第四話 「今後は……」
またしても人の死に関する記述を見つけたトウマは奥歯を噛み締めた。
それだけでは無い。今回は、誰が、という主語が欠けている。一番重要な情報を敢えて与えてないのか、今回はそういうものなのか。
「未然に防ぎようが無い、時間、場所、人の名前が無い以上、俺の近くに置くしかない」
パタンと手帳を閉じ、ポケットへとしまう。
店の裏手でただ一人、トウマは考えていた。
前述の通り、手帳がこのように文字ではなく映像として見せたのは初めてである。
「今後もこんなことが起きるかもしれないってことか」
だとしたら、具体的な情報源が増えるというメリットもあるがその度に気を失うのは少し面倒くさい。
それに、時と場所によっては中を覗くことが出来ない、という可能性すらある。
それよりも気になるのが、あの場で一体誰が刃の餌食になったのか、である。
トウマの中で思い当たるのはただ一人、ジュラルだ。
現在の状況から察するに適合するのはジュラルしかいない。
しかし、ウリルらしき人物とと共に女性がいた。それは姿を見ていないため、トウマも知らない。
では、仲間――と考えるのが妥当だろう。そうなれば考えも一転する。仲間が加わるなら、ジュラル以外の人間が死ぬ可能性が出てくる。
「分からない、それでじゃあどうしようも無い」
考えに詰まったトウマは今はこの問題に関して考えるのを止めた。
頭の隅に入れておき、状況が変化した時にまた考えよう。その心意気だった。
☆★☆★
「では、今後の方針について整理致しましょう」
全員が食事を終わらせたタイミングでジュラルが口火を切った。
食の余韻に浸っていたトウマもその言葉で我に返る。
「放浪者、というのはもう良いでしょう。ならば、次の目的地について話すことにしましょう」
目的地、そんなもの俺たちにあるのか、と疑問が浮かぶトウマ。
だがジュラルは違う。彼の瞳の奥底には何かを決めたような覚悟が見える。それが何かは知らないがジュラルは言う。
「東には港町ミナバルトがございます。そこで、ワンジュ様と合流します」
「ジュラルさん、いつの間に兄上とそんなやり取りを?」
するとジュラルは言った。
非常事態に備えて、合流する場所を予め指定してあったとの事。用意周到とはまさにこの事だろうか。
「ジュラルさん、その前に俺から一ついいですか?」
トウマが挙手をした。ここは学校などでは無いが、質問をする時は必ず手を挙げるのが礼儀だと、どこかで習ったのだ。
ジュラルはトウマを見つめる。それは言って良いという合図だ。
「旅の終着点、いわば目的はなんですか?」
トウマの言葉を聞いたジュラルは良くぞ聞いてくれたと言わんばかりに大きく頷いた。
「それはもちろんミユが王様になるまでー!」
それを聞いたトウマが驚く。
ワンジュではなく、ミユが王になるのかと。
すると、ジュラルがそれも宜しいですが、と口を開く。
「正当な世継ぎとして決まっていたワンジュ様が国に還れるまででしょう」
すると、彼はそこに付け加えて各個人の技量底上げも兼ねていると言った。
つまりは、強くならなければいけないということだ。
ワンジュが国に還るということは、またしてもあの苦痛を経験する。いや、経験しないようこの旅の中で強くならなければいけない。
「しかし、ただ各地を転々とするのも無意味でしょう。なので、ワンジュ様の徳を広めるため各地で善行を行います」
「ですがジュラルさん、それでは僕たちを追ってくる集団に情報を渡すことに――」
「その通り、ですから強くならなければいけないのです。ワンジュ様を王に据えるのなら、これは避けられない道なのです」
過酷な道になることは間違いないだろう。
下手をすれば、死ぬ可能性だってある。だが、ジュラルに考えに考え抜いて出した結論がそれなのだ。
恐らくだが、四人で話し合っても結局は同じ結論に至ることだっただろう。
「でしたら、いっその事パーティーを立ち上げてはどうですか?」
ウリルが提案した。
パーティーを作らない理由は一つ、ソンヨの放つ刺客に襲われることへの懸念。
だが、それを結局どうしようも出来ないのであれば恩恵の受けられるパーティーというものの設立が上策。しかし、ジュラルは
「なりません、というより不可能なのです」
彼は不可能と吐き捨てた。
それは、何故とウリルが食いつく。
「この老いぼれが産まれてより以来、皇族の方が冒険者となった例を聞いたことがないのです。
疑問に思い調べて見れば、皇族は冒険者になれないという法令があったのです」
法令、トウマはその言葉に引っかかった。
『異世界転生者排除法』と同じように、この世界の法律は厳しすぎる面がある。
「冒険者の成り立ち、それはか弱い人間の集まりでした。非力で財も無い人間が徒党を組み、一つのことをやり遂げる。憧れた人間が同じように集団を創り、問題を解決する。それが膨らみ、今の形を創り出しました。
非力で財が無い人間の成り上がり。それは書物となり、時を渡って後世の人々の心を掴みました。
強調されたのは『非力』と『無財』。その対極にある皇族や王族。
高位の人間がなることは傲慢で、意地の悪いものとして揶揄されることでしょう。恐ろしいことに、冒険者たちがその法令を立ち上げてしまったのです。
無論初めは反対の嵐。しかし、時間が過ぎ、その意見に合致する王や皇帝が出現するとその法律に署名をしてしまったのです。
流れば出来れば早いもので、他国の王や皇帝も同調してしまいました。それが、現在に残っている。故に冒険者としてはやっていけないのです」
なんともまぁ重い話のなんだろうか、とトウマは納得した。
「なるほど、確かに道は一つしかない……」
「老いぼれの知恵を絞りましたが、それしか出ず……申し訳ないです」
これに関してはジュラルは悪くないだろう。
寧ろ、一人で良く考えてくれたものだと感謝の言葉を伝えたいものだ、とトウマは思った。
「と、いうことはザマスでやりたいことはこれで終わりですか?」
再びウリルが疑問を投げかける。
確かに、とトウマもジュラルの答えを待つ。
「そうですな。ザマスの発展度合いも著しい、十分でしょう」
(本当に朝食を食べて、話し合いをするために寄ったのか……すごい寄り道だな)
全員が席を立ち上がる。
ジュラルがポンっと机の上に硬貨を七枚ほど置く。
「ジュラルさん、ご馳走様です」
トウマがそう言った。
奢られたのなら、礼を言うのが当然だろう。
それを見たウリルとミユも口を揃えて感謝を伝える。
するとジュラルは、フッと軽く笑い満足そうに目を閉じると、
「年長として当然のことをしたまで、気にする必要はございません」
そう言い切った。
トウマは内心、かっこいいなと敬愛の念を深めていた。
一堂が店を出た時、外の様子は一変していた。
先程まで人の往来が盛んだったにも関わらず、人っ子一人見えないのだ。
何事かと、周囲を見渡せば、街の中心部に人だかりが出来ているのが伺えた。
「これは珍しいですな、行ってみますか?」
ジュラルが珍しいと言った。
長年生きている彼が言うのであれば、希少性は確かなものだろう。
その言葉に釣られてトウマたちは行きたい、と言った。
一行はその珍しい光景を見るために都市の中心へと向かった。
家屋は音が消えたように無音であった。その不気味さにトウマは少し疑問を持った。それが正解になるとは、彼自身も思わなかったことだろう。
次回 第五話 「見せしめの効果」




