第11話 妖魔
緋色は初めての雅楽クラブの活動に胸を膨らませているが...
放課後。
緋色は器楽教室にいた。
今は16:54。
だいぶ時間がある。
せっかくならもう琴を弾いてしまおうと思い、後ろの棚から琴セットを取り出した。
琴をセッティングし、爪をはめて。
高校の邦楽部で練習中の曲を弾いた。
あぁ、心が安らぐ。
神力を制御するとはこういうことなのだろうか。
すると...
どぉぉん
鈍い爆発音のような音が聞こえた。
近くにいた先生は爆発音のした方へ走っていった。
何があったのだろうか。
窓から爆発音のした方を見ると、運動場に妖魔が溢れていた。
どうしてこんな事になっているんだ?
すると実花先生が器楽教室に駆けてきた。
「大丈夫で?」
「はい、問題ありません」
妖魔達は学校内に散っていっている。
運動場にいた生徒のうち処理できる人は処理しているが完全に追いついていない。
<ぴーんぽーんぱーんぽーん>
ついに放送だ。
<先ほど訓練所倉庫で術で封印されていた妖魔が全員解放されてしまいました>
<身の安全を最優先にして行動して下さい。>
<先生方は生徒を安全な場所へ避難させて下さい>
ここは最上階なので下にいる先生方が止めてくれるので来ることはないだろう。
すると、
ゴオオン
今いる特別教室棟2が激しく揺れた。
地震のような激しい揺れが起きた。
棚においてあった楽器が床に大きな音を立てて落ちた。
「物が落ちてくるから机の下へ!」
実花先生が大きな声で呼びかけた。
器楽教室にいた雅楽クラブの人は全員机の下へ隠れた。
ゴオオン
再び轟音とともに激しく揺れ始めた。
一体何が起きているのか。
キィィィィィィン
緋色は激しい頭の痛みに襲われた。
あの時のような...苦しい...
空は白く染まってしまった。
頭の痛みは止まらない。
ゴオオン
次の瞬間。
窓の外から長い手足の生えた妖魔が姿を表した。
これまでの揺れは妖魔が壁を登ってきたせいで起きたんだろう。
「苑くんの神力でなんとかできないの!?」
後ろからクラブ員の声が聞こえた。
「神力制御がまるで無理!」
「琴の音でうまく行ったことはある!?」
「試したことない!」
「じゃあ今試そう!」
激しい揺れの中、その人は立ち上がり、床に落ちていた琴を大急ぎでセッティングした。
こんな状況で初めて琴の音の神力制御を試すなんて無茶だ!
「弾くよ!」
あー!もうこうなったらどうなってもいいから術を展開させたるわ!
「展開!」
巨大な妖魔の周りに結界が張られた。
次は滅...滅だ...
うまくいく気がしない...
その時、耳に透き通った琴の音が響き渡った。
視界は一気に真っ白になった...
緋色は真っ白でまっ平らな地面の世界に立っていた。
またこの場所。
ずっと遠くに人影が見えた。
きっと無葵校長だ。
緋色は走っていった。
だが走っても走ってもなかなか無葵校長のもとにたどり着かない。
疲れ果てて立ち尽くしたその時。
右側から大量の水が流れ込んできた。
あまりにいきなりのことだったので、緋色は後ろに飛び退いた。
左側を見ると巨大な板が水の行く手を遮っている。
<これが今の君の状態じゃ、苑。>
無葵校長の声がはるか遠くから、だが確かに届いた。
<神力を、神力を、と意識していたら心に大きな板が生まれてしまう。>
だが制御するには神力について考える必要があるはずだ。
<そう考えているからだめなのじゃ>
心を読まれた。
そうだ、無葵校長は心が読めるんだった。
<神力は君の思っている以上に頭は良い。>
つまり?
<神力に委ねればよいのじゃ>
神力に...委ねる...
<心をいつもオープンにして、何事でも受け止めようとする姿勢が大切じゃ。>
なんとなく分かった気がした。
すると水の行く手を遮っていた板は消え、水はまた勢いよく流れ始めた。
<それでいいのじゃ、きっとうまくできる>
意識は一気に戻り、緋色は器楽教室に立っていた。
依然妖魔は結界に閉じ込められている。
さっき意識が落ちてからあまり時間は経っていないようだ。
琴の音は流れ続けている。
心を空っぽにして、神力で満たすイメージ。
よし、できる。
「滅」
ゆっくりと手を握った。
一瞬のことだった。
巨大な妖魔は結界の凝縮に巻き込まれて...
