21:クッキー
執務室でのティタイム。
ベヒューテンが息抜きにやって来ていた。どうにか担当業務が落ち着いたらしい。しかし親友だというのに、私はベヒューテンの担当部署を知らない。…私も転生者だと伝えていないからお互い様か。
「ティリアが急遽、三日も休暇を取得なんて珍しいって、私の部署でも噂になってる」
「あら、別に珍しくないでしょうに。誰だって休暇くらい取得してるじゃない?」
お菓子を勧めながら、ベヒューテンのカップにおかわりを注ぐ。今日は甘い香りのストロベリーティだ。
「それは取得者がティリアだから噂になるんだよ。貴方が休暇を取る場合、遅くとも一カ月前迄には申請して、突発的な休暇は体調不良くらい、でしょ?」
確かに私は余り身体が強くないし、耐性も弱い。頑張り過ぎたりストレスが溜まると体調を崩す。それは前世も同じで、前世での一番の悩みは体調だった。医療機関に相談しても、書籍やネットで調べたり努力をしても、この体調の不安定さは解消出来なかった。
ベヒューテンは、ん~美味しい!とクッキーを頬張りながら話す。いつも美味しそうに食べてくれるので、今回も作った甲斐が有った。
「しかも騎士団の方でも、エーヴィヒが同期間で休暇申請してるみたいだし?」
にやにやした表情で私の顔を見て言う。
「ベヒューテン、何で騎士団の情報なんて知ってるの?貴方、人事関係の部署に所属だったの?」
「あ~、似て非なる部署だけど、そっちも噂。エーヴィヒは仕事大好き人間だから、三日間も急な休暇申請なんて、おかしいって。この間、倒れたのにも関係有るんじゃないのかって噂」
「体調については大丈夫よ。元気過ぎる位だわ。…噂って凄いわね。対象や内容によっては諜報に使えてしまうわ。…何が大事な情報に繋がるのか判らない人も王城にはいるみたい。改めて周知しなくてはいけないわね」
先の方で記し忘れていた。エーヴィヒが忙しくしていたのは、新設される騎士団長に任命される予定だからだ。何故、予定という表現かというと、先ず内示され、様々な準備に追われ、その後に正式な任命式が行われるからだ。騎士団新設については広く開示されておらず、私はエーヴィヒ本人から聞いていたから知っていた。国防を担う騎士団の新設と新団長…。他国、特に敵対国にとっては重要な情報になりえる。その事をふっと、思った。
「そうだね。…ティリアも凄いね、今の話でそこまで考えを巡らせるなんて。本当にこの国を大事に思っているんだね?」
ベヒューテンはもぐもぐと今度はチョコタルトを食べている。…違和感?
「貴方だって侯爵家の一員じゃない。私は公爵家の者だし、何より自国の事だから大事よ。何が外交に関わる話になるか判らないもの。国民性として、大らか過ぎる部分と厳しい部分の差が激しいから、ちょっと心配になっただけ」
「ふ~ん…?いずれにせよ噂だろうが何だろうが、情報開示については対策を考えないとね…私の方でも練ってみるよ」
あ~、美味しかったと、ベヒューテンはにこにこしている。
「いずれにせよエーヴィヒは過労だろうな。…所でティリア、貴方は体調に変化は無い?」
「体調?」
「そう。この間のエーヴィヒが倒れた事といい、少し気になる事が有って」
前世の夢を頻繁に見ている事が少し脳裏を過ったが、
「いいえ、特には」
「…本当に?」
「体調は問題無いわ、元気よ」
嘘ではない。強いて言えばエーヴィヒの私に対する愛情表現が激しくなっているので、そういった意味では悲鳴を上げてはいるが。
「なら、良かった。貴方もこれから一段と忙しくなるのだから、呉々も無理せずに。御馳走様。そろそろ戻る」
ティリアとのお茶は、本当に最高!幸せだ~と満足そうに微笑むベヒューテン。
「ベヒューテン、貴方も無理しないでね」




