第九話 平穏な街
ヘルメスがジュラルを必死に抑える中、ミユもトウマに近寄り安否を確認していた。
「ジュラル殿! よく見てください!」
「トーマ! だいじょぶ?!」
「おろろろろ!!」
現場はもはやカオスと化していた。
ヘルメスはジュラルを力づくで止め、ジュラルはひたすらに暴れる。トウマはその惨劇を目の当たりにし嘔吐。ミユはそれを治そうと奮闘。信者だったものは解放されたが、目の前で四人が繰り広げる多種多様な行動に困惑。
「ジュラル殿! 許せ!」
そんな中、ヘルメスは強行手段に出る。右手を大きく振り上げたのだ。
彼は暴れるジュラルの首に手刀をお見舞いする。もちろん加減はしている。
ドンとぶつかると、ジュラルは先ほどまでの気性っぷりが嘘であるかのように落ち着いた。
「うっ………ふー」
「トーマ、おもしろーい!」
トウマもようやく落ち着いたのか吐瀉物が体外に出てこなくなった。また、ミユもそれを見て安心したのかトウマをからない始めた。
「ふー………どこが、面白いんですか」
「ふふーん! トーマが吐いてるからー!」
「そ、そりゃあ吐くでしょ! だって自我を取り戻したら、目の前で………うっぷ、やば、思い出したら……」
「おー、また吐いちゃう?」
「あんなん……トラウマもの、だろ……」
その場に膝をついていたトウマは壁を支えに立ち上がった。それを確認したヘルメスは解放された市民に伝える。
「もう大丈夫です! みなさんを苦しめた悪人は成敗されました。街の平穏は取り戻しました!」
そういうと皆が歓声を上げた。
ヘルメスはジュラルを脇に抱え、トウマとミユに語りかける。
「脅威は去りました。早めに目的地へと向かいましょう」
そういうとミユは元気な声で返事をしたが、トウマは首を傾げた。
「おや、覚えていないかい? 君はミユ皇女の付き人になるんだ」
そう言われ、トウマは少し前の出来事を思い出した。異世界にやってきたこと。
ギャングのようなものに襲われたところをヘルメスに助けられたこと。
その後にミユと出会い、狂人に襲われて今に至る。
「目的地、ということは宮殿とかに向かうっていうこと?」
「そうだね。今はとりあえず、早くここから立ち去ろう。いい思い出なんて、無いからね」
「さんせいさんせいー! ミユここいやー!」
そう言って三人、いや四人は路地裏をついに出た。だが、通りにはまだ人がいなかった。事件が解決したことを知っている者がいなからであろう。しかし、それも時間の問題。
人の噂は怖いほど早く伝わる。解放された人たちが街へと戻った活気のある街に戻るだろう。
「ところでトウマ、喋り方変わったね」
「―――? ハッ!!」
この都市にやって来るまで、トウマはヘルメスに堅い感じだった。だが、今は違う。友達感覚で話しかけているのだ。
それに気がついたトウマは慌てて訂正しようとしたが、ヘルメスにこっちのほうが良いと言われ、やむなくそうすることにした。
「……で、へ、ヘルメス?」
「どうしたのかな」
「なんで俺をミユ―――じゃなくてミユ皇女の付き人に選んだんだ?」
トウマの右手を握りルンルンに歩いているミユを見ながら言った。
「それは、都市にやってくる前に」
「いや、違う。それも確かに間違ってないけど、本当の理由があるんだろ。俺は別に断るつもりないから安心してくれ」
だが、トウマの内心はただ付き人をして仕事をする、ということではない。ここは王都である。つまり国の要、重要な情報が眠っている。
付き人ととなれば、宮殿に立ち入ることができ現代に帰る方法が見つかるかもしれない、と考えていた。
「実は、僕はこう見えて多忙でね。常に側にいることはできないんだ。でも、かと言ってもう高齢になりつつあるジュラル殿に一任するわけにもいかない。
そんな時だよ。任務の帰りに君の助けを呼ぶ声が聞こえてきた。君を一目見た時に感じたんだ。君ならできるってね」
「なるほどね。まぁ、多忙なのはだいたい予想してたよ」
「そうかい。ところで、かなり打ち解けているね。僕としては少し意外だったね」
