九話 魔法少女は税金で殴り合うっ ※サブタイトルと内容は全く関係ありません
そもそも魔法少女演武のルールを説明しておいた方がいいと思う。
魔法少女演武はその名の通り魔法少女が魔法でぶん殴りあうバトルである(ちなみに賭博もあるよ!)
魔法少女の武器・攻撃はグリムバグにしか効果がないので、魔法少女の体に直接ダメージを与えることはできない。なので、魔法少女演武が行われる際にはダメージカウンターというものを装着する。これにより魔法少女の攻撃が視覚化され、勝敗を競うことができるようになる。
魔法少女の体力は1000、これを十分間のバトルで削り切ったほうが勝利となる。決着がつかなければ体力が多いほうが勝ち、残り体力が同じなら魔法少女序列が低いほうが勝利する。例えば残り体力が500ずつで時間切れとなり、序列20位と30位の魔法少女が試合をしていた場合は後者が勝利するのだ。
と、これが魔法少女演武の簡単なルールである。細かいところだと、常に空を飛んでいないといけないとか、最大火力と使用魔力量が決まっているなんてルールもあるけど、それはおいおい。具体的には試合が始まったときにでも。
「それじゃ、まずはフレア・バレッジのお手本を見てもらおうかな」
夕日先輩がパソコンをいじる。
「これって……現役の頃の夕日先輩ですか?」
「そうだよ。若いね、私」
こそばゆいというように夕日先輩が笑う。画面に映るのは魔法少女演武に挑む魔法少女レイヴァテインの姿。引退前は史上最強クラスの近接攻撃型魔法少女として歴史に名を刻んでいた魔法少女だ。レイヴァテインは燃えるように紅いレオタードタイプのコスチュームに身を包み、その身を焦がしかねないほど燃え上がる炎剣を携えていた。
試合が始まる。と同時にレイヴァテインはその場でコマのように炎剣をぐるりと一周回す。すると、無数の炎の飛礫が出来上がる。高温の炎は周囲の空気を歪めながらレイヴァテインを中心に球状に広がる。まるで無数に浮かぶ鬼火のよう。
「こうして作った炎を身に纏っていれば相手の遠距離攻撃を受けないってわけ」
開始早々、相手の魔法少女がキラキラ輝くいかにも魔法少女なビームを放ってくる。しかし、それは炎を纏うレイヴァテインを前に無力で白煙と共にかき消されてしまう。相手が驚く暇もなく、一気に距離を詰めたレイヴァテインは炎剣を一閃。一気に200以上の体力を持っていった。
「ね、こういう風に戦えば勝てるから」
「簡単に言わないでくださいよ……あんな高度な魔力制御できないです……」
魔法少女に必要な要素の一つとして魔力制御があげられる。魔力制御はその名の通り魔力をコントロールする力だ。これが優れていればいるほど魔法を自由に使える。しかし、運動神経と同じように魔力制御には努力ではどうにもならない壁がある。あたしには自分の体を中心に球状に炎の飛礫を展開させることなどできない。
「なんで?」
「いや、素でなんでって言われても魔力制御値が夕日先輩の――レイヴァテインの半分もないからですよ」
「えっ? そうだったけ?」
「そうですよ……」
魔法少女レイヴァテインは「史上最強クラスの近接攻撃型魔法少女」だったが決して「史上最強クラスの魔法少女」ではない。それはなぜか。魔力制御値が平均より低いからである。そもそも魔法少女なのに近接攻撃をせざる得ないのは、ビームを撃ったりといった遠距離攻撃が苦手だからだ。もちろんできないわけではない。しかし、魔力制御値が高い魔法少女と比べると威力も射程も何もかも劣る。
「レイヴァテインは40、それに対してクリムゾン・レッドは28だな」
「低っ、えっ、低っ」
お水博士が教えた具体的な数字に夕日先輩が露骨に驚く。いくらなんでもそれは傷つきますよ……
魔力制御値は50を平均とし自分を中心とした半径何メートルまで有効に魔法を使えるかで決まる。40という平均よりやや下くらいの魔力制御値を持つレイヴァテインならフレア・バレッジの展開は問題ないが、あたしだと無理。そもそも炎の飛礫の大量展開ができない。
「でも魔力の絶対量は変わらないから無駄遣いすれば似たような感じでいけそうだけどね……」
そう、魔法を使う上で重要な魔力自体は誰もが持つものなのだ。究極的には50近い脂ぎったおっさんでもなれる。いや、政府がさせないだろうけど。需要ないしキモいし。死ね。男は死ね(あれ? レズっぽい?)。余談だが魔力制御は十代の少女が一番優れているとされる。だから魔法少女が生まれた。
とにかく、細かい制御は捨てて展開してみましょってこと。
屋上に来たあたしはさっそく変身する。キュルリン☆なんて効果音が付きそうだが現実ではただコスチュームになるだけ。なんの味気もない。そもそも魔法少女もののアニメだって変身シーンよりお風呂シーンのほうが需要あるっしょ? ねぇ、オジサン?(誰だよオジサンって……)だから変身シーンは一秒未満。即変身。エロくない!
「それじゃいきます」
「頑張ってー」
やややる気のない(やが連続して三つもあるよ)夕日先輩の声に押し出され、ふわりと空に浮いたあたしは魔力を燃やして炎の飛礫を展開する。
「出でよ」
炎剣を握りしめぐるりと回転させる。すると、十数個の炎の飛礫が出現した。しかし、数はともかく大きさはバラバラで魔力制御値の低さがうかがえる出来となってしまった。
「展開」
炎の飛礫があたしを中心に球状に広がる――が、周囲を覆うには十分な数の飛礫にも関わらず穴だらけの弾幕となってしまった。
「これは……」
「ひどいね……」
夕日先輩が苦笑いしながら言う。まぁ、あんまり笑いごとじゃないんだけどね。
そんなわけで特訓が始まりました。てか、今回ギャグ少ないね。次で特訓も終わるから十一話からそっち方面に期待してくださいっ!