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間話 従者の一日

 起床時間はいつも五時。


 まずは窓のカーテンを開ける。そして、窓から差し込む光で光合成。その後ベッドから降りて、服を着替える。眠い目を擦りながらしっかりと着ているかを確認。


 もし服が破れているならば、ジュラルに報告。と言ってもまだ袖を通して日が浅い。そんなことはない。

そして、今日は事件が起こらないか手帳を確認。


 「……疲れが取れる風呂? なんじだそれ、百パーセントとれるなら是非とも入りたいな」


 どうやら今日は疲れが取れる風呂に入れるらしい。


 服を着替えたらまずは厨房へ。俺は料理なんて出来ないから盛り付けとか、味チェックとか、皿洗いをする係。朝食を作るのはこの宮殿全員分。真っ先に皇族の人達の朝食を作る。材料や調味料は全て高級品だ。


 「トウマ、こっちを手伝ってくれ」


 「あいよー、ちょっと待ってなー」


 ここに来て日が浅いが従者というのは何かと接点が多い。だから名前なんてすぐに覚えられるし、この宮殿のどこに何があるのかもしっかりと理解出来た。


 「皮を剥いて欲しいんだ、あとこれの水切りも」


 人参とキャベツ。この世界にもしっかりとあるらしいな。嫌いじゃないけど好き好んで食べはしないな。 もちろんのことだが、材料を無駄になんてしたらどうなるか、


 「おい、バカ野郎!」


 そんな声が厨房に響く。朝から大きなを出せるんだな、羨ましいよ。俺は今水切りをしようとしていたところだ。だが、声を掛けられたのは俺ではない。後ろを振り向けば皿の破片が飛び散っている。音が聞こえなかったな、まだ寝ぼけてるのかも。


 「懲罰だな、こっちこいや!」


 そのまま頭を掴まれてどこかに誘拐、じゃなくて連れていかれた。連れていった人は今(・)日(・)の(・)管理長。毎日、管理長は入れ替わりで行っている。新人の俺はまだまだ先の話。


 六時半にはこの宮殿に住む「全員分」の人々の朝食を作り終える。全員、それはつまり俺たちのような雑務に当たっている人もだ。


 次に食堂へ移動。それぞれの食卓に料理を並べていく。たまにバイキングのような形で自分たちで盛り付けていくのだが、まぁ人が混むことよ。俺なんてこの前、圧死寸前までいった。


 そして並べるのだが、これが一番面倒くさい。上り下りをして、料理を運ぶ。もちろん俺たちは朝食なんて食べてない。つまり力が出ないのだ。その状態での肉体労働。甘い誘惑が俺たちを誘うんだ。「食っちゃえよ」、「バレないって」、悪魔の囁きが毎朝聞こえてくる。


 もちろんそんなことをすれば連れて行かれる。どこかは知らないが、帰ってくるのは数日後らしい。その間、何をされるのかは口外禁止だ。


 朝食ということもあり朝はスープや野菜、パンなどが並ぶ。米が恋しい……この世界に来てから一度も白い粒が食卓に並ぶのを見ていない。もしかして無い?


 その後、一時間かけて人数分だけ机に並べる。この時点で十分に死ねる。エレベーターやエスカレーターのように文明の力が無い時点で最悪だ。ロボットなんかにやらせればいいのだが、いるわけが無い。


 七時半から八時に食堂に人が入ってくる。好きなタイミングに食べれば良い。人が来てからでも良いし、人が来て混む前に食べ切るのも良い。


 だが、それが出来るのは皇帝が食べ始めてからだ。皇帝ファースト、エンペラーファーストと言った方が良いか。ここで食べてしまうともちろん連れて行かれる。


 「やぁトウマ、そろそろ慣れたかい?」


 「おはようヘルメス、これに慣れるのにはもう少しかかりそうだ」


 「見たいだね、顔が少しやつれているよ。今晩は僕おすすめのお風呂に案内するよ」


 「サンキュ、マジでそれは助かる。ご褒美があるだけで一日頑張れるよ」


 ヘルメスはいつも朝が早い。皇帝や皇子たちよりも早く中へやって来る。何故かは分からないが、食べるのを楽しみにしてるんだろうなぁ、と俺は思ってる。


 「陛下、おはようございます」


 そして皇帝のお出まし。全員が頭を下げる。そんなのドラマとかでしか見たことないが、俺はこの世界にやって来てからずっと自分の身で経験している。


 「面を上げよ」と言われるまで基本下げていないといけないが……上げたくなるんだ。ダメだって分かっているけれどやりたくなる。もしもやったら無礼で猛バッシングを受けるだろうね。


