⋄ユンとの別れ


 出発の朝、ユンは橇の準備をしながら、珍しく彼女のほうから話しかけてきた。

「本を書くのか」

「はい。各地のスライムについての観察を」

「温床も?」

「もちろん書きます。ヴォルグのことも。怖い話も、食べられる話も、助けられる話も」

 それをどう思っているのか、彼女は何も言わなかった。


 やがて橇が動き出し、シュネル村が遠ざかっていく。村のはずれに白く盛り上がった雪の丘が見えた。おそらくヴォルムだろう。距離があってもその存在が分かるのは、周囲の雪の質が違うからであり、私が慣れてその違いに気づけるようになったからだ。

 ヴォルムの周りを小さな白い点が蠢いていた。雪鼠たちだ。朝の青白い光の中で、彼らは温かい場所を中心に自由に動き回っていた。


 ***


 ⋄後記


 温床スライム、Caloritheca nivalis(暫定学名)について記録を整理する。

 発熱量は個体の大きさと空腹状態に相関し、外気温が低いほど放熱量が増加する。この制御機構の詳細は不明だが、魔力的な代謝変換が関与しているという仮説が最も説明力が高い。捕食対象は主に哺乳類で、接触した対象を体表から吸収するが、雪鼠のような小型定着生物との共生関係も確認された。

 人間への危険度は「条件付きで高い」と評価する。接触自体は即時の危険をもたらさないが、長時間の接触、特に意識を失った状態での接触は致命的になり得る。

 食用については、縁部分に限り可食。核部分の毒性は不明だが、生態系への影響を考慮して控えるべきである。調理は加熱が推奨されるものの、生食も可能。


 最後に個人的な所見を一つ。

 人は「スライムが人間に何をするか」には興味を抱く。しかし温床スライムはその興味を逆転させる。極北の冬、凍えながら熱を求める人間は、温床スライムに対して何者なのか。客か。餌か。隣人か。

 答えは温床スライムが決める。そしてその答えを、人間は事前には知れない。それでも人間は熱を求めて近づく。選択の余地がないからでもあるが、それだけでもないと私は思う。

 生命の温かさには理屈を超えて惹かれる引力がある。


 ***


次章への案内

続いての旅の目的地は、深い森の中に広がる紺碧樹海だ。森エルフたちの住む場所に、大樹の内部で生きる粘体がいる。そしてそこでは、私の持ち込んだ学術分類が静かに拒絶される。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