22.西島
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八月十二日、朝。朝食を食べた後、俺は和室に入った。想像以上に殺風景で、ものというものは布団くらいしかない。壁の役割をなしている棚の中にあって、それ以外に棚には何も入っていない。
俺の家にある和室といえばほぼリビングである。和室というのは畳がある場所。そんな全く中身のない印象が俺の中にこびりついているせいか、この和室という場所が妙に異様な空間に思えてくる。
いや、布団しかないわけではない。壁の方には四つ、絵が飾られていた。変に洋風で、この和という空間に似合わない。左から、りんご、ぶどう、梨、みかん。すべて果物の絵である。和室に飾ってあるということに、何か意味があるのだろうか...?
「何してるの...?」
特に理由はないがドアを開けていたので、今田さんのときと同じように怪しまれてしまった。今回は西島さんだ。この前はものがたくさんある倉庫だったので適当な言い訳ができたが、この殺風景な和室だとそうはいかない。
「ちょっと、来てみたいなって、思ったんです。」
こんなにぎこちない返答があるだろうか?ただ西島さんが不信感を抱いた様子はない。優しい人だ。西島さんはそっか、という言葉のあとに、こう続けた。
「この和室、今ではあんまり使ってないんだよね。今使うことといえばあれかな、祭りのときくらい」
昨日今田さんが言ってた、『集団生活が始まった日を祝う』っていうあれだろうか?和室でやるって、もうちょっと盛大にやるやつだと勝手に思っていたが、意外と部屋の中で静かにやるやつなのかもしれない。そうだ、俺はそれのことで聞きたいことがあった。
「西島さん、これまででいつ、その祭りやってたかってわかりますか?」
祭りの年の差ずつ後へ、やはり祭りを行った年の間隔を知る必要があると思う。しかし、それくらいの推理なら西島さんたちも考えているかもしれない。つまりこんな事を聞くと俺が遺産に興味があると勘違いされるかもしれない。もしくは、西島さんの「解いてよ」という言動を本気にしたと思われるかもしれない。
それに気づいたのはすでにこの疑問をぶつけた後で、もう遅かった。しかし、西島さんは表情を崩すことなく、普通に返答してくれた。
「ああ、うーん。ちょっと全部は覚えてないな...。飯尾さんに聞けばわかると思う、ごめんね」
飯尾さんか。聞くって言ってもいつ聞けば...。「いえ」と少しは絵文字がつくかもしれない返答をした。
「あの絵って、なんでこんなところにあるんですか?和室っぽくないなって何となく思ったんですけど...。」
「確かに、全然和っぽくないよね」
西島さんはずっと笑顔だったが、この時初めて笑った。
「でも、ずっとあったわけではないと思う...。何年か前に誰かが飾ってたんだよなぁ。誰だったっけ。」
途中から飾られた、っていうことは何らかの意味があって飾られたのかもしれない。ただの気まぐれかもしれないし、もしかしたらなにかのメッセージかもしれない。
「でも、一気に四つ飾ってたと思う。あ」
西島さんが何か思い出したような声を上げた。
「どうしたんですか?」
「たしか、あれが飾られた何週間か後に、明訓さんが亡くなったんだ...。」
明訓さんというのは飯尾明訓さんのことだろう。亡くなった、という言葉を言わせたことになんだか罪悪感を感じてしまい、思わずごめんなさいと発してしまった。
ただ、飾られた直後に死んだ。これは何か意味があるのだろうか?まさか、絵を飾った本人と明訓さんがトラブルになり、明訓さんを殺した...?いや、ないない。あまり悪い想像はしないようにしよう。すべて仮定、憶測に過ぎないのだから。
しかし、そうであることを証明するのに証拠が必要なように、そうでないことを証明するのにも証拠が必要だ。だとしたら俺がまず一番気になるのは、明訓さんの死因はなにか?ということだ。病死なら、この仮定は間違っていたことになるだろう。
死因を聞こうとしてしまったが、流石にやめておこう。いくら俺にとって赤の他人の死でも、西島さんにとってはともに生活をする人の死なのだから。
なんだか気まずくなってしまい、今田さんと同じように西島さんはんじゃ、と言い、この場を立ち去った。
迷惑をかけただろうか。ただ、わざわざこの事を掘り返すのも、『死』を思い出させることにつながってしまうだろう。
この部屋には俺一人しかいないのに、何をしたら良いかわからなくなってしまった。部屋に戻ろう。俺は和室を出て、そのまま自分の部屋へ歩き出した。
そういえば西島さんの部屋は和室から結構近くにある。部屋からも物音が聞こえてしまったのだろうか。
『変わらぬものの頭、祭り年の差ずつ後へ』
今、意味がよくわからないのは、『変わらぬものの頭』というところだ。変わらぬもの、もしかしたら今まで守り抜かれてきた文化のことかもしれない。だとしたらそれは、俺が触れてはいけないことだ。
しかし、もし俺が今までずっと触れていたことだったのならどうだろう?もしかしたらすでに、この答えを俺は知っているのかもしれない。
ただ、それを知ることができるのは、この生活にまだ知らない文化、伝統があることを知るように、ここにあるすべての先入観を捨てきった者だけだ。
俺は部屋に入り、ドアを静かに閉じた。
...なんだか、和室もれっきとした日本の文化なんだって、今更思いました。




