№4
「なあ、その技で俺のひしゃげたヤツも治せるんとちゃうか?」
「お前はそのままの方が相応しいぞ」ベイビードールは面倒臭そうに言った。
「え、ほんまかい?!」
その時、またもう一人別の客人が来た。
「あれ? 見慣れない顔ぶれが沢山いるね」
クリス・ブランフォードだった。彼はどうして自分がここにいるのか分かっていないようで、首を傾げていた。
「今日は本当に来客が多いな……。色とりどりだ」
ベイビードールは疲れた様子である。
「べビィー……。あっちの意味で言ってないよね、あの……肉の意味で」
「肉? 一体何のことだい?」
「甘いのう、クリス」
クリスはばっと振り返った。「フローラ様?!」どうしてここに、と言いたげだ。
「世の中には知らなくてもよいことがあるのじゃよ」
フローラはくっくと笑う。
「まあ、確かに……」
「その通りだ」
そう言ってやって来たのはジュダだった。
「ベイビードール、まだそんなものを食って鋭気を養っていたのか?」
「人の味は甘美なる喜び」
ベイビードールはうっとりとするように言った。
「人の味は腐った肉の味」
「スノー、いい事を言う」ジュダはフッと笑う。
「やったね」
ジュダとスノーはハイタッチをする。すると、フローラはそれを鼻で笑った。
「愚か者。そのようなことで喜ぶでない」
「人の味って、まさか……」
クリスは青い顔をして言った。とてもじゃないが、玲たちに聞かせられる話ではない。
「大丈夫だ。よほどのことがない限り、食べはしない」
「食べなかった分は、豚のえさ場に捨てていくんだ」スノーはベイビードールの話を補足した。
「あぁ、あそこか」
ジュダは、そのえさ場のある場所を思い出したらしい。
「中々物騒な話をしているじゃない。ねえ、鈴?」
「そうだね。ちょっと興味あるかもね」
玲と鈴はくすくすと笑った。暗い瞳だった。
「二人とも、人格が戻ってるよ……」
クリスが二人に声をかける。すると、彼らははっとして言い繕った。
「―――なんて、嘘に決まってるだろ? なあ、玲?」
「そうよ。冗談なの」
玲は肩を竦めた。これが最高のジョークだと言うかのように。
ベイビードールは淡々と双子に告げた。「そう誤魔化さずともよい。お前たちは自分を思い出さねばならぬ」
そう言うと彼は石像を直した時と同じように、彼らに『自分』を思い出させようとしていた。ちょうどその時だった。
「待てっ、その双子に危害を加えるな!!」
「やあ、クラウド!」
スノーはぱっと表情を明るくする。
「別に……危害を加えようとしたわけではない。彼らに自分を思い出させることの、何が悪いというのだ?」
ベイビードールは興が削がれたのか、クラウドたちから離れて行ってしまった。
悔しい。憎い。苦しい。ここはどこだ? どうしてこんなに息苦しいんだ。思い出さなければならない何か。僕らはきっと、何か大切なことを忘れている。苦しい、苦しい、苦しくて仕方ないんだ。
「僕(私)たちは、鈴なんだよね?」
玲と鈴。二人で一人の存在。僕(私)たち共通の名が『鈴』。
「―――ストップ!! 止めろ!!」
スノーが大声で双子にどなった。彼の口調は真剣だった。
「自分自身を見失うなよ。べビィーの言葉に惑わされちゃ駄目だ」
「惑わされる? そんなこと、ないよ」
鈴は乾いた笑い声を上げる。「おかしなことを言うね、君」
「これが本当の私たちなのよ」
すると、今まで黙っていたクリスが口を開けた。
「君たちは、あの日のことを覚えているかい?」
「………あ」
「あの日、君たちは大切なことを学んだんだろう?」
『人を殺すなんて言葉は軽々しく言うものではないよ。誰かがいなくなるということは、誰かが悲しむことに繋がるんだ』
「クリス兄……ごめん」
「ごめんなさい……」
クリスは項垂れる二人の頭を軽く小突くと、「もう忘れちゃいけないよ」と言った。二人は強く頷く。
「ふん。お前たちにとって人の死というものは悲しむべきものかもしれん。だが俺のような無幻の者にとって死というものはただの息抜きに過ぎぬものだ。つまり、死んだら生き返らせれば済む話だ」
やや遠くから、話を耳にしたのだろうベイビードールがそう吐き捨てた。ジュダは彼に一瞥をくれる。
「お前は無幻の力をいいように使って命の尊さを忘れている。だから、死ぬことがどんなに悲しくて辛いことなのかが解らない。苦しむことを知らない。そんなお前はただの化け物だ」