そう言ってヘルメスはトウマの隣を満面の笑みで歩くミユを見た。それに気がついたトウマは怒られるのではないか? そう思った彼はあれこれと説明を始めた。
しかし、それを聞いていたヘルメスは怒ることもなくむしろ笑っていた。
「怒る理由なんてないよ。むしろ、それくらいの距離感の方が良い。ミユ皇女も楽しそうだからね」
トウマは少し照れくさそうにした。
そんな中、トウマは話題を変えるべく「そんなことより」と口を開きヘルメスの方を見る。今、彼は小脇にジュラルを抱えている。年老いているとはいえ、彼も男性だ。片手で抱えるのには限界があるだろう。
だが、それよりも気になることがある、それは
「そんな運び方して大丈夫? さっき、殿をつけて呼んでたけど………」
「問題ないよ。いざというとき、運び方は気にするなと言われているからね」
まぁ、魔法で浮遊させ雑に運ぶより扱いは丁寧だろう。そう思って彼らは歩く。そこで今度はミユが口を開いた。
「トーマトーマ! ミユお腹すいちゃったー!」
「えぇっ………俺お金ないしな……そもそも、飲食店がどれか分かんないし。ヘルメス、どうする?」
「腹が減っては戦ができぬ、と言うからね。ちょうど昼時ぐらいだから、昼食をとろう」
だがしかし、人っ子一人いない。廃村の中を歩いているような感覚の中、ヘルメスは店舗を探し始めた。しかし、なかなか見つけることができなかった。
そのためヘルメスは何かを思い出したかのように言葉を発した。
「僕行きつけのおすすめの店を案内しよう」
そう言って彼の案内のもと、残りの三人はとある店の前へと誘われた。
洋風の雰囲気に、純潔を彷彿とさせる真っ白な建物。だが、全体の造りは海外の映画に出て来るウェスタンのような感じである。
「ガンマンが中にいるんじゃ………」
「おぉっ、すごいね。正解だよトウマ」
「えっ……本当に?」
まさか、異世界にもガンマンがいる、そんなあり得ないことがあるのだろうか。
「ここのお店はなにより他店にはない魅力が分かりやすくあるんだ。自分で肉を焼き、食べる、そんな感じだよ。まぁとりあえず中に入ろうか」
「わーい!」
ミユを先頭にヘルメスも中へと入って行く。
自分で肉をって………焼き肉だろうか、と思いつつ外で一人取り残されたトウマは咄嗟にポケットに手を突っ込んだ。
海のように青い表紙の手帳を開き、急いでページを捲る。
(どこかに、俺と同じように転生した人物がいるって書かれてるんじゃ………)
そう思いつつページを見ていく。しかし、どこにもそんな記述は見られない。
(並行世界……その可能性があるかも)
別世界の地球。IFストーリーというのが世の中には溢れている。もし、あのときこっちを選んでいたら。その選択をした世界線が並行世界。
大昔に将来を大きく左右する分岐があり、彼がいた世界とは根源的に違う選択を選んできたのがこの世界なのではないか。彼はそう思った。
つまり、あったかもしれない世界にいる。
しかし、分からないものは仕方がない。
そう思った彼はため息を吐きながら、次の未来を確認する。
「………嘘だ、なんでだよ」
彼は天を仰いだ。
彼の心情としては複雑――――というのが正解だろう。
手帳に書かれていたこと、それは――――
「なんで……店の中でバーベキューするんだよ」
店内でのBBQである。ガンマンといいアメリカの文化がなだれ込んでいる。それだけではない。ジュラルの服装は間違いなく日本の文化を如実に表している。
それらがより一層、トウマを悩ませたのだ。もしかしたら自分は全く別の世界、時空を超えたのではなく、並行世界。
神隠しなどによって、IFストーリーの世界に迷い込んだのではないか?
「トーマトーマ!! 早くー!!」
ミユの言葉が耳に入る。その言葉は先ほど以上に元気で、ウキウキしている声だった。
それを聞いた彼もまた、店内へと足を踏み入れたのだった。店内からは香ばしい肉の香りが漂っていた。
一方街でも、徐々に活気を取り戻しつつあった。




