第8話 黒い瞳の追跡者
「これで依頼達成か。」
陽太は薬草がぎっしり詰まった袋を肩に担ぎ、王都への道を歩いていた。
初めて受けた依頼とは思えないほど順調だった。
「この転生眼、戦うだけじゃなくて便利すぎるな。」
思わず笑みがこぼれる。
だが、その笑顔とは裏腹に、森の空気はどこか重かった。
ザッ——。
後ろで草を踏む音がした。
「……。」
振り返る。
誰もいない。
「また気のせいか?」
そう言って歩き出す。
しかし数歩進むと、また音が聞こえた。
ザッ……ザッ……。
「絶対誰かいるだろ。」
陽太は近くの木陰へ身を隠し、様子をうかがう。
すると数秒後。
黒いローブを纏った人影が、陽太が歩いていた道をゆっくりと通り過ぎた。
「人……?」
いや、どこか違う。
肌は青白く、耳が人間より少し長い。
何より、その瞳は真っ赤だった。
「見失ったか……。」
男は低い声で呟く。
「確かにこの辺りまで魔力は続いていた。」
陽太は息を殺す。
(俺を探してる……?)
その時だった。
右目が熱を帯びる。
《転生眼 起動》
男を見た瞬間、文字が浮かぶ。
《解析失敗》
照合率不足
「またか……。」
さらにその下へ、新しい文字が現れる。
《危険度:高》
(危険……。)
今までこんな表示は一度も出なかった。
陽太の背中に冷や汗が流れる。
男は辺りを見回しながら、小さく笑った。
「この辺で変異種が消えた。」
「誰かが倒したことは間違いない。」
「だが、姿を見た者はいない。」
男は地面へ手をかざす。
黒い魔力がゆっくりと広がっていく。
「少しずつ探せばいい。」
「転生眼の継承者は、必ず見つかる。」
しかし男は陽太の存在には気付かない。
しばらく周囲を探ったあと、森の奥へ姿を消していった。
「はぁ……。」
陽太は大きく息を吐く。
「なんなんだよ……。」
異世界へ来てまだ数日。
なのに、自分の知らないところで何か大きなことが動いている。
そんな予感だけはしていた。
「とりあえず帰ろう。」
深く考えても答えは出ない。
今は生活することが先だ。
陽太は王都へ向かって歩き始めた。
その頃――。
森のさらに奥。
黒ローブの男は片膝をついていた。
その目の前には、一羽の黒いカラス。
「申し上げます。」
男は静かに頭を下げる。
「変異種を倒した者の特定には至りませんでした。」
『……そうか。』
カラスの口から、人の声が響く。
「しかし、転生眼の反応がこの周辺で途切れています。」
『ならば、継承者は近くにいる。』
「はい。」
『探せ。』
『何年かかっても構わん。』
『転生眼は、必ず我らが手に入れる。』
その言葉とともに、カラスは黒い霧となって消えた。
男はゆっくり立ち上がる。
「承知しました。」
「必ず見つけ出します。」
その視線の先には、王都アルディアが静かに佇んでいた。
一方その頃。
そんなことなど知る由もない陽太は――。
「今日の飯、何食べようかな。」
依頼の報酬で食べる夕食を楽しみにしながら、のんびりと王都の門をくぐるのだった。
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