消えた。
成功した。
あまりにあっけなかった。
ただの意識の問題だっただなんて。
でも重要な学びだった。
そう思った緋色は、
意識が抜け始め、
倒れた。
◇
また同じような光景だ...
神力度数測定の時の保健室のよう。
だが、前回のように先生方集結ではない。
でも想志はいる。
「また無理したな...」
想志は言った。
「無理したわけじゃない、うまく行ったんだ」
緋色は事実を言った。
でも実際保健室に来ている。無理(?)したのかもしれない。
コツコツコツコツ。
ハイヒールの音?
なんか嫌な予感。
「苑緋色」
あぁ...
美鶴代先生...
想志は美鶴代先生が保健室に入ってきた瞬間、後ろに飛び退いた。
緋色は重い体を持ち上げながら言った。
「どうして何かあると美鶴代先生は来るんですか...」
「GからLクラスの主任です。やってくるのは当然でしょう」
あぁ...クラスに外れたんだな...
緋色はそれを聞いて絶望の顔をしたので、美鶴代先生は小声でなにかグチグチ言った。
「まさかこれがあなたの始まりになるなんてね...」
少し間を開けて美鶴代先生は口を開いた。
「まさか危険度Qクラスの妖魔を倒すなんて...」
美鶴代先生は頭を抱えた。
なにがそんなに問題なのか?
「明らかに飛び級レベルなんだよ、ひい」
「飛び級でなにか問題があるのですか?」
「全くもって陰陽師社会について知らないのね...」
美鶴代先生は更に深刻な顔をした。
「全く基本を学んでいないあなたが飛び級しても何の意味もないのよ。」
確かに。否定しようがない。
「この前の実技で危険度Zクラスも倒せなかったのにここまで大躍進なんてなにか勉強したんですか?」
「何も勉強してません。無葵校長にちょこっとコツを教えてもらっただけです」
「校長!?」
美鶴代先生は天地がひっくり返ったかのように目を丸くした。
「ちょっと、話を聞いてきます!こんな事があってはなりません!」
美鶴代先生はすごい勢いで保健室のドアを開けて出ていった。
「本当に無葵校長が教えてくれたのか!?」
想志は興味津々で聞いてきた。
「正確に言うと真っ白な世界に飛ばされて、そこでこれまで2回ぐらい無葵校長に会ったんだ。」
「えー。なんかすごいな。無葵校長はひいに特別な思いを抱いているのか?」
「何そのボーイズラブみたいな言い方、やめてくれよ」
「あ、そういう意味じゃなくてね、こいつすごいんじゃないかっていう思いね」
すると緋色の目の前の窓からすぐ外を誰かが歩いているのが見えた。
それは無葵校長だった!
緋色が自分に気づいたことを悟ったようで、無葵校長は人さし指を口の前に持ってきた。
そして無葵校長はウインクして、その場を去った。
無葵校長が優しいと先週の土曜日、校長室に入ったばかりの自分に言っても信じてくれないだろうな。
その後、保健室にいれるだけの時間いた二人は、保健室を出て駅へと向かった。
きっと保健室に美鶴代先生が戻ってこなかったということは、無葵校長は散歩兼逃走をしてたんだろう。
◇
翌週の土曜日。
緋色がQクラスの妖魔を倒したことにより飛び級対象になったことは学校中の噂になった。
高校よりも面倒くさいことになってるじゃないか!!
朝の時間、想志は飛び級をするのか聞いてきた。
「いや、しない。おえらいさんごっこはしたくないんだ」
それを聞いていた自分のクラスの人たちは騒がなくなったが、それを知らない耿李たちは負けた悔しさからものすごい目でこちらを見てきていた。
勝手に憎めばいい...
◇
制御が常にできるかと言うとできなかった。
栄西先生の授業の際、基本陣を出すのに大失敗したのだ。
本当にQクラスの妖魔を倒したのか?と周りから言われたが別に問題はない。
高校より騒がしくなければいいのだ。
やっぱり自分には琴の音が必要なようだ。
こんにちは、ヤサイローリングです!
今日はついに!
緋色が覚醒しました!(祝)
これが本当の苑緋色覚醒編な気もしますが(笑)
無事覚醒できてよかったです(私が書いているくせに)
次回もお楽しみに!
(次回は銃撃の過激な描写があります。苦手な方はお控えください。)