 そして、もちろんだがここで一堂に会する。つまりあの娘(こ)もやって来るのだ。純粋無垢、天真爛漫、元気で自由な皇女さま


 「見っけたー!!」


 「ぐごぉ?!」


 背中に衝撃が走る。俺はその場にうつ伏せになっていた。背中には誰か人が乗りかかっている感覚。


 「おはよ!」


 「お、おはよう、ございます……」


 もちろんだが、こんな公の場で馬乗りになられるのを見られるとどうなるか。冷たい視線や驚き、様々な視線が飛び交い初めこそ痛かった。


 彼の父であるガンレル皇帝にも強烈な圧力を掛けられた。「お前は誰だ」、「娘に手を出すとは」、「斬首刑だ」なんて言われたが、ヘルメスやワンジュ皇子、ミユの説得によって収まった。しかし完全にでは無い。


 薄らと視線をズラせば一瞬だけ睨むような鋭い目つきをしていたが、目が合ったことに気がつくと歩き出した。


 「朝から大変だなトウマ、今日も乗馬ごっこかな?」


 爽やかな声色とからかうかのようなセリフ。見なくても分かる。第二皇子のワンジュだ。


 「そ、それより……助けて欲しいですね」


 「皇子にお願いとは随分と大それたやつだな。身分の差を理解してないのを見れば、貧民であったに違いないだろうな。だが、頭を低くしているのは評価しよう」


 そう言って通り抜けて行ったのは第一皇子のソンヨ。俺は他にも皇族の人達と関わりがあるが、あの人だけは無い。口を開ければ毎回罵詈雑言。そんな人物と関わるなんてこちらから願い下げだ。


 「ほら、ミユどいてあげないとトウマが床になってしまう」


 背中が軽くなる。すぐさま立ち上がり、背伸びをする。収縮していた筋肉を力で伸ばすのは心地良い。そんなことがあり朝食をとる。


 九時から十時までは皿洗い。膨大な量だから一時間で終わるわけが無いが、厨房は広いし人でも沢山。一時間以内にしっかりと終わる。


 加えて俺以外は基本的に魔法が使えるから自分で洗ったり拭いたりしている。それでもなお、約一時間は掛かる。


 ちなみに残飯に関しては俺たちが食べるか貧民達に配る。もちろん食べかけのパンなどは与えないが手をつけていないものだ。


 そこから次にやること、それはズバリ「昼飯づくり」だ!!


 食べたばかりで今、皿を洗い終わった。だが準備に時間が掛かるから「飯の準備」→「運ぶ」→「食べる」→「洗う」→「飯の準備」→「運ぶ」→「食べる」→「洗う」、午前中はこれだ。その後にようやく各々が担当する仕事へ移れる。


 朝食を食べたばかり。つまりは満腹ということ。その状態で食べ物を見たり、匂いを嗅いだりしたらどうなるか。それはもう分かりきっているだろう。加えて、昼飯だから朝食よりもボリューミーなものに化ける。

 作っているこちら側としては地獄でしかない。それでもなお遅れることは許されない。


 だから俺たちは満腹まで食べきらず、あともう少しだけ食べたいな、というところで止める。そうでないとこちらが死んでしまう。昼はバイキングだから小分けにする必要がない。朝ももうそれでもいこうよ。


 作る、運ぶ、食べる、片付ける、諸々を終えて時間帯は二時くらい。

 ちなみに昼は人が少ない場合があるからすぐに済む。と、言っても従者の数は多いが……。厨房にいるのも当番達だけ、それ以外のもの買い出しや主に従っていたりする。


 大体七時くらいに厨房に戻る。からそれまでは自由時間だ。基本的に皆は掃除や洗濯などで忙しいが、俺は違う。


 「行っくぞー!」


 「は、はい……」


 「トウマ、生きてるかい?」


 「せ、セーフ」


 俺は王宮の外に出て遊び回る、否、振り回される、と言ったほうが良いか。今日は王宮内だが---

 俺が世話を担当しているのはミユ皇女。何故か気に入られているために、あちこちへ連れて行かれる。


 転移初日に起こった反省を踏まえヘルメスとはぐれないようにしているのだが、彼女はお構い無しに向かって行く。


 基本的に娯楽を楽しみに行く。


 この世界の娯楽とは何かというと、俺がいた世界でいうサバゲーのような物に近い。魔法を駆使して先に相手チームを全滅させる。至ってシンプルだ。ちなみに俺は魔法なんて使えないから参加出来ないと思ったが、魔法を使えるグローブがあるらしくそれを装着すれば俺も参加出来るらしい。


