再会
落葉しては桜の紅葉が積もる歩道を一人の男性が歩くも、乾いた落葉を踏む音は響かなかった。
音だけではない。
確かに桜の落葉を踏んでいるにもかかわらず、落葉に踏まれた跡が微塵も残っていなかったのだ。
下駄を履いている外見年齢三十代の男性は軽やかに歩き続ける。
時折秋風に飛ばされそうなカンカン帽子のつばをつまみ、編み込んでいる真紅の前髪に時折触れて、猫のように愛嬌のある目を弧に描き、羽織るように身に纏う赤地に菊模様が散りばめられた着物を揺らめかせ、鼻歌を奏でながら、まるで天空へと駆け上がるように歩き続けて、ふと、足を止めて、満面の笑みを浮かべて片手を上げて大きく振った。
「おっひさしぶりだねえ。東雲ちゃん。今日も相変わらず全身全霊息が詰まりそうな恰好をしているねえ」
漆黒のベリーショートの頭に突風でも物ともしないと言わんばかりに漆黒のマリンキャスケットを深く被りつけ、ハシビロコウのように鋭い目つきをますます剣呑なものにさせ、あらゆる物体を撥ねのけそうなほどの頑丈な漆黒の詰襟服と革靴を身に着けている外見年齢二十代の男性、東雲へと。
「おまえは相も変わらず軽く息を吹きかけるだけで遠くまで吹き飛びそうな恰好をしているな。死神」
「まったく。いつになったら僕の名前を口にしてくれるのかな。君は」
「一生口にするつもりはない。行くぞ」
何事にも惑わされない芯の通った声音で言ったかと思えば、背を向けた東雲。相変わらずツレナイなあと口を尖らせては、飛び跳ねるように歩を進めて、東雲の横に並んだ男の名は曙。死神であった。
「ちゃんと血を飲んできたようで安心したよ。これから魔物を捕縛しにいかなくちゃいけないからね。また貧血で倒れられたら困っちゃうしね」
「………安心しろ。二度目はない」
「そうだよね。君はとっても優秀な吸血鬼だもの。同じ轍は踏まないよねえ」
ますます弧を描くように目を細める曙を横目で一瞥しただけに留めた吸血鬼の東雲。口を閉ざしたまま歩みを続けるのであった。
(2026.10.28)




