21.滝沢
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結局倉庫をさがしても得られたのは『祭り』に関する些細な情報だけだった。現在午後六時、だんだん夜になっていく。
部屋に戻ろうか、と思って廊下を歩き始めると、キッチンが目に入った。いや、目に入ったというか、キッチンの部屋(学校の給食室みたいな感じだ)、からガチャガチャと音が聞こえてきた。そしてその扉から、料理担当である滝沢さんが出てきた。
「あれ海斗、今日もちょっと手伝ってくれない?」
反射的にうなずき、「ああ、はい」と返答をした。滝沢さんが手招きをするので部屋に入ると、そこには給食室らしくない普通の家のキッチンと冷蔵庫がポンと置いてあり、なぜだか小さな丸い机と丸い椅子がいくつか置いてあった。
「今日は久しぶりにシチュー作ろうと思うんだ。ルー作ってるから、野菜切って煮込んでくれない?」
ここに来てから、何回か夕飯の用意を手伝っている。なぜか?実は、こう見えても俺は料理が得意なのだ。それを言う必要も場もなかったので周りにはあまり知られていないが。
玉ねぎ、にんじん...野菜室にはいくつか野菜がしまわれていた。それぞれ一口大に切ってフライパンで煮込む。それだけだ。
手を洗って包丁を握る。滝沢さんは背が高いので、こうやって包丁を握っている自分が小さく思える。外から見ていれば別になんとも思わないだろうが、その場にいるとなぜだか魔女とそれに仕えている者、という童話のような設定にあるように思えてくる。滝沢さんが紫色のエプロンを付けていて、紫色の帽子をかぶっていればよりそう見えると思うが、滝沢さんはエプロンも帽子もしていないし、服も周りと同じで茶色い。ちなみに強要された訳では無いが、なんとなく俺もその茶色い服を身につけている。
パッと見縄文人の魔女とそれに仕えている者。そんな不思議な設定に思わず吹き出しそうになったが、この場の沈黙に意識が無理やり引き戻され、一瞬にして我を取り戻した。俺を現実に戻してくれたのは無論滝沢さんの言葉だった。
「ここにきて、だんだん慣れてきた?」
ここにずっといるつもりはない。あっち側もずっといさせるつもりはないと思う。毎日滝沢さんたちも心の奥底で困惑しているだろう。しかしその時をずっと待っていたらきりがないので、やっぱり自分の力で逃げなければならないと思う。
「慣れてはきました...けど...」
なんと答えたらいいのかわからず、ぎこちない返答になってしまった。それを滝沢さんも察したのか、「そっか」と言うとまた自分の作業に戻ってしまった。さっきからずっと、フライパンに向き合っている。
「そういえば、滝沢さんはずっとこの場所で暮らしてるんですか?」
なんとなくあった疑問だった。思わず言葉にしてしまって「あっ」と声を出したしまったが、もう遅い。返答を待つしかない。
「ずっと、てわけでもないんだけどね。まあ今までの人生の大体はそうだよ。」
「そうなんですか」
滝沢さんを含めてここに住んでいる人全員はあまり怒りっぽい人ではないので良かったが、もし別のどこか、恐ろしい人が集まった場所だったらどうなっていただろう?といいつつ、その『どこか』というものに当てはまる具体的なものが見つからないことに、意外とすぐに気づいた。
それで会話が終わるかと思いきや、滝沢さんはそれに続けてこんな事を教えてくれた。
「ここは、お金のない貧乏人が暮らしてる場所なんだ。昔は結構人も住んでたんだよ、この島。」
貧乏人...?あの人達が...?
「この島の人達は冷たくてね。そのうちまとめて追いやられた私達が、集まって一緒に生活しようなんて言って、ここに住み始めたんだよ。まあそのときは私ももう少し若かった。貧乏人だからって追い出すんじゃなくて、貧乏人だから助けてほしかったなぁ。まあ、貧乏人だから、っていうのもおかしいけどね。昔のことだからもういいかなって自分では思ってるんだけどねぇ。」
貧乏人、か。この島でも、普通のお金の取引が行われて、普通の生活が営まれていたということか。今ではこんなに廃れてしまった、自然にそんな言葉が浮かんでくる。
本当にあれが廃れているのだろうか...?ぽつんとホテルが一つ、それしかないからって廃れてるとは言えない気がする。だって、あれもれっきとした『文明』のようなものだから...。
そんな事を考えているうちに、部屋の中にはいい匂いが広がっていた。
「そろそろ盛ろうか。」
滝沢さんは後ろの碁盤目状の棚から大きいお皿をいくつか取り出した。いや、八人だから八つか。あれ?なんか多いような...まあいいか。パッと見だけでは数なんてわからない。
滝沢さんは炊いたご飯を持って、ルーとかをかけた、完成だ。さっきから冷蔵庫に入れておいたらしいサラダも取り出して、あとはリビングに持っていくだけだ。
二人でリビングに持っていく。料理に加えてグラスと冷茶もあり、リビングで飲み物を用意するのがここでは主流のようだ。
「いただきます」
食べ始めると一日の疲れがなくなる、とはいいつつ、そこまで疲れていないのが現実だ。ただ、美味しいのは事実だ。
いつだって不安と隣り合わせだ。しかし、この人たちがここに住む理由、それがわかっただけで、少し安心感が増した気がする。
八月十一日。こうして、また今日が終わった。
碁盤目状って言葉初めて使いました。