 あとは……無重力空間でのガチ鬼ごっこ、とか? これはヘルメスだから出来ることなんだろうけど無重力の空間、範囲は決めてないから都市全体かな。そこでの鬼ごっことか。


 まだまだ沢山ある。魔獣でのレースや闘技場、吟遊詩人、魔法演劇、幻術迷路など。精霊祭り、月見の宴、豊穣祭などの祭りもある。


 実際に参加したことがないものもあるが、どのようなものかは大体検討がつく。

 俺たちが向かっているのは王宮内では珍しい空き部屋。加えてその空き部屋はとても広い。リビング三つ分の大きさ。


 今日はそこで何をするのか。それは---


 「では双六(すごろく)の準備をしますのでお待ちください」


 双六である。そう言ってもただの双六ではない。魔法が掛かっているのだ。俺たちが実際に双六盤に広がっている世界に入り、自分をコマとして遊ぶ。

 

 「トウマ、そっち引っ張ってくれないか」


 「あいよー、っと」


 双六盤は紙で出来ているが不思議なことにどれだけ引っ張ろうが破れないのだ。盤は赤、青、緑、黄色など色がついているマスがある。


 ルールは基本的に同じだ。一番最初にゴールした者が優勝。少し違うところがあるとすれば、罰に魔法バフが掛かっているということ。


 普通に叩かれたり、足を凍らされたり、天高くまで飛ばされたり、それこそバンジーをする羽目になったり、魔物を討伐しないといけなかったり。最後のは俺死ぬな……


 準備も出来たことだし、始めようとした時---


 「楽しそうじゃないか、私も混ぜてくれないかな」

 

 その言葉とともに扉を開けたのは紺碧の髪、橙色に輝く瞳。軽装だが、気品を保っている普段着。ワンジュである。


 「もちろんです。大勢で遊んだ方が楽しいですからね」


 「うんうん! やろー!」


 参加者は一人増え、四人となった。全員が盤の近くに立つとヘルメスが手のひらを上へ向ける。すると膜のようなものが俺たちを包んだ。白い光が発せられ、俺は目をつぶった。



 数秒後----


 目を開けると、知らない場所にいた。蒼は天高く広がり、人は当然のように行き交う。目を擦っても幻術ではない。あの時、転移直後を思い出すな。下を見ればマスがある。盤の上から見た時にあったものと全く同じ色のマス目が。


 「それでは進む順番はどうしますか」


 振り返れば、皆がいた。まるで慣れているかのようだった。まぁ、何回かは経験しているんだろうな。


 「ヘルメスから時計回りでいいんじゃないかな」


 「さんせー!」


 「トウマもそれで良いかい?」


 「う、うん……それでいいよ」


 ヘルメス→ワンジュ→ミユ→俺の順番となった。

 

 「こう見えて僕はくじ運が良いから、いきなりゴール、なんてこともあるかもしれない」


 そう言ってスタートのマスに乗った。すると大きなサイコロが宙に現れクルクルと回転している。なるほどゲームと似ているな。

 ボタンなんかないから触れて止めるんだろうなー。


 そう思っていると彼は手を振りかざす。


 (あぁなるほど、殴って止めるのか)


 ヘルメスは俺の予想通りにサイコロを殴った。あまりにも強かったのか衝撃波が後方に飛ぶ。硬い素材で出来ているのかと思いきやかなり柔軟な素材で出来ているらしく彼の腕がめり込んでいた。


 いや、やり過ぎでしょ……目は多分「四」?

 そう思っていると、サイコロが揺れだした。やはり、力を込めて殴りすぎなんだろう、そう思っていると----


 黄金の光を放った。するとサイコロの目が変わる。早く回転しすぎていくつなのかは分からないが、多分変わった、多分。


 だがヘルメスは拳を振りかざすことはなく腕を脱力し優しく触れた。


 「おぉ、運が良いね」


 サイコロの目は………


 「6の6乗か、やるなぁ」


 「すごいすごーい! ミユも出したいなー!」


 「はぁ? ろ、6の……6乗……?」


 「トウマもしかして知らないのか? 一度目にサイコロを強く殴れば目が四~六に変化して、その数の分だけ指数がつくんだ。だから4を出せば4の4乗、5を出したら5の5乗というサイコロに変化する。有名な話だろう?」


 「え……あ、あー! そうだったそうだった!」


 どこが有名だよ! そんなの初めて聞いたよ!

