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第十八話 三十年前のこと

 西暦215年。トウマが異世界召喚されるより三十年も前のこと。ジュラル・ゼベルアは当時二十八歳。結婚もして、子宝にも恵まれた。正教騎士団の二番手であり、人々の信頼も厚かった。


 まさに順風満帆な生活を送っていたのだ。


 「レミス、そろそろ行ってくるよ」


 当時のジュラルは王宮内に住むことなく、近郊にある村に住んでいた。元々は廃村であり、過去の大戦で被害に遭った。それを復興しようと、画策したのがジュラルである。


 「いってらっしゃい」


 「ぱぱぁー」


 「サラド、行ってくるよ」


 一般市民出身のジュラルとは異なり、彼の妻であるレミス・ゼベルアは貴族出身。蒼天のようなロングの髪が特徴であり、水晶のような黄色の瞳。物腰が柔らかく、誰にでも優しい人だった。


 そして二人の息子であるサラド・ゼベルアは母譲りの蒼の髪と綺麗な顔立ち。去年、産まれたばかりだった。


 「あなた、騎士団の皆さんとは仲良くするのよ。喧嘩っ早いんだから。あと、遅刻しないこと」


 「はいはい、分かってる。大丈夫だって」

 

 そんな親と子どものような会話をいつもしている。もはやルーティーンでもある。


 そういってジュラルは家を後にした。それが、最後の会話になるとも知らずに―――



  ◇ ◇ ◇   



 「副団長、今日は早いですね」


 「オディスか、おはよう」


 「おはようございます」


 都にたどり着いた彼を出迎えたのは顔見知りのオディス・グローウェン。シュラーゲル王国の国門の番兵である。若手ながらも腕前は高く、兵士長を務めている。


 「そろそろ子どもの名前を決めたらどうだ」


 「それが中々思いつかなくて……」


 「早く決めてやらないと奥さんに怒られるぞ」


 「痛いところをつきますね……昨日もそれで怒られました」


 「そうだな……グランなんてどうだ?」


 「いい名前ですね、もし候補がなかったらそれにしちゃいます!」


 「全く、早く決めてやるのだぞ」


 ジュラルは王宮内の騎士訓練場を目指す。道中、顔見知りや市民に話しかけられたが遅れてはまずいと思った彼は足早に目的地へ向かった。


 「「「副団長! おはようございます!」」」


 大きな扉を開けて中に入った彼を出迎えたのは図太い男たちの声。そして、重苦しい雰囲気である。鎧を着た数百の騎士たちがそれを出迎えた。


 騎士団の団員数に制限はない。多ければ多いほど良い。そのため、騎士訓練場は他の室内と比べ何倍も広く、高く作られている。壁には剣、槍、盾、などがズラリと並び、壁には歴代の団長の肖像画が飾られている。


 「副団長、今日は遅刻しなかったな」 

 

 「流石に毎日とはいかないですよ」


 彼は正教騎士団の団長、メルビス・スコーチ。灼熱のような赤髪と同じ真紅の瞳。顔には大きな傷が残っている。ガタイの良い骨格は鎧を着用しても隠すことができないほどである。

 

 「では、せいれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇつ!!」


 龍のような声色。その言葉で団員全員が動き出す。彼の声一つで全員が横一列へすぐさまに並ぶ。


 「騎士の心構え!!!!」


 再び室内全体に彼の言葉が響き渡る。鎧の音がガチャガチャと鳴り、団員全員が両手を胸の前に組み、彼に負けじと声を出す。


 「「「いついかなる時も最前線に!!」」」


 「二つ!!」


 「「「命を捨て騎士道を重んじる!!」」」


 「三つ!!!」


 「「「陛下に絶対の忠誠を!!!」」」


 「四つ!!!!」


 「「「万古不易の名誉を手にするときまで我らは不滅!!!!」」」


 四つの心構えを示すと全員が腰の剣を抜いた。「ガララ」と鋼が鞘を走る音が響く。手にした剣を高々と上げると、天井から差し込んだ光で刀身が煌めく。


 「「「「「我らの命はこの剣とあり!!!!」」」」」


 「よぉぉぉぉおし!!」


 メルビスの一言で全員がまたしても動く。手の剣を鞘へとしまう。

 メルビスは手にした剣を地面に突き刺して言う。


 「昨日、私の耳に一件の事件が耳に入った! 王国の敵である正理機関が我々の領地へ侵入した! これは我らの名誉を傷つけるに等しいことよ!! このまま黙って見過ごすことなどできるわけがない!

 これより! 我ら正教騎士団は正理機関を一掃しに行く!」


    「「「「「「おぉぉぉぉぉ!!!」」」」」」


 それを聞いたジュラルは眉間にシワを寄せた。


 (正理機関、またしてもか。以前は他国の都市一つが廃れたと聞いたが………だがどの分派か来ているのかが重要だ)


 その後、各々準備を始めた。

 剣や鎧の手入れをする者、馬にまぐさを与える者、乗馬をする者、剣で打ち合っている者、食事をとるもの、さまざまである。


 一方の団長であるメルビスもまた準備していた。彼は常に冷静であり戦の盤上を見通すことで有名である。しかし、今回はその余裕さがやや薄い。堅い表情を浮かべ、重々しい雰囲氣を出している。


