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【書籍化】影魔法使いは悪役かませ犬のままで終わらない  作者: くーねるでぶる(戒め)


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017 シャーロット・カチドニア

「もー!」


 わたくし、シャーロット・カチドニアは、ベッドの上でくらくらする頭を左手で押さえながら、宙に向かって右の拳を突き出しました。


 ずっとモヤモヤした気持ちが胸の中で燻っています。


 わたくしの頭に浮かんでくるのは、黒髪黒目の不遜な笑みを浮かべる少年です。


「エドワード・オールディス……!」


 威圧したわたくしをかわいいなどと嘲った少年。


「他の二人は怯えていたのに……」


 わたくしにはエドワード含めて三人の婚約者候補がいましたが、他の二人はわたくしが威圧したらタジタジだったし、わたくしの魔法を前に手も足も出なかったのに。


「魔法……」


 エドワードの魔法は……なんだかよくわからなかった。


 最初の魔法は、たぶんブレッドの魔法だと思います。


 でも、目で見ることもできないほど速いのは驚いたけど、それだけだと思ったのに……。


 気が付けばわたくしの自慢の盾が引き裂かれるように破壊されていた。


 それだけでもショックだったのに、エドワードは私を傷付けないように壊すのは面倒だったなどと宣ったのです!


 そう。わたくしは、手加減されていたのだとその時初めて知りました。


 信じられなかったし、信じたくなかった。


 わたくしは、救国の聖女シェリルおばあ様の孫なのよ! そのわたくしに向かって、手加減⁉


 許せなかった。その傲岸不遜な態度を謝らせてやろうと思った。


 だから、最初に氷の盾を作った時よりももっと魔力を込めて、限界まで魔力を込めて氷の盾を作ってみた。


 わたくしの最高傑作だった。


 壊せるものなら壊してみなさいと言ってやった。


 それなのに……。


「なんなのよ、あれは⁉」


 わたくしは全身の悔しさを表現するようにベッドの上でジタバタする。


 王女である身ではしたないのはわかっている。けど、こうでもしないと発散できない!


 エドワードの放ったその魔法は、わたくしには見ることもできなかった。


 でも、わかることはある。


 わたくしの氷の盾は木っ端微塵に砕け散り、その向こうにあった壁や木々まで粉砕したということ。


 もし自分が盾の向こうにいたと思うとゾッとする光景だった。


 悔しいけれど、エドワードが手加減していたという事実を認めなくちゃいけない。


 その事実がものすごく悔しい!


「もー!」


 手足をベッドの上でジタバタさせる。


 悔しい! 悔しい! 悔しい!


 わたくしは、救国の英雄、シェリルおばあ様の孫なのよ!


 絶対に負けちゃいけないのに!


 ……負け?


 そっか。わたくし、初めて魔法で負けたんだ……。


「くーっ! もー! なんなのよ、あいつ!」

「姫様、はしたのうございますよ?」


 ベッドの上でジタバタしていたら、いつの間にかお付きのメイドのフランシスが困った顔をしてわたくしを見下ろしていた。


「なんなの、あの非常識な魔法は! しかも、わたくしは魔力を全部使ったのに、あいつはぜんぜん疲れてもいなかった。まだ余裕があったのよ? こんな屈辱、初めてだわ!」


 フランシスはわたくしの乳母として、生まれた時からわたくしのお世話をしてくれている。わたくしにとってはそれこそ第二の母親のような存在だ。


 そんなフランシスの前だからか、わたくしはまるで駄々をこねる子どものようにジタバタを再開する。


 母上の前ではこんなことできないけど、フランシスの前だとできてしまう。


 フランシスがわたくしのメイドだからというのもあるけれど、そういう意味では、実の母親以上に甘えられる存在だ。


「そんなにお嫌でしたら、今からでも婚約破棄すればよろしいではありませんか。未だ口約束だけの状態です。正式に婚約が決まる前でしたらいくらでも――――」

「それはダメよ。フランシスも見たでしょう、あの魔法を? あれは絶対に王家で繋がりを持たないと!」


 それに――――。


「わたくしの、王族の言葉はそんなに軽くないの。一度口にしたことは守らないと。信用がなくなってしまうわ」


 そう。わたくしは王族。王族ならば、国のために尽くさなければ。そのためにわたくしは生まれてきた。


 例え、婚約者に不満があろうとも、それを飲み込む度量が必要なのでしょう。


 頭の中にまたあの黒髪黒目の傲岸不遜な笑みを浮かべたデブの姿が浮かびます。


「あ~~~~~~~~!」


 わかってはいる。頭ではわかってはいるの。エドワードの力は国のために必要だということは!


 他のどこかの貴族と婚姻を結ぶ前に、王家で確保できたことは幸運だということも!


 でも、だからってあんな性悪そうな少年と婚約することになるなんて……。


 わたくしって、そんなに悪いことしたかしら?


 今まで、王族として恥ずかしくないように振る舞ってきたつもりだ。誰かを故意に貶めたこともなければ、誰に対しても公平に接してきたつもりなのに……。この仕打ちはあんまりよ……。


「はぁ……」


 わたくしは諦めるような溜息と共に考え方を変える。


 エドワードとの婚約は、本当は癪だけど仕方がない。


 ならば、エドワードをわたくし好みに変えていけばいい。


 その手始めとして痩せるように命じてはみたけど……。従ってくれるかしら?


 わたくしは不安な気持ちを飲み込むと、ベッドから起き上がったのでした。

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