 つーか6の6乗っていくつだよ……。絶対その分だけマス目ないだろ!


 その後、ワンジュ、ミユと立て続けにみな6の6乗をだした。たが、素手で出したのはヘルメスだけでワンジュは剣で、ミユは魔法でと各々が得意とするものでそれをだした。

 待って、俺だけ? 普通の双六やると思ってたの……。


 俺も初めのマスに進む。するとサイコロが宙を舞う。


 「こういう時に大事なのはイメージだ、ムカつくやつの顔を思い浮かべて殴る!」


 あまり立ち尽くしていると皆を待たせてしまう。だから早々に方をつけないといけない。

 俺はフーっと息を吐くと、拳を作り出す。空手とか、拳法なんかやってたら余裕だったんだけどね。


 「おおおおお!!」


 大きく振りかぶり、渾身の一撃をサイコロに叩きつけた。ゴム、いや絶対に壊れないゼリーを殴っているような感覚……貫通させるつもりで俺は奥へ奥へと捻り込む。


 サイコロが黄金の光を出す----




 と、思いきや何も変化しなかった。そいつに決して顔がついている訳では無いが、「お前よぇな」なんて言われた気がした。


 加えて出た目は一。そう、最弱の一だ! 一が出ればゴールなのにという時には出ないくせに、最初のスタートで出るんだな! おかしいな!


 「マジか……孤独だわ」


 そう呟いて前へ進む。マスの色は黄色。するとデジタルメッセージが現れた。

 これは……起死回生の一撃では?! いきなりゴール前とか


 「一回休みです」


 「はぁ?」


 どうやら黄色マスは休憩らしい。すると、またしても何かが宙に現れる。今や遠く離れてしまった三人が映像化して現れたのだ。


 「トウマ災難だね、まだ巻き返しは効くよ頑張れ」


 「まだまだだいじょーぶ!」


 「出だしは悪くても勝てる可能性は無限大だからな頑張りたまえ」


 「ちょっ、待ってくれ! 6の6乗でも終わらないってどんだけマスがあるんだ!?」


 「うん……? 普通じゃないのか?」


 「どうしたんだトウマ、6の6乗だぞ? 流石にそんな早く終わる双六は無いぞ」


 「ミユでもできるけーさん!!」


 「えっだって6の6乗……えーっと、あーして、こうで……万とか進むでしょ?!」


 「そうだね、うーんと、46,656だね」


 「だよな?! どんだけあるのさ?!」


 「合計は確か……百万だったかな」


 「は……? ひ、ひゃく、まん……?」


 「どの双六も短くて百万はある。つまりこれは世の中で一番短い双六と言っても過言ではないぞトウマ」


 な、なんだそれ……万のマスがある双六が普通? ありえないんだが。もしかしてだからワンジュは指数になるサイコロが当然だって言ったのか?


 「まぁとりあえず進めるとしようか」


 そうしてまた順番は巻き戻ったが、俺は休みだからヘルメスに。そして、各々がサイコロを振り大きく進む中俺はサイコロの機嫌が悪いのか、はたまた俺が弱過ぎるのか、スタート地点に取り残されていた。


 「だぁーくそ! サイコロに嫌われてる!」


 俺が失敗する度に皆が笑う。だが不思議と苛立ちはない、むしろ楽しさを感じる。結局俺は累乗サイコロを作り出せず他三人がゴールしてしまった。


 またしても白い光に包まれ、目を開けると空き部屋に戻っていた。


 「いやー、面白かったよ。ヘルメス、また参加させてもらうよ」


 「もちろんです、楽しみにしています」


 「ミユもまたやりたーい!」


 「いやいや、俺一人死んでたんだけど?!」


 「確かにそれじゃあ次はトウマもやりやすいものにしようか」


 外を見ればまだ明るいため、もう一つ何かやろうとした時だった、


 「皇子さま、時間にございます」


 「おっと、もうそんな時間か。すまない、どうやら鍛錬の時間らしい」


 そう言って彼は退出して行った。それではどれに、と選ぼうとした時、彼は何かを思い出したかのように戻って来た。


 「ミユ、お父様が呼んでいたよ。二人は自由にしてていいらしいよ」


 その言葉を残して行った。ミユは残念そうな顔をした。珍しいな、二人は自由って……ということは残されるのは俺とヘルメスだけか。


 「一応、部屋に到着なさるまではお供いたします」


 うん、その方が良さそうだ。

 するとミユが当然の如く俺の手を握ってきた。パッと顔には花が咲いたような笑顔が張り付いている。  俺たちはそのまま部屋を後にした。

 