 ジッと剣を見つめたまま動かないメルビスを見たジュラルは話しかける。


 彼の持つ剣は他の騎士が持っているものとは大きく異なる。鞘に至るまで黄金の色をしており、大剣のように刃が横に広い。


 「騎士団の団長が代々受け継ぐ剣、先人の想いが込められていますね」


 「そうだ、その想いの中には正理機関に対するものもある」


 「特に先代は記憶に新しいです」


 「そうだな俺の師匠も………だからこそだ。今回こそ殲滅する」


 「今回はどの派閥が?」


 「知らん。だが、奴等であることに間違いはないとのことだ」


 「敵の全容が見えない以上、まずは情報を集めるべきかと」


 「フッ、お前が考えていることは俺も当然考えている。知っているか? 情報は戦いの勝敗を左右すると」


 「もちろん知っています。あなたが常に言っていることなので」


 「そうだったな。俺は、先に行く」


 その言葉を残して、訓練場を後にした。


 (団長もまた、やつらに恨みがあるのか)


 ジュラルと対話している中でも冷静を装っていたが彼は内心、怒りに燃えていたに違いない。メルビス・スコーチ、彼もまた正理機関に大事な人を殺されたのである。



 ◇ ◇ ◇

 


 時が経過し、王都を離れ目的地に向かっている途中、


 「副団長、最近馬に乗ってませんでしたか?」


 「な、なんでだ」


 「体軸がブレてました。先ほど落馬するところでしたよね?」


 「見てたのか………最悪だ」


 ジュラルに話しかけたのは彼の一番弟子のヒューズ・マービン。今年二十歳の若者である。ブラウン色の髪と自然を彷彿とさせる碧の瞳。優しい顔立ちをしているが、実力はそれに反して高い。


 彼らはムカデのような列を作って馬で移動していた。本当なら速度に長けたグラントホーンを使うべきだったが、皇帝がそれを許可しなかった。


 グラントホーンは馬よりも背丈は小さいが、筋肉は馬の何倍もあり豹のような見た目をしている。額には螺旋状の一本の角が生えている。毛は短いが防寒耐性が異様に高いため、極寒地帯で愛用されることが多い。


 欠点としては生息数が少ないこと。


 情報部隊に使わせたかったが、数が足りなかったのである。それ以上に希少性が高いため使用許可が降りなかった。


 「しかし、相手がやや悪いですねー。情報部隊が手に入れた情報だと『ヒュドラ=エン』と『ネメア=オルド』らしいです」


 「………めんどうだな、両方を同時に相手するのはキツイだろうな」


 「『ヒュドラ=エン』の方は何とかなりそうですが、『ネメア=オルド』は面倒ですね」


 「噂では戦闘バカらしいが、どうなんだろうな」


 「戦闘バカですか、良いですね。僕はカッコよく狂戦士なんて言ってますね!」


 「あんなやつにあだ名なんてつけてどうするんだ」


 他愛もない会話をしていると、先頭を行くメルビスが馬の足を止めた。それによって後方部隊も足を止めた。


 それを見たジュラルとヒューズが前へ行く。


 「どうしましたか?」


 「動くな」


 低い声でそう言ったメルビス。その声色から察した二人は両者ともに身構える。

 ジュラルは後ろを振り返り大声で言う


 「警戒しろ!!!」


 騎士団全員が剣に手を伸ばした。ここはただの平地。王都からやや離れた位置にあるため、周囲にこれといって潜伏できるような草木はない。


 事件があったのはもっと先の農村なのだ。


 「団長、情報部隊から連絡はありましたか?」


 「無い、一度もな」


 彼らは情報収集のため数人を先に行かせて周囲の人々から情報を集めようとしていたのである。あらかじめメルビスは彼らと約束事をしていた。一時間に一回、誰か一人を派遣して状況報告をさせに来ること、と。


 刹那、空気が変わった。


 「――――っ!」


 

 ドドドドドドドド!!

 


 地面が地震のように揺れた。


 メキメキと嫌な音を立てながら亀裂が入っていく。本来であればとてつもないエネルギーでないと地面を割ることはできない。しかし、地震ともあれば余裕でそれを可能にする。


 だがそれでは終わらない。ただ地面にヒビが入る、それで済むなら良かった。だが違った。




 誰かが地面の中を進んでいる――――



 そう思っても仕方がないほどに、正確に亀裂が彼らに向かって行った。


 「散開!!!!」


 メルビスの一言で隊列が崩れ、各々が散らばって行く。だが、先頭のメルビスだけは動かなかった。


 「団長ー!!!」


 その時だった



 ドガァァァァァン!!



 メルビスの直前で亀裂が止まり、天高く土が上った。彼は迷わず腰の剣を抜いた。受け継がれてきた名剣を手にした直後、彼は本能的に防御の構えをとる。


 「カァァァン」という甲高い金属音が響く。土煙の中から姿を現した人物、それは――――


 「よぉく受け止めたなぁ!!」


 「ちっ!」


 弾き返し、互いに距離を取る。メルビスは馬から降りて迎え撃つ。


 「銀髪と金獅子の鎧に、でかい斧………『ネメア=オルド』だな?」


 「正解! 俺様が正理機関分派『ネメア=オルド』のリク・ガルベンだ! 死合おうぜぇ!!」


 彼らが探していた人物が、現れたのだ。

 

 「おぉ? なんで俺をそんな目で見つめんだぁ?」


 「それは………貴様が正理機関だからだ!!」


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