20.岡崎秀和
お読みいただきありがとうございます。
『本文:
お父さん!どこにいるの?とにかくはやく帰ってきて!
カイもなんか変な場所に言っちゃったとか言ってたけど、お父さんはどんな場所にいるの?特徴だけ教えて!もしかしたらカイもそこにいるかもしれない!』
これが昨日、りんが父である秀和さんにあてたメッセージだ。八月十二日。今日はまた晴れている。
かなり単刀直入な内容であるものの、そこまで内容は気にしておらず、重要なのは秀和さんからの返信だ。第一、秀和さんが生きていることさえ保証されていないのだから...。そして僕たちは、秀和さんが必ず生きていると心のどこかで思い込んでいるようなのだ。
本当に返ってくるのだろうか...?ただ結局最後に電話をしたのはカイに最初に電話を繋いだ日だし、ちょっとだけ時間が経っている。
朝。今日も身支度をして朝ご飯を食べに行く。
「こちらには段差があるのでお気をつけください。」
...気まずい。この地味に広い和室で、僕たち三人だけが食べるのは、かなり気まずい。鳥澤とりんもそれを感じていたようで、二人ともほとんど言葉を発していなかった。
今日の朝食も和って感じのものだった。お米とおでんみたいな具材が小さいお皿に入ったやつと灰色っぽくて茶色っぽいの魚……あれ、そういえば前もほとんど同じ表現をしていた気がする。でもその時より多少語彙が増えたと思う。
ちなみにこの部屋は椅子という椅子がなく、あるのは座布団だ。こんなに洋風っぽいホテルなのに、この場所だけ和風なのかと、今更思った。
「いっただきまーす」
りんはそう言ってまたかぶりつく。この前は「っただきまーす」だったから、その時と比べて「い」が増えていた。そして食べ始めるなり、鳥澤はまたこんな事を言い出した。
「やっぱり、りんか軟いびきかいてるよね」
うそ、言いかけたが、僕にしては朝によく頭が回転したらしい。ここでそんなこと言ったら僕がぐっすり寝ていたことになる。つまりいびきをかいていたのは僕ということになるだろう。そして、鳥澤に同意したら、りんもいびきに悩まされたとすると、僕がうそをついていると見抜かれるだろう。だって、鳥澤がいびきをかいていたとしたら自分から言い出さないはずだし、りんは自分がかいていないことを知っているのだ。いや待てよ、第一いびきをかいていたのが一人という事実がどこにあるのか...?
とりあえず、なんとも言えなくなってしまったので、言葉の通り黙っていた。
「だよねー」
おっと...?りんは鳥澤に同意した、つまり残るのは僕...。鳥澤は視線をこっちに向けた。これはもう逃げられないか...。
「ご、ごめんなさい」
みたいな事を言ったのだと思う。二人はたぶん笑っていた。
今日話したのはたぶんそれくらいだった。実際話すことがないのだから仕方がない。沈黙が苦手な鳥澤でも、これには耐えられたらしい。人間って不思議なものだ。
しばらくしてまた部屋に戻ってきた。今日もあの場所へ行こうかな。いや、正直行ってもすることがないんだ。毎日顔を出していても無意味に思えてくる。
「そういえば軟、今日もカイたち捜しに行くんだけど、一緒に行く?」
りんはそういう。そういえば昨日もそんな事してたんだっけ。
何をすればいいかわからないのが続くよりかはそっちのほうが断然いい。今日はそうしようか。
その時、りんのスマホからピコンという高い音がなった。恐る恐る手を伸ばし、画面を開いた。
「お父さんから返信きた!」
画面を見てそう叫んだ。鳥澤と僕はすぐにそれを覗き込んだ。確かに、秀和さんからの返信だった。
『本文:
大丈夫!無事だよ!
確かに途中まで一緒だったんだけど、いつの間にかはぐれてた...
でも、人はいるんだ。もしかしたらなにか知ってるかもしれない、さがしてみるよ!』
りんと同じように短い文章だった。ただ、その返信があった事に、全員がそっと胸をなでおろした。
いつの間にかはぐれてた、というのはカイのことだろう。人がいる、そのことはカイの話とも一致している。やっぱり二人はインテリトスのところに...?
ただ、どんな場所と聞いているのに、それについては言及していなかった。特に何も知らないが、たぶん焦っていたからだろう。
「じゃあ、行こっか」
鳥澤がそう促す。
これで、二人が生きている可能性がかなり高くなった。あとは見つけ出すだけだ。
なりすまし...なんてことないですよね...。