 その後は特に何も無く、帝の間にたどり着いた。


 「それでは我々はここで失礼します」


 「うん、ばいばーい!」


 こうして残されたのは俺とヘルメスだけとなった。帝の間から離れ、肩を並べながら歩いているとヘルメスが言った。


 「トウマ、行くかい?」


 「----?」


 「おや、嬉しそうにしていたんだけどね」


 嬉しそう? 何か話したかな……俺が喜ぶものはなんだ? お金じゃない、欲しいものは無い、なんか約束した気が………物じゃなくてサービスみたいな感じだったかな。


 「あー! 風呂ね!」


 「思い出してくれて良かったよ、忘れていたら流石に僕でもくるものがあるからね」


 「すまんすまん、そうだな……じゃあ今から行くか」


 そうして俺たちはヘルメスおすすめの風呂へ向かうことになった。


 俺は少しワクワクしていた。なにせヘルメスが太鼓判を押すほどの浴場だ。それはもう入った瞬間に最強にでもなれるに違いない。もしくは設備が最高に良い、そのように思っていたのだが---


 「ここが、おすすめ……なのか?」


 「まぁそうだね」


 連れてこられたのは王宮で身分の高い人間しか使うことができない大浴場だった。


 「どうかな、僕はここのお風呂は疲れがよく取れると思うんだけど」


 ヘルメスは浴槽に浸かりながら言う。湯気が立ち上りいい具合に体が火照る。

 やはり設備が良いということは浴槽の水も何か魔法のようなものが掛かっているのだろう。俺とヘルメスは向かい合いながら疲れを癒す。


 「うーん、今のところは分からないけど、温度が気持ちいいな」


 「良いところに気がついたねトウマ、この浴槽は個人が快適に感じる温度になるんだ」


 「ま、マジかよ、そんなこともできるのか」


 体感四十二、三度くらいだな。なるほど確かにな。この温度だとしたらあの世界で俺が風呂に入る時に設定する温度だ。


 「疲れた時はここを使うと良いよ。僕が許可したと説明すれば納得してくれるだろうし」


 「いやいや、逆に疑われるでしょ」


 「そうかな、僕はそんな事ないと思うんだけど」


 「いやいや、お前結構位が高いから俺なんかが説明しても嘘ついてるって思われるよ」


 「そうか、なるほど。じゃあ入口にトウマの使用を許可するって書いとこうかな」


 「恥ずかしいからやめてくれ!」


 「じゃあ陛下に僕から説明しておくよ。これなら大丈夫じゃない?」


 「確かにそれなら良いけど、皇帝が俺の使用を許可するのかな」


 「そこは上手く交渉してみるよ」


 そんな話をして俺たちは 風呂から上がった。疲れが取れた、という感じはしないが、ヘルメスの言葉を信じて効果が出るのを待とうか。


 そして夜の七時となり厨房へ戻った。

 ここでも同じく飯の準備、並べ、食べる、片付けという全く同じ工程を踏んだ。


 少し違う点があったとすれば、ミユが一緒に食べに来たということだろうか。まぁその時、周囲の視線が本当に痛かったが……。なぜ自分のように地味な者が皇族に近しいのかと陰で言われた。


 彼女が来たということはヘルメスもやって来るのだ。俺はその二人と一緒に食事を済ました。今までは誰かとご飯を食べるということは無かったから、少し楽しかった。


 片付けまで済んだ時はもう十時。後は自由に過ごせば良い。いつもなら眠くて直ぐに寝るのだが、今日は睡魔がやって来ない。

 ベッドを見たら飛び込みたくなるほどの衝動に襲われるのに……。


 「まさか……本当に疲れが?」


 ヘルメスと入った風呂を思い出した。彼は確かに「疲れが取れる」と言っていた。にしても今効果が出るのかよ……もう少し早めに出て欲しかったよ。

 待てよ---いや、これは


 「あ(・)れ(・)がようやくできるのかもしれない」


 待ちに待ったことが出来る。

 それは書庫への立ち入り。そこに入って転移について調べる。そして帰り方を調べる! いいね、いいぞ!

 ヘルメスナイスだ! だが、この時間帯は人が彷徨いているから難しいな。夜が更けるのを待つしかない……ゴールは直ぐそこかもしれないな。

 

 


 

 


 

 

次回から第二章に入りますが、章の構成などの関係で明日はお休みを頂きます。申し訳ありません

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