20:果実酒
エーヴィヒから食事のお誘いやデートのお誘いが有る度に、喜んで逢っていたが、
「ティリアが人前では嫌だと言うから…なるべく見られない様にしているんだ。本当はティリアは俺の女だと知らしめたい…。だが…あぁ…君のこんなとろけた可愛い姿を見られたくは無い。俺だけ見ていて欲しい。ティリア、愛してる。なぁ…色々と俺が我慢している努力を、認めろよ」
色々と…スキンシップが濃厚で…バカップル度がどんどん上がっている。
以前も記したが、恋人とのひとときなんて前世でも過ごした事が無い私は、勿論こんな風に愛されるのは初めて。エーヴィヒに対してどうしたらいいのかも判らず…毎回、慌ててしまう。
私はこれでも前世では身持ちが堅かった。どんな男性に誘われてもお断りし、キスやそういう雰囲気になっても流される事は一切、無かった。奔放な姉弟からは天然記念物とまで言われた程だ。
なのに…エーヴィヒに対してこんなに緩くなってしまうのは…想いを捧げている相手だからだろうか…?
…いやいや、それでも最近のエーヴィヒは行き過ぎている。時々言葉遣いも変わるし。…そこも好きだけど。
そんな日々を過ごしていた。
「エーヴィヒとの婚約の件、陛下の承認が必要になる事は知ってるね?承認印を頂戴するにあたり、拝謁を賜る事となった」
数日してまたも晩餐時に父からとんでもない話が出て、私は恥ずかしい事に食後に飲んでた果実酒をこぼしそうになった。
承認印の捺印は通常、拝謁は無く事務作業扱いだ。
この話は陛下から直接エリン公爵とグルック公爵それぞれに勅命が下されたそう。
想像もしていなかった事が起こったが、よく考えれば陛下は父の兄―伯父―であり、エーヴィヒの実父でもある。エリン公爵は陛下のはとこだ。王室に一番近い公爵…王族の婚姻なのだから、真意の確認が必要なのだろう。
「両家同席での手続きとなる。特に陛下はお前に会いたいと仰られた。お前とエーヴィヒは拝謁日の前後は休暇を必ず取る様に、とのお言葉だ」
拝謁にあたり三日間休め…と。意図が判らないが、公務等その様に調整をした。
幼い私を溺愛…伯父馬鹿だった陛下は、第一王子の嫁にと執拗な程に強く望んで下さっていた。しかしそちらをお断りして、知らなかったとはいえ、もう一人の息子を選んだ私を、どの様に思われたのか…。
今回の休暇について、周囲の者には婚約承認の為とは話をしていない。陛下のご意向によっては、承認却下となる可能性も有るからだ。
前世でも天皇ご一家の親王、内親王のご婚約やご成婚話を何度かテレビで拝見したが…地位を持つと不便だと、つくづく思った。