表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/46

1-11


 降雨の少ない、常春の国。

 陽だまりにいるとすぐにあくびが出てしまうくらい、のどかな国。

 かつてそんな穏やかな日々を脅かした魔王がいたなんて誰が信じるのだろう。

 魔王から平和を取り戻したこの国の英雄は、城のなかでいちばん日当たりのいい中庭にいると、すぐ眠たそうに瞼をこするのだった。


「あー、楽しかった。久しぶりに大声をあげて笑ったな。あいつら、ちゃんとは言わなかったけれど、気を遣ってくれたんだよな」


 隣で膝を抱えて座ったアイは、大きく頷いた。


「皆さま、あるじのことが大好きです。ぼくはあるじが楽しそうにされている姿を見て、とても、えぇと」

「うれしい? かな」


 言葉に詰まるアイに、アルトールは助け船を出す。


「はい。うれしい、です」

「アイは喜怒哀楽でいうと、『喜』と『楽』が強めだな。ルーハは『怒』と『哀』が強めだ。ウゥルも、程よく混ぜてやればよかったのに」

「きどあいらく?」

「いろんな感情のことだよ」


 ぽん、ぽん。アルトールがアイの頭を撫でた。


「徐々にいろんな感情を身につけていくといい。それがアイの力になる」

「ぼくは、あるじに頭を撫でてもらうのが、うれしい、です」

「それはよかった」


 アルトールは照れくさそうにして、空を見上げた。

 ふと、アイは地面に視線を落として、咲いている小さな花に触れた。


「あるじ、ルーハに花を飾ったみたいに、ぼくにも花をください」


 それは純粋な望みだった。

 アイとルーハは、盾と剣として、アルトールの一対の武器だった。ルーハが手に入れたものは、真似ではないけれどアイも倣いたくなる。


「それなら、とっておきのお守りをあげよう」


 少し考えてから、アルトールは首に提げていた指輪のネックレスをアイの首にかける。


 それは、女神のお守りのひとつ。

 この国を創造した女神は、みっつの宝石を人間に授けた。


 紅玉。翠玉。そして、蒼玉。


 女神の力の一部が閉じこめられた美しい宝石は国が国であることを永遠に保証する。

 蒼玉は長い間行方不明となっていたが、王都を離れた女神が自らの子孫に密かに継がせていた。美しく輝く蒼玉の嵌めこまれた指輪を持って登場したことで、アルトールは女神の血を継ぐことを証明されたのだ。


 アルトール以外が持っていてはいけないものだということはアイにも理解できる。だからこそ理解ができなかった。

 触れることもできずに慌てる。


「こ、これは、女神さまの! いいんですか?」

「この前一緒に抜け出してイザードに怒られたお詫びも兼ねて。また一緒に抜け出して、アイスクリームを食べに行こうな」


 アルトールは人差し指を自らの唇に当てて、片目を瞑ってみせた。

 そんなアルトールに、アイは力一杯頷くのだった。


「はい!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